2011.04.15
# 雑誌

東京電力「解体」、そして「原発オール国有化!」

福島第一原発1、2号機の中央制御室。原発の頭脳に入り込めても、作業の終わりは見えない(東京電力提供)

「5、6号機は残し、7、8号機も建設」---東京電力の懲りない思惑に、「国」も見切りをつけた。 天文学的賠償金が見込まれる 国策企業をスケープゴートに 進められる国民不在の策略

【原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない】

 原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)第3条1項---。現在、東京電力幹部の頭には、この条文がちらついて離れないに違いない。〝この限り〟でなくなるには・・・。ある東電中堅幹部は、不甲斐なさに嘆息しつつ、こう語るのだ。

「当初の会見から役員たちが『今回の津波は想定外』と強調してきたのは、原賠法の例外規定の適用を期待しての発言と言われても致し方ありません。しかし、それが認められたとして、東電がまったく賠償責任を負わないなどということはありえないのですが・・・」

 いまだ被害の全容が解明できない東日本大震災だが、早くも東京電力に対する〝落とし前〟についての議論が始まった。原発の管理者としてではなく、一企業として東電を見ると、今どのような状態にあるのか。小樽商科大学大学院(MBA)の保田隆明准教授は、こう分析した。

「東京電力には元々、約7兆5000億円の借金( '10 年末時点の有利子負債)があります。年間2800億円程度の利益があるため借り換えもスムーズに行われ、借金が問題にはならず、長期格付けもS&P(スタンダード&プアーズ)では『Aプラス』と高評価でした。しかし4月1日、『BBBプラス』と3段階も引き下げられました。福島第一原子力発電所(大熊町、双葉町)の廃炉、損害賠償にかかる費用が数兆円規模になると思われるからです。格付け会社は、さらに引き下げの方向で見直すとしています」

 溶融した炉心の冷却に、応急処置ではあるが一時成功したかと思えば、今度は2号機の取水口付近の坑(ピット)から毎時1000ミリシーベルトを超える高濃度に放射能汚染された水が海にタレ流されていたことが発覚する。

「東電に技術屋はいないのかっ!」

 苛立ちの募る菅直人首相(64)は、首相官邸で辺りを憚(はばか)らずに怒鳴ったという。従来から「安全神話」を喧伝しておきながら、いつまでも原発をコントロールできない東電への怒りは収まらない。

 多くの人の記憶から消えかかっていると思うが、3月30日午後5時56分、ついには福島第二原発(楢葉(ならは)町)1号機からも白煙が立ち上った。東電はタービン建屋の1階の分電盤付近から火が出たもので、原子炉冷却に影響はないとした。

「第二原発で火災が起きた時、東電職員や作業員の大半が第一原発に取られ、対応が遅れました。第一の1~4号機の一つでも、一時的に制御不能の事態に陥ったら、誰が5、6号機、第二原発の保守・管理にあたるのかという根本的な配置が命令されていなかったんです。いまだに第二原発で起きた火災の厳密な調査はなされていません」(東電関係者)

「東・東合併」の現実味

いち早く東電国有化を示唆した玄葉光一郎国家戦略担当相。「原子力は最終的に国が責任を持つことが必要だ」

 菅首相からすれば、東京電力の常識のなさが世論の反感を次々買うため、手を付けにくくなる。勝俣恒久会長(71)が初めて会見に姿を現し、福島第一原発1~4号機の廃炉について明言したのが3月30日。

 その舌の根も乾かぬ4月2日、原発爆発事故を起こした後に東電が国に提出した電力供給計画に「7、8号機の増設」を盛り込んでいたことが発覚し、集中砲火を浴びたケースなどはその典型だ。

 東電総務部は本誌の取材に「今回の供給計画は震災発生前に取りまとめた。

 地元の方々に配慮が足りなかったことは申し訳ない」と言い、4月4日に藤本孝副社長(63)はテレビ出演し、「7、8号機の新設は無理だと思っている」と明言したが、東電はこれまで、原発が爆発・炎上したり、放射性物質の飛散が観測されてから事実を〝追認〟する態度を貫いている。

「7、8号機計画」が発覚しなかったら、東電が自ら挙手して過ちを謝罪したとは思えない。そもそも、地震発生直後、緊急停止した原発に、政府の要請通り海水を注入せず爆発させてしまったのは「5000億~6000億円もかけた原子炉がおシャカになるのを避け、真水の注入ができるようになるまで待てと東電サイドが渋ったから」(首相官邸周辺)という理由が横たわっている。

怒鳴っては落ち込むことを繰り返す首相に代わり〝陰の総理〟仙谷由人氏が官房副長官として官邸を仕切る

 菅首相は、東電はもとより、原子力安全・保安院(経済産業省)の官僚も含め、頭から信用していない。

 だから、日比野靖・北陸先端科学技術大学院大学副学長や、有冨正憲・東京工業大学原子炉工学研究所長といった母校・東京工大に連なる人脈を次々と内閣官房参与にし、その数は15人にまで膨れあがった。

 政権・省庁・事故を起こした当該企業の三者間にまるで信頼のないまま「国難」に立ち向かっているのが現状なのである。

*

【東電の分割、再建計画】
○基本はGM(ゼネラル・モーターズ)型破綻処理(注)
○東電清算事業会社を設立
○東電を発電会社と配電会社に分割
○原子力を公営会社に売却・譲渡
○高圧送電網を公営会社に売却・譲渡
○水力、火力部分で発電会社
○配電会社を新たに発足
○公営原子力発電会社の設立(9電力の原子力をすべて公営会社に売却・譲渡)

 これは、菅首相の信頼を得た識者から提案されたプランである。すでに経産省に「検討課題」として実行が可能なのか調査命令が下ったとの情報もある。

「菅政権において、東電の意思を尊重しながらことを進めるという段階は過ぎ、むしろ隠蔽体質の抜けない企業に見切りを付け、東電をいわばスケープゴートに政府主導で処理を決めるという方向に舵を切りつつあります。菅首相が東電寄りの論者を排したことも大きい。

 菅首相の視点は、▼東電の処理▼原子力政策の継続をいかに図るか―という点に移り、特に〈公営原子力発電会社の設立〉に関心を寄せています。これは国内9電力会社の原子力部門をすべて国有化し、逆に9社に電気を売るというもので、アメリカやフランスなど原発推進国では以前から検討されているプランです。

 菅首相にプランを提案している一人に、経営コンサルタントの大前研一氏が含まれていると聞いています」(民主党幹部)

 菅首相が東電、原子力安全・保安院を見限ってから、「東電解体」につながる案は百出しているようだ。

 民主党閣僚経験者が本誌に打ち明けたのは「東・東合併」「東・西合併」というプランである。その詳細を語る。

「こちらは東電の発電部門と送電部門を分離し、送電部門を東北電力と合併させて『東日本電力』とするよう提案している。また、発電部門は関西電力と統合させればよいと考えている。これまで東電は原発内での事故や人為的ミスを隠蔽し、それが発覚したことでのトップ交代はあったが、組織の体質を揺るがすことはなかった。

 だから東電は今回の事態の大きさを見誤り、隠蔽や事態を過小に見積もっても最後は政界が守ってくれると勘違いした。首相の周りには、東電の資産を売却させて賠償に充て、減資をして国が買い取り国有化する案など東電解体に向けた案が出揃い始めている」

 国民不在のままこうしたプランが進む中、にわかに民主・自民両党の大連立という話が浮上した。東日本大震災への対応が急務だから、与野党が団結して「大きな政府」でことに当たるべきというのが表向きの理由だ。

「『オール民主党』すら満足に達成できないのに、何が『オールジャパン』だ」

 これまで、対小沢一郎(68・元幹事長)戦を繰り広げ、党内の亀裂を深くした一方の当事者が菅首相である。党内からこう冷ややかな声が上がるのも無理はない。

「菅首相は閣僚ポストを3つ増やし、自民・公明から抜擢しようと躍起になっている。だが、与野党の政策協議に手がついていないので、一つの理想として『大連立』という言葉が一人歩きしているだけ」(民主党中堅代議士)

GEのイメルト会長が来日。東電は電力不足を見越し、火力発電所の増強について支援を要請(4月4日)

 しかし、この「大連立」話には、別の胡散臭さを感じる。さまざまな物事が同じタイミングに起き過ぎている。まず、考慮すべきは米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフリー・イメルト会長兼最高経営責任者(CEO)の来日である。

「日立製作所をはじめ専門知識を持った業界のさまざまな方と、チームを組んで支援していきたい」

 4月4日、海江田万里経産相(62)との会談の席でこう言ったとされるが、その際にイメルト会長は、米電力大手のエクセロン、同エンジニアリング大手ベクテルの名前を協力先として挙げている。

「原発の保守・管理を外資に乗っ取られる危険を電力各社は感じたはずです。首相周辺で原発国有化論を提示している識者は『日本の民間企業に原発を任せるのは無理』と強く主張し、3メーカー(日立、東芝、三菱)の原発部門を米ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)、仏アレバ、GEの傘下に入れてしまい、国策として優秀な日本人技術者は温存するという極端な意見を出しています。

 このまま菅政権に原子力行政の舵取りをさせていたら本当に外資に乗っ取られると、電力各社の幹部連は、財界を通じて政界にアクションを起こした。それが、にわかに大連立構想が議論され始めたきっかけだと聞きます」(全国紙政治部デスク)

 発電事業に関して、外資や民間の参入を認めるという論は、過去、規制緩和が進められた時代にも上がった。ただし今回は東京電力の国家を揺るがす不始末がベースにあるだけに、実現可能性が高まる。上の表のとおり、電力会社と政官界を親密な関係にした自民党を政権に入れるという「大連立」が、電力各社の安心材料というのが、この証言の趣旨である。

 東電に限らず電力各社は、分割された地域を独占する企業体である。そのことは他の企業文化や意見が入り込みにくいことを意味する。JALが破綻した時も、みな口々にその特殊な企業文化を指して批判した。しかし、批判されるだけの奇妙さが、必ずあるのだ。

 東電の勝俣会長は、経営者として読売新聞グループ本社会長の渡邉恒雄氏(84)を意識しているという話を聞いた。その正確な思いは量れないが、「誰も口を差し挟めない存在」という意味が含まれているとすれば、東電が解体される日の到来は早まることだろう。

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