ブックツリーを実施するときに気を付けるべきこと

いまさらですがTogetter:明治大学和泉図書館のブックツリーの話。

気を付けるべきこと

  • 蔵書の紹介を目的とし、この目的に合ったブックツリーを構築する
  • 本が傷まない方法でツリーを構築する
  • 地震を考慮する
  • ブックツリーから任意の本を抜き出せるようにする
  • 可能ならばOPACの配架情報を変更し、それが無理な場合は配架場所を利用者が追えるように掲示をする
  • 本を読書以外の目的と使うことに違和感を覚える人は必ずおり、それは否定すべき感情ではない。その方々からの批判は甘んじて受ける
  • 「意図しない本との出会い」を手助けする選書をする

ブックツリーとは何か?

本を用いて作ったクリスマスツリー風の飾り。

日本語で検索した場合、クリスマスツリー風の飾りではないブックツリーもヒットする。

明治大学和泉図書館のブックツリー

ブックツリーを作った目的は以下のとおり。

批判されていたポイント

  • 本が傷む
  • 本を利用できない
  • 本がどこにあるのかわからない
  • 本を用いてツリーを作る理由がない
    • 本は特別なものだから読書以外の用途に使うのはよくない
    • 本の紹介が目的だとしても大学図書館で行うのは不適切

本が傷む

ブックツリーの例の中には明らかに本が傷んでしまうものがある。

大学図書館公共図書館の本は共有財であることから本が傷む形でブックツリーを構築するのは明らかに良くない。ただ、ハードカバーの本であるならば平積みぐらいならば問題ないのではないかと私は考える。

ただし、この許容できそうな例では、「蔵書の紹介」という目的に合致しない。少なくとも背表紙を利用者に見えるようにしなければ展示目的を達成できない。

本を利用できない

ブックツリーに使われることにより、利用者がその本を読みたいと思ってもブックツリーを崩すことになるために利用できない可能性があるというのがこの批判点。特に12月は卒論・修論執筆シーズンであるため、利用できないときの悪影響が大きい。

この件に関しては

  1. 過去の利用履歴から利用頻度の低い本を選択する(これは「蔵書の紹介」という目的にも合致する)
  2. ブックツリーの展示期間を短めにする(ブックツリーの性質として12/1〜12/25までが最大期間であるがこれよりも短めにする)
  3. 配下場所をたどれるように工夫する(次の批判点参照)
  4. 任意の本をブックツリーから抜き出せるようにしておく

この批判点に対する解決法としてはまったく問題ない例がもっとも適切。ただし、このような棚を用意するのは結構難しいかも(地震への対応の観点からもちょっと厳しい)。ピラミッド型に積む場合も、本のみでブックツリーを作るのではなく、箱などを利用して、本は綿見える部分だけを構成するように作るべきだと思う。たとえば、以下のような構造。

このようにすれば、利用希望があったときにその本を抜き出すことが容易になる。

本がどこにあるのかわからない

OPACなどでの配架状況が開架や書庫のままになっており、本がどこにあるのかわからなくなるという批判。これはひとつ前の批判点とセットになっている。愚直に行うならばOPACの登録情報を「ブックツリーに使用」とすればよいわけだが、利用頻度の低い本(特に基本的に書庫にある本など)の場合は、当該書籍の通常の配架場所にブックツリーで使用していることを明記しておけば十分であると思う。普段、利用されていない本でブックツリーを作る場合には、ブックツリーの方が通常の配架場所よりも目立っている可能性が高い。

本を用いてツリーを作る理由がない

単にクリスマスの雰囲気を出すことが目的であるならば、ブックツリーを作る必然性はない。一方で、以下の二つの目的を満たす手段としてならばブックツリーである必然性がある。
‐ 蔵書の紹介の一手段として:今回の明治大学和泉図書館の目的はこれ

  • 学生の来館を促す一手段として:ブックツリーは珍しいものなので図書館でしか見れないならば集客手段にはなり得る

本は特別なものだから読書以外の用途に使うのはよくない

実はこの部分にひっかかりを覚えたのでこのエントリーを書いている。

私も「読む者は大事にしなさい」と言われて育ったので本を傷めるようなことをするのには抵抗がある。今回のブックツリーの話も最初に聞いたときは「本を使ってそんなことをしなくても」と思った。一方で、ブックツリーへの批判点として「本は特別なものだから読書以外の用途に使うのはよくない」、より過激な意見として「このようなことをするなんて図書館員としての資質を疑う」という批判は行き過ぎであると感じている。

ただし、この批判点に対する解決方法はない。個人個人の考え方によるもので、否定できるものではないのでブックツリーを実施するならばこの観点から批判されることを覚悟しなければならないと思う。

本の紹介が目的だとしても大学図書館で行うのは不適切

研究者だったら図書館から紹介されなくても本を知っているべき、あるいは、自分の研究分野とは関係ない本を知っている必要はない。なので、本の紹介なんて不要であるという批判点。

検索エンジンやネット蔵書検索サービスが全盛の現在において、図書館(あるいは書店)が果たす役割は「意図しない本との出会い」を提供するという点にあると私は考えている。検索エンジンやネット蔵書検索サービスは基本的に「意図しない出会い」を提供できない(次世代検索エンジンや各種推薦システムはこの弱点を克服することを目的として研究、開発されている)。意図しない出会いからブレークスルーがうまれる可能性もあるので、本の紹介は有用だと私は考える。

おわりに

私の認識としては上述の点を考慮するならば、ブックツリーは悪い試みではないと思う。このまとめがブックツリーおよび図書館における蔵書紹介方法の議論に役にたてば幸いに思う。

追記: 「本をディスプレイの一部にする」ことが「食べ物を粗末にする」ことと同じ

イメージしてください。
例えば食べ物で遊んでいる場面をTVで流していたとしましょう。
それに対して不快に感じるでしょうか。

(A)食べ物で遊んでいる → (B)蔵書を使ってブックツリーを作る


(A)が許容できなくて、(B)が許容できるとしたら、その人は(A)(B)間に何らかの断絶を見て取っていることになります。
(B)は図書館に来てもらったり、本を紹介したりという業務上の「正当な」目的だから、良いのでしょうか。

(A)はTVだとしたら、ビジネスだと言い訳がたちますが、仮に子供同士が食べ物で遊んでいるとしたら、正当な目的があるとは言えないかもしれません。(テレビはそれを助長するという理由でNGとできるかもしれません)

ただ、私から見ると(A)(B)両方ともただ「行儀が悪い」で片付くのですね。

図書館発、キュレーション行き:【補遺】「なぜブックツリーに胸が痛むか」はもっと深堀りして考えてもいいのでは?より)

まさにシャンパンファイトやビールかけに対する違和感と同じような話ですね。ブックツリーを作る際にこのエントリーで検討していることに配慮しているならば、対比は以下の二つが適切だと思います。「食べ物を粗末にする」とは、「おいしく食べられなくなる」状態にしてしまうことが前提です。配慮しているならばブックツリーを作っても本は傷みませんし、今後も利用できます。

  • (A)包装されている商品を使って見栄えのする飾りを作る or 料理でデザイン性の高い盛り付けをする(ピラミッド型にするなど)
  • (B) 蔵書を使ってブックツリーを作る

なぜ、「蔵書を使ってブックツリーを作る」という行為が「食べ物で遊んでいる」「食べ物を粗末にする」と同列に感じるのかという点こそ、私がこのエントリーで批判点を一つ一つ検討している理由です。特にブックマークコメントやTwitter「ブックツリーの作成なんて語る価値もない」というスタンスの方にこそ、ぜひ、語ってほしいと思っています。たぶん、その語る必要もないほどの自明な前提が、図書館の外の人には共有できなくなりつつあるのだと思います。