稲田大臣辞任で終わらせてはいけない「日報隠ぺい」本当の問題点

これではトカゲの尻尾切り、だ

稲田朋美大臣の辞任にまで発展した自衛隊「日報隠蔽問題」。発端は、ジャーナリストの布施祐仁氏がその開示を防衛省に求めたことにあった。布施氏本人が、一連の経緯を振り返りながら、この問題が稲田氏の辞任で「幕切れ」となることに、強い危惧を表明する。

どちらにせよ大問題

7月28日、南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報問題に関する特別防衛監察の結果がようやく公表された。

私が昨年2度にわたって行った情報公開請求に対して、陸上自衛隊が当時日報が行政文書として存在していたにもかかわらず意図的に開示しなかったことを、情報公開法の開示義務違反および自衛隊法の職務遂行義務違反と認定した。つまり、日報が違法に隠蔽されていた事実が明らかになったのである。

他方、最も注目されていた稲田朋美防衛大臣の隠蔽への関与については、非常にあいまいな結論にとどまった。「すでに廃棄した」と説明していた陸上自衛隊内の「日報」が、実際は保管されていた事実について、稲田氏が書面による報告を受けたり、非公表を了承した事実はなかったと結論付けた。

ただ、監察結果は「陸自における日報データの存在について(稲田氏に対して)何らかの発言があった可能性は否定できない」とも指摘しており、稲田氏が陸自に日報データが保管されていた事実を早い時期から知っていたのではないかとの疑惑は晴れない結果となった。

監察結果公表後の記者会見(辞任会見にもなった)でも、稲田氏は最後まで、「報告を受けたという認識は今でもない」と自身の関与を否定した。これに対して、ある記者が「複数の部下の方が、(2月)13日も15日も確かに報告したと証言している。それを大臣は信用できないと、嘘の証言だと言うのか」と質問すると、「その点については承知していない」とかわした。

いずれにせよ、稲田氏の主張と陸自側の主張は食い違ったままだ。真実は一つしかない。稲田氏の主張が虚偽ならば、陸自の日報保管について報告を受けながら、その後も「陸自では適正に廃棄された」と虚偽答弁を続けたことになる。逆に、稲田氏の主張が真実ならば、陸自側が大臣を辞任に追い込むために、虚偽の情報を流したことになる。

 

どちらにせよ大問題であり、稲田氏が大臣を辞任したからといって、このまま真相をうやむやにしてはならない。稲田氏、そして隠蔽に関与した防衛省・自衛隊の関係者の出席の下、国会の場で徹底した真相究明を行うべきだ。現在、与党が閉会中審査への稲田氏の参考人招致を拒否しているが、このまま真相を明らかにすることなく幕引きを図れば、防衛省・自衛隊に重大な禍根を残すことになるだろう

なお、防衛省・自衛隊が組織ぐるみで陸自の日報保管の事実を非公表としたことについて、政権や与党に近い人たちから「問題ないことをメディアが無理やり騒ぎ立てているだけだ」といった言説が流されているのは見過ごせない。

たとえば、稲田氏の後任に内定したと報じられている自民党の小野寺五典元防衛相は、7月22日に出演したテレビ番組で、「隠蔽と言われていますが、すでに公表されているものと同じものが別のところにも残っていましたってことです」と、あたかも大した問題ではないかのようなコメントをしている。

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確かに、陸自側が稲田氏に陸自の日報保管について報告したとされる2月13日、15日の時点では、すでに統合幕僚幹部で保管されていた日報が公表されていた。よって、陸自に保管されていた日報を改めて開示する必要がないのは当然だ。しかし、それと、陸自保管の事実を公表しなくても良いというのは別問題である。

なぜなら、陸自にも日報があった事実を公にしないということは、それまで通り、「開示請求時点で、陸自の日報は既に廃棄されていた」と虚偽の説明を続けることを意味するからだ。

そもそも、3月15日にNHKが陸自にも日報が保管されていたことをスクープしなければ、特別防衛監察は行われず、筆者の情報公開請求に対して違法な隠蔽が行われていた事実が明らかになることもなかった。隠蔽の事実は、永遠に闇に葬られていたかもしれないのだ。「非公表は問題なかった」と言っている人たちは、それでも良かったと考えているのだろうか。

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