超超低予算の自主映画は、映画が完成してから訪れる批評にいかにして耐えるか？　――『見えないほどの遠くの空を』を参考に

榎本憲男★『サイケデリック・マウンテン』絶賛発売中！！！ @chimumu

0.はーい、chimumuだよー。今日はまたまた超超低予算の自主映画を完成して初号試写からの周囲の批評にいかに耐えていくかについてつぶやきます。

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1.この間、「マイ・ファースト・ムービー」というインタビュー集を紹介した。これは映画監督の処女作だけに焦点を当てたインタビュー集だ。ここでわかるのは、監督が非常に落ち込むのはたいてい編集段階でラフ・カットを見た時である。これはまた別の機会につぶやく。

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2.落ち込むチャンスは完成してからもふんだんにある。映画が完成すると作品が批評されていくのである。『見えないほどの遠くの空を』は今まさにそのただ中にある。毎日気が気でない。このやきもきした気分を俺に予言したのは阪本順治だ。

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3.たしか『インビクタス』を観に行ったら、バッタリ阪本監督に会った。俺が会社を辞めて自主で映画を撮るというので新宿ピカデリーの近くでしゃぶしゃぶを奢ってくれた。その時に阪本順治監督が「キツイぜ」とこぼしたのが、批評されること、だった。

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4.阪本監督「俺はなあ、いろんな監督の助監督やって、いいとこも悪いとこも見て、『なるほど』とか『これはやったらあかんな』とか思てた。けど、見えてないことがいっこあった。それは映画が完成したら批評されるってことや」

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5.俺は言った。「自分で作品の手応えを感じて満足なら気にしなきゃいいじゃないですか」「そういう訳にもいかんやろ」「自分の批評って読むんですか」「読むよ。毎晩、ネット見て泣いてるわ」その時はまさかと笑ったが、今は痛いほど気持ちがわかる。

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6.その悪夢の日々の初日が完成初号試写である。これから、いかに批評が襲ってくるかのステップをつぶやく。これを聞いていたらいくぶん気持ちが楽になるはずだ。

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7.超超超低予算自主映画の場合、試写室での初号試写というのは難しいかも知れない。が、仲間からカンパを募っても試写室を借りて初号試写はやった方がいいと思う。もしくは製作費の中にあらかじめ入れておく。

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8.前も言ったがTCC試写室は値段交渉に応じてくれる。プロジェクターもよいと思う。但し、最初に好意に甘えさせてもらったら、付き合いを長くした方がいい。それが仁義だ。

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9.覚えておいた方がいいのは、この初号試写の評判というのは芳しくないのが当たり前だという点だ。スタッフと役者と映画にお金を出してくれた仲間で観るという性格上、初号試写というのはどうしてもそうなるのである。

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10.まず、全員がストーリーを知っている。そしてほとんど全員、撮影現場にいた人間が観るのであるから、これは一般の観客とはかなり異質な鑑賞者である。どこか批評的なのである。そしてその批評も局部的だ。

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11.技術スタッフは自分の技術パートを注視する傾向にある。「あそこの、クロスカットの色が揃ってない」とか「もうちょっと黒をしめたらよかったな」とか撮影監督は考えている。

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12.俳優陣はまた自分の写り具合や演技に神経を尖らせて観ている。また、鑑賞後も明瞭な意見は言わない。大体映画に出たからにはよっぽど「これはヒドイ」と思わなければ役者というのは悪口は言わないものだ。

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13.だが、監督がこの時点で知りたいのは「自分が撮ったものが、映画として、いいのか悪いのか、楽しめたのか、退屈なのか」である。しかし、技術スタッフも俳優陣もあまりそういうことを言ってくれない。いや、彼らもわからないのである。ただ、このギャップに監督は悩むことになる。

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14.別に雰囲気が悪いわけではなく、みんなニコニコしているのだが、監督としては「どうも手応えがない」という感覚が残る。これに対するアドバイスは「耐えろ、そういうものだ」だ。そして「あまり気にするな」である。

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15.そんな中で、はっきり「よい」と言ってくれる人がいたらその言葉を信じることである。『見えないほどの遠くの空を』では個人出資をしてくれた人が粗編集の段階で「いい」と言ってくれた。また、整音で途中参加した臼井勝が繋ぎ終わった画を観て褒めてくれたのでこれらを信じることにした。

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16.初号試写に話を戻すが、ここには“素”で映画を観る人間を何人か呼ぶことを薦める。つまり、スタッフではないが、自分の観客になりうるような人間や鑑識眼において信頼できる人間を呼んで一緒に観てもらうのである。

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17.『見えないほどの遠くの空を』の初号試写に僕は佐々木浩久監督に来てもらった。佐々木監督が試写後に「面白いよ」と言ってくれたので「よし」と思ったものだ。

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18.しかし、次に、配給会社や興行会社に見せる段になると、監督はまた落ち込むことになる。この人達は映画を完全に商品として扱っているので、基本的に作品に対してかなり冷淡である。佐々木監督のような「友情」の加点もない。ここでまたハードルはぐんと上がる。

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19.そして、仕方がないのであるが、彼らはパッケージ感での評価にどうしても囚われてしまう。例えば、＜ポン・ジュノ監督　松山ケンイチ主演＞の試写を見る前は、期待感いっぱい。一方、新人監督でノースターの自主映画は内心「どうやって断ろうかな」てな気分で試写室の椅子に座っているのである。

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20.こういうことは実際にあった。僕がアート系の映画会社に勤めていた頃、買い付け部門が「ルネ・クレマン監督でカトリーヌ・ドヌーヴ主演のメロドラマを買い付けた。とってもロマンチックなの」と胸を張っていた。確かになかなかいいパッケージである。

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21.が、仏から届いたフィルムを上映するとどうも変だ。字幕を入れて観たらなおさらルネ・クレマンに見えない。「なんだ、これは」と思ったらルネ・クレマンではなくルネ・クレイマンだったという話。が、買い付け部隊は映画を観て購入している。パッケージ感にやられて鑑識眼が曇っていたらしい。

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22.配給会社や興行会社の人たちが映画鑑賞後「いい映画だけど、お客さんのターゲットが見えにくい」などと言う時は「つまらない」「やりたくない」ということを婉曲に伝えている場合が多い。まず、純粋に映画を持ち込んだアマチュアはその真意を知った時にショックを受ける。

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23.しかし、世の中には例外というものがある。実は僕の元上司は本当に虚心に映画を観て、その都度自分の感情のリアクションを相手に実直に返していく、そして次にビジネスの話に移行するという態度をとっていた。当然、こういう人は人気があった。

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24.つまりはここまで(初号試写と配給・興行のリアクション）は、本当のマーケットからの反応とはまた違うものだと考えた方がいい。