橋本治とナンシー関のいない世界で

「上野駅から夜汽車に乗って」改題
とうとう橋本治までなくなってしまった。
平成終わりの年にさらに改題してリスタート。

いまさらながら、「朝まで生テレビ~若者不幸社会~」東浩紀 ”退席” に思う

2010-07-27 11:09:56 | メディア批評

東浩紀が堀紘一と対立し、「もうやってらんないよ」と席を立つ騒動となった今回の朝生。ツイッターで、「退席」というつぶやきを見て、いったい何が!と思っていたが、夕べやっと、録画してた番組を見た。

かつての野坂昭如と大島渚の怒鳴り合いを知る世代としては、なんか久々の爽快感だった。東浩紀がガチで切れてたというのもあるが、この「退席」騒動で今回の放送、救われたみたいなもんだ。

パネリストはこんな感じ。
東浩紀(早稲田大学教授、批評家)
猪子寿之(チームラボ代表取締役社長)
河添誠(首都圏青年ユニオン書記長)
勝間和代(経済評論家)
清水康之(NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」代表)
城繁幸(Joe's Labo代表取締役、作家)
高橋亮平(NPO法人「Rights」副代表理事)
橋本浩(キョウデン会長、シンガーソングライター)
福嶋麻衣子(モエ・ジャパン代表取締役社長)
堀紘一(ドリームインキュベータ会長)
増田悦佐(経済アナリスト)
水無田気流(東工大世界文明センターフェロー、詩人)
山野車輪(漫画家) 

以下、敬称略します。

今回の討論、途中までは本当に酷かった。
東浩紀が「退席」することを先に知っていなければ、絶対にテレビを消していた。

「世代間格差」「年金」「自殺」「規制緩和」「労働市場」etc.日本経済閉塞の原因総ざらいみたいな感じ。何が話したいのかわからない、方向性が見えないままに、いろんな人のいろんな発言が断片的に繋がってダラダラ。温度も低ーい感じで続いていた。つまんないと思ってテレビを消してしまった人は、あの喧嘩を見れなかったわけで、この酷い番組進行は2重の意味で罪作り。

番組冒頭で、「若者は本当に不幸なのか?」とか口上してるんだったら、まず東、猪子、福嶋あたりに「若者は本当に不幸なのか?」を語らせてから議論を始めるべきだったんじゃないのか。

だって、「不幸なのか?」って疑問形で始めながら、みんなそれぞれ自分の分野からの答えをすでに持っていて、その疑問を本気で解こうとしていない。「不幸なの?」「はい不幸です」で終わり。そこを前提に討論を始めている(例外もあったが。そしてその例外発言の時にこそ場はもりあがったのだが)。

「私は不幸じゃない」と思ってる人が、なぜこんな不景気な時代に不幸じゃないのかを考える事が、不幸減少の方法を見つける鍵になるかもしれないのになあ・・・。
本質的にそういう人間(お金がなくても私は不幸じゃないと思っている人)がいることを信じてないんだよな、多くの人は。
すぐに、あなたは能力があるからそんなことが言えるんだという話になってしまう。

確かに、人の能力に差はあるし、要領悪くて努力してもうまくいかない人もいる。そのためのセイフティネットの整備は必須だと思う。しかし、今までテレビで行われてきた議論は、マクロな議論すぎるのだ。年金問題とかね。
そんな大きな仕組みの話しかしないから、一市民はみんな自分には手の届かない事だと思って、絶望するんだよ皮肉な事に。
こうした討論番組に希望がないのはそのせいだ。

税金の再分配の問題点とクリエイティブな社会作り、ネガティブな問題点の指摘とポジティブな解決策の提案、両方必要だと思う。しかし、これまでの日本のメディアに置ける議論には、前者の分量が多すぎた。
東浩紀の肩を持つわけじゃないが、前者は「それってもう知ってる事」なのだ。

こうした議論がダラダラ続いて、むすーっとしてた東浩紀は、堀紘一に「帰れよ」と言われなくても、最初からずっと帰りたかったのはありありだった。

そんで、ある時点でしびれを切らして「それってもう知ってる事」「その先の話をしよう」と、この討論の不毛さに言及したら、堀紘一が、あんたはいつも他人の批判ばかりして、自分の意見を言わないと噛み付いてきたわけだ。

堀紘一は、前提となっている番組進行については、疑問を抱いていなかったからね。
東浩紀とは、その点で食い違っていることが悲劇だった。
東浩紀の悲劇は、本質的なところに疑問持っちゃうと、相手からすれば意味分かんなくて、変な奴扱いされるというケースの典型であった。

で、怒って一旦「退席」した後、東浩紀は再び戻ってきた。
そして、あらためて意見を述べたのだが、まだ興奮が冷めてないのか、本当に自分が思ってる事を適切に言えてなくて、ただ単に火に油を注いだだけになってしまう。

堀紘一に「東さんあんたが全て神さまじゃないから」と言わしめてしまうのだ。
あとは一気に火が回る。

東「やってらんないですよ」
堀「じゃあ帰んなさいよ」
東「堀さんが神さまなんだ、この番組で」ときて、
田原総一朗が「何言ってんだよ!堀さんが決められる分けないじゃない」と怒鳴る。
東「じゃあ、司会の役割で何とかしてくださいよ!」

やっとそこで、第三者的に高橋亮平が「公共の放送で感情的になるのやめましょうよ」と割って入って、落ち着きを取り戻す。
この時の高橋はネ申であった(ツイッターで東自身もつぶやいてるが、今回はこの高橋亮平の地に足の着いた対応はもっとも注目に値した)。

そして、その後の数分が、今回の朝生の全てであったといってもいい。

まず、東浩紀が本当に言いたい事をちゃんと言えた。
これはやはりあそこまで怒鳴って吹っ切れた産物である。
東のこの時の発言はこんな感じ。

「若者不幸社会」とか言うけれど、若者が怒ってるといって「若者vs高齢者」みたいな構図で話しても議論が堂々巡りで無駄。若者はそこまでバカじゃない。
だから、若者論とか世代間格差という話はやめにして、みんなで話をしよう。
日本は不幸不幸というけれど、先行世代が作ったインフラで、お金があまりなくても楽しく生きられるという面もある。それをポジティブに捉え直して、今後のことを考えよう。
また、クールジャパンとか、トヨタとか巨大企業に比べれば生み出すお金は少ないけど、文化的な価値とかシンボルは大切で、むしろそういうものを大切にする事で人は幸せになって行く。日本も文化的なものでヨーロッパみたいに自信を持つべきだ。
(東の話ここまで)

この話が討論の最初に出てたらなあ・・。なんて言ってももう遅いけど、ほんとに私もその通りだと思うのよ。
東浩紀のあの態度にはちょっとだだっ子みたいだなとも思ったが、上記の主張に関しては、全面的に賛成。

そして、堀紘一もその東浩紀の話をちゃんと聞いていた。
多分この東の話を聞いて、堀も東のそれまでの不機嫌を少し解したに違いない。

そして、そのすぐ後、東浩紀が日本人の自信喪失について語ったとき、奇しくも田原が今回の議論を象徴するような発言をした。

田原「なんで日本人は自信失ってるの?」
東「それは、すぐこうやって景気の話とか税金の話とかばっかりやって、
  暗い話しか出てこないんですよ。だからといってお金の話を軽視するわけ
  じゃないんですよ・・・」

そしたら田原総一郎が言ったのが以下の言葉だ。
 
 「戦後の日本はね、金の話以外はできなかったんだよ。」

 「じゃあ、(文化の話も)するようにしましょうよ」と東は軽く言ったが、
実はこの辺に、今回の討論における世代(だけじゃないけど)間の断絶の原因や、戦後日本の抱える問題点もあるのではないかと思う。

多分、世の中の多くの人は、お金の話をすること、もしくは、全ての価値をお金に言い換えることが、人々にもっとも訴求する方法だと考えている。
メディアの切り口なんてほとんどがそれだと言ってもいい。
そして、そうした価値観や手法は、打算的な思いからだけではなく、朝生に出演するような善意の知識人にも浸透している(そう考えると、対話の断絶性とか、格差とかって決して世代間だけではないよなあ)。

私は、数年間報道局で仕事をしていて、ずっと、政治や経済の話と文化の話の断絶を不思議に思っていた。文化とは生活の中から生まれるはずなのに、その生活を守るための政治や、生活そのものである経済は、まるで別のもののよう扱われているのだ。「文化は男の仕事じゃない」みたいなね。

「人はパンのみにて生きるにあらず」なんて、理想主義と言われそうだが、「戦後、金の話しかできなかった」日本では、今、金以外のことを話す必要があるのだと思う。
「文化」は「文明」に服従するものではなく、車の両輪。
霞を食って生きる人も必要と言う事だ。
それに時代も変わったのだ。アップルを見てご覧!

また、東は文化を海外に説明するための「言論」「言葉」が同時に必要だと語ったが、その通りだ。
本当に、伝わる言葉で伝えないと物事って伝わらない。
「言葉」は重要である。

だってそもそも、今回の朝生、みんな話が下手だったんだよ。自分が普段やってる事の情報を断片的に語るのみで、ビジョンを語れない。情報も整理されていない・・。

この私の文章だって人のことは言えませんが・・・。

最後になったが、
堀紘一が東浩紀のクールジャパンの話を受けて、韓国メディアの話をしたのは、ちょっと微笑ましかった。
あんなにぶつかったのに、東の話が実は中身が無いわけではないことを知ると、ちゃんとリアクションするあたりは、単に頭の固い頑固オヤジではないのだろう。お互い、気まずそうなんだけど、ここは歩み寄れるかもしれないという照れくさそうな表情が垣間見えた。それに、高橋亮平の議論を決裂させないようにしようとする冷静な対応にも、メディアは老人が仕切ってるから古いんだと認めて議論を展開させようとする田原総一郎にも好感が持てた。こうしたいろんな世代の反応を見てて、日本の未来も世代間の隔絶も、そうそう暗澹たるものでもないのではないかと、わずかではあるが希望の光が見えた気がした。

ほかにも、福嶋麻衣子の「村」の話とか、面白そうなテーマが登場したが、断片的に語られるだけだったのは残念。やっぱ、人々が動く映像として見えてくる将来のビジョンというのは魅力的ですよ。数字の目標なんてくそくらえ!
誤解を招かないように言えば、ほかのパネリストが訴えていたしっかりした現状認識も大切。それを踏まえた将来ビジョンを希望です(わ~、最後に言い訳がまし)。

今回を教訓に、次回は一歩先行く議論を期待します。

退席シーンはyoutubeで見られるようです。

 

というわけで、私はこんなの始めてます。こちらもよろしくおねがいします。

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63 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
一番分かりやすい (Sysuo)
2010-07-27 11:44:08
私も朝生録画で見て、
東さんの退出辺りで話がガラッと
変わったのは分かったんですが、
東さんが言いたいことがあんまり理解できませんでした。

分かったのは堀さんの器量のよさと
高橋さんのフォローのうまさ(笑)

でも貴方のこの記事を読んで、
グッと東さんの言っていたことが
近づいた気がします。
国民が前向きになるように
ポジティブな解決策の話をしましょうって
ことだったんですね。

ツイッターだと勝間さんのまとめが
延々と流れてますが、
勝間さんは勝間さんで自分の経済論まわりの話しかしてないので、
私はここの方がよっぽど分かりやすいと
思いました!!!

ありがとう!!
書いて良かった (yurys)
2010-07-27 12:12:16
こちらこそありがとうございます。書いて良かったです。一悶着あった後の東さんの意見は、まさに私も常々思っていることで、この騒動をきっかけに、世の中の議論のあり方が変わるといいなあと思って記事にしました。
素晴らしい記事 (sh1ge)
2010-07-27 19:06:10
あの当時の混沌としていた朝生の流れを、きちんとそれぞれどういう立場と視点で意見を言っていたのか、整理して書いてくれているので、読みやすいです。

あの番組を見て衝撃的だったもの、自分が大事だと思っている価値観が、時代を経るうちに、同世代の人々にしか説得力を持たなくなること。
そしてそれに自分自身で気づきにくいというこの二点です。

個人的に、これからは文化を育て、輸出することを、個人や企業中心としてやっていけたらなと考えています。
国に頼っても、時間が掛かりそうなので。

そして、その文化を育てて行くため、温かい目を持ち磨き上げるのが、批評家の役割になりえるのかなとも思いました。
才能を磨き上げる職人としての、批評家です。
企業が批評家を抱える時代とかオモロそうです。

いやーこの記事のおかげでまた考えることが増えました 笑
ありがとうございます!
同意です。 (masahiro)
2010-07-27 19:19:31
当該エントリ拝読して、溜飲下がる
思いでした。こういった考え方
ができる人がもっと増えればいと
願います。
Unknown (痴本主義者)
2010-07-27 19:24:15
「金融技術」とやらが文化とはとても思えないけど、消え去りつつある職人技は間違いなく文化だと思う。経済という観点からみたら逆なのだろうけど。
Unknown (とーりすがり)
2010-07-27 19:29:25
良い文章ですね。

わかりやすい
とても解りやすかったです。 (do1phinring)
2010-07-27 19:31:25
とても解りやすくまとめてあって、放送を観た時にきちんと理解ができなかった部分の意味がようやく解りました。

私は20代前半なのに、どちらかというと年配の方の意見に偏っていたということが今回の朝生で分かり、少しショックを受けました。

時代に合わせて柔軟に考え方を変えていくことが大切なのでしょう。


世代を超えた本音の良い合いの機会を設けることってなかなか難しいことだと思います。
今回の朝生が良いきっかけとなって、どんどん日本の人々がが幸せを感じられる国になって欲しいですね!


分かりやすい説明をありがとうございました。
猪子さんに衝撃 (haru)
2010-07-27 20:01:38
個人的には、東さんが戻ってきてから、堀さんにぼろくそに言われた後の猪子さんの発言にぐっと来ました。
内容は、
堀さんみたいな年長者がそういう風に怒るのが現実の縮図だ。
若者は年長者にそういった価値観の押し付けをされて何も出来なくなる。
といった内容。
まさにと思いました。
個人的には猪子さんがいつも言っている”年寄りがすぐ怒る”が、若者の問題の根幹だと思います。
単語がゆるいのでスルーされがちなのが残念ですが、田原さんは非常に買っている様子。
人間、いつもやっぱり自分が真ん中。 (shin kiri)
2010-07-27 20:22:21
私も、オンタイムで見ていて、「あ、以前、栗本慎一郎がこの番組で退場したときって、こういう感じだったのか?」と、議論の内容とは直接関係のない感情に包まれました。(てか、事故の瞬間を目撃した何とも言えない居心地の悪さと不安感)。

いまさらながら・・・とyurysさんは書かれていますが、私も、今回の放送事故がこのまま自然pastとならず、どこかで議論される、または(ある程度)総括されることを望んでいたように思いますので、このblogに出会えて何かしらの安堵感を覚えありがたく思います。

どうやらソーシャルでは、年齢(若者、若者でない人)に関わらず、席を立った東教授への風当たりのほうがやや強く、堀氏の策士的態度が評価されているように思います。

堀氏は同番組だけでも、対東教授に対してだけでなく、「若者世代」とカテゴライズされる人にはほぼいつも厳しい態度ですが、しかし、私はどうしてもあの時ばかりは、あの場(それこそ高橋氏が言う「公共の放送で」)において、「帰れ」「出て行け」という言動の理論と神経があまりにしっくりきませんでした。

堀氏は過去少なくとも2回(3回?)東教授と共出していますが、どうやら堀氏も東教授に対するそれまでの不満が溜まっていたようで、いっきに吐き出した感じでしたね。

ま、年長者の存在はいつの時代でももちろん重要ですが、若輩者への耳の傾け方も、時代と共に変化する必要があるのかも知れないなと思いました。

今、企業ツイッター等、新しいモノ・コトの導入を重役に説得するのはとても困難、または困難だったという話をリアルに耳にするようになりました。そりゃそうでしょうね。そうでないのは孫さん等のマイノリティでしょう。

人間って、いつの時代でも、良い意味で結局自分が中心です。だからこそ「人の意見を聞く」、さらには、「人の意見を引き出す」ことは大きな価値を生み出すのではないでしょうか?

今回の事故は、退席には何の意味もなく、ディベートテクニックの勝敗にも何の意味もなく、若者と若者でない人もちゃんと意見を持っているということが証明できたわけですから、若者は「性根無し」と言わないよう、若者でない年長者は「老害」と言われないよう、言動と行動をより高い極みに運んで行く意志と意識を持つべきだと思います。
再放送を (sheepsong55)
2010-07-27 20:49:41
今月は23日夜が月末金曜日とは気づかず、子の番組を見逃した。田原総一郎が戦後は金だけといっていたらしいが、ソニーだってトヨタだって金だけで出来るとでも思っているのか。こういう昔の左翼見たいのは早く死んでいただいたほうがいいでしょう。いつも思うのだがBSの夜中でも再放送してほしい。

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