高級ホテル、7割引きも~格安プランで「自粛」打破へ
「応援消費」盛り上がりに期待
東日本大震災以降、予約のキャンセルなど大きな打撃を被っている観光業界で、割安な料金プランや情報発信の強化によって需要を喚起しようという動きが広がってきた。「経済活動の過度の停滞が長引けば、被災地支援に回すお金も生まれない」と、業界は「応援消費」の盛り上がりに期待している。
50~76%引きで泊まれる
リクルートが運営するクーポン共同購入サイト「ポンパレ」は、国内総合宿泊予約サイト「じゃらんnet」と共同で「おでかけ応援キャンペーン」を始めた。全国約100の宿泊施設が協力し、割引幅が50%から76%という大幅に安い宿泊プランを提供している。サイト上には横浜ロイヤルパークホテル(割引率76%)、東京ベイ舞浜ホテル(同50%)、軽井沢プリンスホテル(同50%)など、高級ホテルがずらりと並ぶ。
ポンパレの前沢隆一郎編集長は「震災後の消費の落ち込みを肌で感じている。過度な消費自粛が社会的な問題になるなか、旅行需要のカンフル剤として企画した」と狙いを説明する。横浜ロイヤルパークホテルのクーポンは21日までに1万枚売れたという。前沢編集長も「1万枚は旅行商品として初めて」と効果に驚く。高級ホテルが格安料金で宿泊できるとあって、消費者の心をくすぐるのに十分な効果があるようだ。
顧客の望む料金とのミスマッチも
震災以降、企業や個人の消費活動が大きく落ち込んでいる。特に観光・旅行業界への打撃は深刻だ。JTBがまとめた今年のゴールデンウイーク(GW)の旅行市場見通しによると、1泊以上の旅行(海外含む)に出かける人は1609万人と前年比で27.6%減る。震災の影響で旅行を手控える動きが広がっているとみられ、減少率は調査の比較が可能な1990年以降で最大になった。
こうした事態に、静岡県の伊豆熱川温泉でホテルを運営する紫雲閣(東伊豆町)の小倉吉太郎社長は「地震の影響だけではない。数年前からあった(宿泊施設側が提示する料金と)お客さんが求める料金とのミスマッチが露呈してきた」と指摘する。同社が経営する紫雲閣ホテルオグラ(静岡県東伊豆町)は昨年秋からLCI(ロー・コスト・イン=低コストの宿)を目指し、1泊朝食付きで3980円のプランを発売している。4月の宿泊者数も前年同月比で18%減少したが、前年の半分以下という宿泊施設も多い中で「健闘しているといえるのでは」(小倉社長)。
今月中旬には現金支払い・5月6日までの期間限定で特別料金の宿泊商品を発売した。夕食に「伊勢海老の黄金焼き」をメインとした料理が出される。1泊2食付きの宿泊料金は平日・休日が1人7350円、休前日が1万500円、5月3、4日の特別日は1万6800円。通常料金よりも18%安い。小倉社長は「震災不況ムードを打破できればいいのだが」と話す。
ネットで海外に正しい情報を
海外から日本への旅行客も激減しており、正確な情報を発信しようという動きも出てきた。ITを活用したマーケティング支援のうぶすな(東京・中央)は5月から、秋田の観光情報をインターネットで生中継する番組を放送する。震災の影響が大きい太平洋側地域の復興状況の中継も予定し、東北の観光を側面支援する。
番組名は「秋田の国から、アニョハセヨ!!」。放送は5月11日から毎週水曜日の午後0時~0時40分。英語、中国語、韓国語、日本語のパーソナリティーが週替わりで担当する。今月29日には4人のパーソナリティーが同時集合する特別番組を放送する。米SNS(交流サイト)最大手のフェイスブックにファンページ「Good Japan(グッドジャパン)」を開設し、この中でも動画を流す。さらに日本に興味があり、影響力のあるブロガーにファンになってもらうなど、口コミを通じて海外からの旅行客増を目指す。「世界に向けて情報を発信し、秋田を足がかりに東北への集客につなげたい」(吉井靖社長)
(村野孝直)
モノやサービスの値段にまつわる「なぜ?」を様々な角度から掘り下げる連載。商品の種目ごとに細かく担当を受け持つ日経記者が、その担当の商品・サービスの値段の変化がなぜ起きたのか、日本だけでなく世界のトレンドまで鋭く切り込みます。