平日朝の通勤電車ルポ第2弾。今回は東京地下鉄(東京メトロ)東西線だ。国土交通省の統計「東京圏における主要区間の混雑率」(2015年度)では、木場→門前仲町間(7:50~8:50)の混雑率は199%。東日本旅客鉄道(JR東日本)の総武線(各駅停車)の錦糸町→ 両国間(7:34~8:34)と、同率でトップを分け合う路線として登場する。千葉県から東京都内に向かう列車に“潜入”してみた。
朝の東西線浦安駅。乗客は中野・三鷹方面行の上り列車に次々と乗り込んでいった。
朝の東西線浦安駅。乗客は中野・三鷹方面行の上り列車に次々と乗り込んでいった。

 11月18日朝。自宅を出た記者は東京地下鉄(東京メトロ)東西線の浦安駅(千葉県浦安市)前に着き、東京へ向かう電車を待っていた。

 記者は東京都品川区在住である。当然、最寄駅は浦安駅ではない。なのに、なぜ朝っぱらから、都心部を挟んで反対側にある浦安駅にわざわざ向かい、そこで都心に逆戻りする東西線の車両を待っていたのか。先輩記者から、「日本一の混雑を体験してこい」と命じられたからだ。

 国土交通省のデータ「東京圏における主要区間の混雑率」(2015年度)によると、東西線の木場駅(東京都江東区)から隣の門前仲町駅(同区)に向かう間の混雑率は、午前7時50分~8時50分の平均で199%に達する。これは、データで紹介されている主要区間の中で最も高い。

 実際、どれほどの混み具合か。千葉県から東京都内に向かう「中野・三鷹方面」の地下鉄に乗ってみた。地下鉄駅の乗り換え口などの位置を確認し、最後尾の車両が最も混んでいるだろうと予測。午前8時3分、へその下に力を入れ、浦安駅から恐る恐る最後尾車両に乗り込んだ。

浦安で既に「混雑率200%」

 浦安駅で乗った時点で、混雑率は既に200%程度の印象だった。200%は「体がふれあい相当圧迫感があるが、週刊誌程度なら何とか読める」。東西線は、浦安の北東の西船橋駅(千葉県船橋市)が、千葉方面からの始発。船橋市や浦安市は東京のベッドタウンとして発展を続け、人口はここ5年で船橋市が3%、浦安市も2%増えた。東西線は東葉高速鉄道線と相互直通運転をするほか、JR総武線の津田沼駅(千葉県習志野市)から東西線を経由する列車も多い。人口の増加と相まって、千葉方面からの東西線は混雑しやすい状況にある。

 もっとも、混雑率の目安が示すとおり、まだ手を動かす余裕はある。スマートフォンをいじったり、文庫本を読んだりして過ごす乗客が多く見られた。

 車内の雰囲気が変わり始めたのは8時6分。東京都内に入り、次の葛西駅に着いてからだ。新たな乗客がどっと車内に入り、一気に圧迫感が強まる。記者の近くにいた男性が後ろから押され、思わず眉間にシワを寄せていた。

 1つ先の西葛西駅ではさらに乗客が増え、揺れる度に体が周囲から押されるほどの混雑ぶりになった。体感で混雑率230~240%はあるだろうか。ここまで来ると、下に置いた手を動かすことも難しい。

「困った時はお互い様」の“連帯感”

 混雑した車内で、記者の心が一瞬和んだのは8時12分、南砂町駅に差し掛かったときだ。車内の奥にいた学生が「ここで降ります」と声を上げたところ、乗降口近くにいた乗客数人がすかさずホームに移動し、学生が降りられるように道を作った。みな混雑には慣れているのか、「困った時はお互い様」という意識が高い。周りの乗客の優しさにほっとした。

 乗っていてもう1つ気付いたのが、駅員の的確な対応だ。南砂町など複数の駅のホームには、幾つかのドアごとに駅員が配され、到着してドアが開くたびに「降りるお客様はいませんか」と、声をかけて回っていた。混雑する時間帯でもスムーズに列車が発着し、遅れを最小限に抑えられるよう、東京メトロが工夫を凝らしているのがうかがえた。

 8時17分。「ドアに靴を挟まれないよう、もう少し内側に入れて下さい。カバンを押します」と駅員の手助けを得て全ての乗客が乗り込み、木場駅を出発。いよいよ、今回の取材の核心部、最も混んでいるという木場~門前仲町間に差し掛かった。

ひたすら目を閉じる乗客

 混雑率は葛西駅以降、変わらず230~240%程度の印象。窮屈な状況が続き、不快感を顔ににじませる乗客も次第に増えてきた。

 8時20分頃、門前仲町駅へ向かう途中で不意に停車。「停止信号です」とのアナウンスが車内に流れると、記者のすぐ後ろに乗っていた中年の男性が、思わずため息をついた。「目的地まで一刻も早く着き、この窮屈な状況から解放されたいのに」という、周りの全ての乗客の気持ちを代弁しているかのようだった。幸い、停止時間は1分にも満たず、地下鉄は再び動き出した。

 この「最も混雑する区間」に乗客は何をしているのか見回してみた。圧倒的に多かったのが、目を閉じている人。その理由は手を動かせないからだ。

 もはやスマホや文庫本を見ることはできない。周りを眺めている時に周囲の乗客と視線が合ったり、トラブルにつながるような事態も避けたい。手持ち無沙汰で目のやり場にも困り、目を閉じているしかない、という状況だ。

 門前仲町を抜け、ようやく茅場町駅に差し掛かった8時25分頃。ここでトラブルが起きた。30代と見られる男性が乗降口付近に陣取って、周りから押されても動こうとしないのだ。

 最後尾の車両は出口や乗り換え口に近く、降りる客は多め。南砂町駅で他の乗客が対応したように、一度ホームに降りて道を譲れば済む話だ。前後から押されてもこの男性が頑として動かないため、乗客は仕方なく、男性を避けて乗り降りした。この男性は東西線に乗り慣れず、あまりの混雑ぶりにイライラしていたのだろうか。周りの乗客は、一様に不思議そうにして、この男性を眺めていた。

大手町駅を出て地上へ。乗客は足早にそれぞれの勤務先へと向かった。
大手町駅を出て地上へ。乗客は足早にそれぞれの勤務先へと向かった。

 次の日本橋駅で乗客が一気に降りたため、混雑率は200%ほどに低下。8時半頃に1つ先の大手町駅でさらに降りて、160%程度になった。記者も大手町駅で東西線を降りた。

 茅場町駅で出口をふさいでいた先ほどの男性は、記者が大手町駅で降りる段階でもまだ乗っていた。てっきり、茅場町の次の日本橋駅あたりで降りるのかと思っていた。次の駅で降りるから、移動が面倒だったのかと…。結局、どこまで乗っていったのだろうか。

 前回の記事(鉄道各社が言う「混雑は緩和している」は本当?)で紹介した横須賀線と同様に、東西線でも、肌で感じた混雑率はやはり公表データを上回っていた。また、長い期間で見れば混雑率は緩和傾向にあるとはいえ、肌感覚での不快感は相変わらず強い。鉄道各社に引き続き改善を求めるのは当然として、記者も乗客の1人として、ちょっとした心掛けや寛容さで“痛勤”を和らげ、列車の遅延や車両内でのトラブルが生じないようにしたいとの思いを強くした。

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

春割実施中