【6月29日 AFP】カラスは賢いとよく言われるが、カラスは自分に危害を与える人物の顔を認識するばかりか、それを仲間にも伝える能力があることが分かった。

 米シアトル(Seattle)にあるワシントン大(University of Washington)の科学者たちは、大学のキャンパスにいるアメリカガラスの行動に興味を持ち、カラスたちが、恐怖を感じた時に見た人間の顔を記憶できるかどうか実験した。

 研究者たちは「こわもての」原始人のゴムマスクをかぶって7羽のカラスを捕らえ、標識のバンドを付けて恐怖心を与えた後に放した。その後、この「脅威を与えた」ゴムマスクと、普通のマスク(ディック・チェイニー(Dick Cheney)前米副大統領のマスク)をかぶって歩いたときで、構内のカラスたちの反応が違うかどうかを観察した。

 すると原始人のマスクをかぶって歩いた時には、カラスたちは集団でいっせいに反応した。「カー」という声をあげるばかりでなく甲高く泣き叫び、怒ったように羽ばたき、尾もはたくようにして危険を知らせ合うような反応を示した。しかし「チェイニー副大統領」のマスクの時には何の反応もなかった。

 このカラスの警戒反応は「スコールディング」と呼ばれている。

■脅威の知識を仲間内で拡散

 チームは大学以外の4か所にも実験を拡大してみた。しかも今度は白人とアジア系の男女4人のタイプのマスクを使い、41羽のカラスを捕らえて標識を付けた後に放した。

 そして同じマスクをかぶって大学周辺を歩いた場合、時間が経っても「危険な顔」に対して「スコールディング」をするカラスは減るどころか、逆に増えていった。実験直後にスコールディングをしたカラスは大学周辺のカラスの20%程度だったが、5年後には驚くことに60%に達していた。

 同大の野生生物の専門家ジョン・マーズラフ(John Marzluff)教授によると、「ほかのいくつかの場所では1年半しか観察しなかったが、その期間にスコールディングするカラスが20%~40%程度増えた」という。

■経験から得た知識を伝える力

 怒りの反応を見せたカラスたちの一部は、実際に捕まえられたカラスの子どもたちだった。彼らはひなだった時に、危機に対応する親の姿を見ていた。

 しかし中にはカラスたちを捕らえた場所から1.2キロも離れたところに住み、自分たちが直接捕らえられたわけではないカラスたちもいた。この場合は、群れの反応を通して警戒が伝わり、脅威を学んだと考えられる。

 学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)」に発表されたこの論文では、カラスはおそらく3つの情報源からの情報を扱う能力があり、興味深いとしている。その情報源とは、まずは自分が直接体験したこと、次に親から子への「縦の情報伝達」、そして他のカラスたちとの間の「横の情報交換」だという。

 しかもアメリカガラスだけがこうした情報処理能力があるのは考えにくい。「実証されたことはないが、コクマルガラスやミヤマガラスもこの3つの情報処理による学習能力があると確信している」とマーズラフ氏は語った。(c)AFP/Richard Ingham