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市民参加型のオープンデータがこれからの鍵

シビックテックは市民参画型で地域課題を解決していくものですが、オープンデータについても自治体だけではなく、これからはデータ作りやデータ公開に色々な人が参加していくべきなんだと感じたセッションでした。
参加型になっていくために重要なのはコミュニティであり、オープンデータも企業と自治体、そして市民コミュニティという三軸が必要になってくるのだと思います。
企業も市民も自治体も、オープンデータをどう出していくべきか? ぜひご覧ください。

セッションの背景

CIVIC TECH FORUM 2017」の市民コミュニティセクターのインタラクティブセッションの一つは「本当のオープンデータの話をしよう 」というテーマ。
筆者である私(福島)がモデレータを務め、東京大学の瀬戸氏とトークセッションをさせていただきました。
・瀬戸寿一氏(東京大学空間情報科学研究センター(CSIS)・特任講師)
 モデレータ:福島健一郎(一般社団法人コード・フォー・カナザワ 代表理事)

オープンデータは、シビックテックの活動をしていく上で大事な資源の一つです。オープンデータがないとシビックテック活動ができないわけではないですが、自分たちの地域の活動を行っていく上で、その地域の自治体のデータがオープンデータとして公開されていることは、市民自身が自分たちに必要なサービスを作っていく上で、とても大事なことです。
そういったこともあって、一般的に自治体のオープンデータのことをオープンデータと呼ぶようになってきました。しかし、本来のオープンデータは自治体のデータだけに留まらない概念です。
本セッションでは、オープンデータの概念をあらためて考え、政府や自治体のデータに留まらないデータについてディスカッションをし、そこから今後のオープンデータについても考えたいと企画しました。
また、インタラクティブセッションという名称通り、会場の参加者にもできるだけ参加してもらう形で進めています。


あらためてオープンデータってなに?

まず、オープンデータとは何か?について瀬戸氏に話をして頂きました。
今回、初出も含めたスライドで端的に説明された瀬戸氏の話は分かりやすく、セッション後にプレゼンスライドのリクエストが多数あったほどです。(記事下で資料見られます)

オープンデータとは目的を問わず、誰でもどこでも自由に利用し共有できるデータを指していて、自由な利用ができることはもちろんのこと、技術的にもオープンという意味で機械可読性が高いことというのが条件となっています。
2017年2月24日現在では、オープンデータを公開している自治体は市町村単位でまだ13.6%程度(内閣官房IT総合戦略室調べ)とのことです。データセットの観点ではおよそ2万データセット程度(2016年12月東京大学CSIS調べ)。それに対し、米国ではニューヨークだけで1万データセットということで、まだまだ日本のオープンデータこれからだということが分かります。

そして、話は「国や地方公共団体だけがオープンデータに取り組むべき主体なのか?」というところに移っていきます。
瀬戸氏によると、20世紀終わり頃からICTを用いたCitizen Science(市民科学)という考えが普及し始めて、一般の人々が現地調査やモバイル機器を駆使した科学活動が行われてきているとのことでした。こうした草の根の活動によってサイエンスデータが収集されたり創られたりしていたそうです。
日本では、3.11を受けてSafecastというコミュニティが創られ、放射線データの観測と提供が行われはじめたそうです。素晴らしいのは単にデータを集めるというだけでなく、集めるためのガイガーカウンターも自作し、その設計図をオープンデータとして公開しているところ。きっかけは3.11による日本の放射線でしたが、今は世界規模でそうしたデータが必要だという認識で活動しているとのことでした。
また、同じ草の根の活動として有名な地図のオープンデータであるOpenStreetMapについても紹介されました。

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さらに瀬戸氏は「こうした草の根のコミュニティよるボトムアップ型でもなく、政府や自治体からのトップダウンでもない、"ミドルアップダウン" と呼ばれる形に注目をしている」と話されました。
まさに市民協働型のデータ収集であり、国内におけるFixMyStreetJapanちばレポなどがその事例です。

また、データの共有の場についても一般社団法人リンクデータのCityData.jpは、草の根データだけでなく、地方自治体のオープンデータを公開する場としても機能しているそうです。

さらにデータの公開者も図書館や博物館、美術館、資料館などにも拡がっていて、OpenGLAMと呼ばれる活動も紹介されました。国内でも京都府立大学 歴彩館の東寺百合文書のデータをはじめ、少しずつCC BYで公開される事例が出てきているそうです。

自治体も「オープンデータ公開可能リスト」のようなものを出すことで、市民からのニーズを聞きながらデータを公開していこうという姿勢もあらわれています。トップダウンからボトムアップの至る面で、データ収集や公開における多様な参加の可能性が出てきていて
「 ”参加型データ社会” という考えが一番大事ではないか。」
という締め括りで瀬戸氏の話は終わりました。

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また、一般社団法人学術資源リポジトリ協議会の理事という立場から、私もGLAM(美術館、図書館、資料館、博物館)の国内でのオープンデータの動きを追加でお話させて頂きました。

まずは、2017年4月1日に正式に開設された人文学オープンデータ共同利用センター、2017年3月に大阪市立図書館が最近になって公開したデジタルアーカイブについて。
そして、あまり知られていない事例として、石川県の能美市立九谷焼資料館に所蔵されている九谷焼画像データのオープンデータ化とその利活用事例について紹介させて頂きました。

九谷焼は石川県の伝統工芸であり、その絵付けが最大の魅力となっています。この絵付けがしっかり再利用できる大きさで公開することで、様々な事例が生まれ始めています。湯呑みやスマホケースをはじめとして、最近では紙皿や建築物などにも使われ始めています。
こうした幅広い利用を支えているのは市民の力であり、GLAMのオープンデータ利活用についても市民がキーになっていることが分かります。
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企業はオープンデータを出せるのか

そして、会場も含めたディスカッションへと移ります。
「企業がオープンデータを出せるのか」というテーマでは、海外の事例として英国ロンドン大学のCDRCが紹介されました。
CDRCは、"Consumer Data Research Centre"の略称で、同センターが様々なタイプの企業系データを収集し、オープンに公開または研究者等が使えるように流通支援するための中間的な研究組織を担っています。興味深いのは民間企業のデータだけでなく、自治体などのデータも合わせて集めて公開されているというところで、二つのデータを組み合わせて分析するなどに使われています。
最も気になる企業がデータをオープンにする意図は、「エンジニアに少し触ってもらってフィードバックが欲しいという考えがあるのではないか」ということでした。
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さらに、会場の参加者の方から企業のオープンデータ公開事例として、バンプレコーダー株式会社が紹介されました。
バンプレコーダーは路面の性状データを計測していますが、発災時には発災前と発災後のデータを防災関連の研究所などに公開しているそうです。厳密にはオープンデータというわけではないとはいえ、企業がデータを提供していく流れは始まっているようです。

続いて、オープンデータが果たすべき役割とはいったい何だろう。という少し難しいテーマに議論は移ります。
それに対して、瀬戸氏からは、「オープンデータがなかった時代は、自治体の統計データや位置データなどを触ったことがある人はどれだけいただろうか?」という問題提起から始まりました。
確かに専門家を除き、そういうデータの存在やそのデータの利活用を考える人はあまりいなかったかもしれません。しかし、「そのデータがオープンになっていくことで、市民をはじめとしたみんなで議論のきっかけが始まるのではないか」と瀬戸氏は語ります。

そして、
「ホームページにただ公開されているだけではなく、きちんとオープンデータとして生データが誰でも利活用可能になって公開されていることが大事であり、そういったデータを組み合わせて使えるようになることで、市民からのアクションにつながるのではないか」
ということでした。


データの主導権争いが出てくる?

会場からも、様々な刺激的な質問が出てきました。
Q:「データがますます力を持ってくると、間違った情報を出した場合でもそれが拡がっていく可能性があり、最初に誰がデータを出して広めるかなど、誰がデータの主導権を持つかが大事になりそうだ。その点についてどう考えているか」
→瀬戸氏「今後、色々なプレイヤーが出てくることは避けられないため、誰がデータを作ったのか、誰がデータを利活用したのか、というものが紐付いていく仕組みは大事かもしれない」


Q:「コミュニティがデータを作って出していく場合、データの粒度は大事で、声がでかい人のデータが真実になってしまうということがありえるため、声を出してない人たちをどう引っ張り上げるか?」
→瀬戸氏「OpenStreetMap(OSM)から学べるところは多い」
OSMでは街歩きをして地図を作るというマッピングパーティというイベントを開催し、自分が調べたデータが地図に載ることを実感することで、参加のハードルを下げています。一方で下げすぎるとデータの質が下がることも考えられるため、そのバランスは大事とのことでした。
「いかに参加のハードルを下げるか」が、オープンデータを作る市民コミュニティにとって大事なようです。

Q:「オープンデータはデータの使いやすさも大事なような気がするが、機械可読性を高めるようなデータを出すようなツールはあるか」
→福島「CityData.jpをはじめとしてツールは多く見られるが、難しいのは可読性を高めるフォーマットではなく、語彙を統一していくための部分だったりする」
と私からコメントをさせて頂きました。
さらにシビックテックの立場からでは、「可読性はもちろんだが、データが出てくることの方が大事であるため、CSVでも良いのでとにかくデータが出てくる方が嬉しい」という話も出ました。
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これからのオープンデータは参加がキーワード

最後に瀬戸氏よりまとめとして頂いたのは、これからのオープンデータは参加が一つキーワードになってくるということ。そのための場作りとしてシビックテックコミュニティは大事とのことでした。
また、分野的にもGLAMの分野はこれからアート系の方やクリエイターの方に参加してもらうことがこれから大事ではないかということでした。

データの作成者や公開者が自治体だけに限らず、今後は多様になっていくのかもしれません。


講演のつぶやきまとめはこちらから。臨場感あるので別の角度から講演を知ることができます。
togetter(本当のオープンデータの話をしよう)

また、発表資料はこちらからご覧いただけます。




グラフィックレコーディング


こちらの講演のグラレコ(by 松井大さん)です。
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講演動画


ご興味をもってくださった方は、記事にしきれなかった部分もありますので、是非講演もご覧ください。





著者プロフィール:福島健一郎(@kenchif
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CivicWave運営メンバーの一人。
一般社団法人コード・フォー・カナザワ(Code for Kanazawa) 代表理事、アイパブリッシング株式会社 代表取締役
Code for Kanazawaが開発した5374(ゴミナシ).jpは100都市以上に展開。