ARMの組み込みプロセッサは、ここ数年におけるスマートフォンやタブレットデバイス市場の拡大に伴って採用デバイスが急増している。同社によれば、現在の携帯電話市場における台数シェアで9割がARMベースのSoC(System on Chip)だという。実際、iPhoneやAndroid搭載デバイスなど、多くのユーザーが持つ端末のほとんどがARMベースのプロセッサを搭載している。また、Microsoftが2012年のリリースを予定しているWindows 8でARM対応を表明しており、このことでARMがさらなる拡大を遂げる可能性は高い。
とかく、スマートフォンやタブレットデバイスだけが注目されがちなARMプロセッサだが、ARMの強みは、圧倒的に豊富なラインアップに依る部分が大きい。例えば、インテルであれば、常に“最先端の”CPUとその派生モデルに集約するので、どちらかといえばハイエンドのPC向けに製品が集中する。ところが、ARMではCortex-M0のように非常に単純化した制御用プロセッサから最新のCortex-A15まで、実際に生産してるモデルの幅が広い。
また、ARMの主な事業形態はプロセッサの設計企業であり、そのIPをライセンスして稼ぐというビジネスモデルを採用している。QualcommのようにARM互換プロセッサの製造メーカーも含めれば、ライセンス製造を行うメーカーの数は膨大であり、さらに、そこから誕生する製品バリエーションも多い。そうした経緯もあってARMは急成長を遂げており、2002年に累計ベースで10億個の出荷ベースだったARM SoCは、2010年時点で250億個を突破し、さらに2020年には1500億個の大台を突破すると予測されている。
「安価で省電力なれど、PC用CPUに比べて非力」という評価が多いARMだが、一方でPCに近づき、さらにPC用CPUとは別の形で差別化を図ろうという戦略をARMは考えている。
iPhone 4SやiPad 2で採用するA5プロセッサが、40ナノメートルプロセスルールを採用している現時点で、インテルのx86系CPUが32ナノメートルプロセスルール、そして間もなく登場する“Ivy Bridge”(開発コード名)が22ナノメートルプロセスルールを採用するのを考えれば、やや出遅れているといった印象も否めない。だが、2011年10月に台湾TSMCが20ナノメートルプロセスルールのテープアウトを発表し、さらに先の、14ナノメートルプロセスルール世代に向けてIBMとARMが共同で研究開発を進めているという話も出ている。少なくとも、製造技術開発で大きく出遅れることは今後少なくなってくるだろう。
また、ARMでは“TrustZone”と呼ぶハードウェアレベルでセキュリティ機能を実装する試みを進めていて、OSの保護やアプリ実行環境のサンドボックス化など、Android導入デバイスなどで問題になっているマルウェア対策を積極的に推進している。
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