Not so open-minded that our brains drop out.

科学とニセ科学について書くブログ

日本学術会議のホメオパシー否定会長談話とホメオパシー関連団体の反応

日本学術会議がホメオパシーを否定する会長談話を発表した*1日本学術会議は政府から独立して職務を行う内閣府所管の「特別の機関」であり、日本の科学者の代表機関である。

ちなみに現在の会長は医師で東大名誉教授の金澤一郎氏で、以前から厚生労働省の審議会でホメオパシーに警鐘を鳴らしていた人物でもある*2

会長談話の概要とその波及効果

それほど長くないので本文を読んだほうが早いかもしれないが、要点を述べるとすれば、、

ホメオパシーの医療関係者への浸透とホメオパシー施療者養成学校ができている事実について「強い戸惑いを感じざるを得ません。」と述べ、ホメオパシー信奉者が理論的根拠にしている「水の記憶」については「荒唐無稽としか言いようがありません。」と一刀両断。Shangらによるメタ解析を引用して効果が否定されていることを示した上で、定番の言い訳「『幼児や動物にも効くのだからプラセボではない』という主張」に対しては「「効くはずだ」という先入観が判断を誤らせ」ると説明するという丁寧さ*3。「確実で有効な治療を受ける機会を逸する可能性があることが大きな問題であり、時には命にかかわる事態も」とホメオパシーのリスクを押さえた上で、欧米では効果がないことが分かっているのに信じている人が多くて手がつけられない状況になっているとして「欧米と同様の深刻な事態に陥ること」に懸念の意を表明した。

と言ったところ。

ホメオパシーに肯定的な要素は一切見当たらない非常に厳しい*4内容で、山口の訴訟で矢面に立たされているホメオパシージャパン系団体のみならず、日本のすべてのホメオパシー団体の活動にかなりの痛手を与えたものと思われる。

あの日本助産師会も会長談話に賛同

この会長談話に呼応して、多くの医療系学術団体・職能団体が賛同の意思表明を行った*5。その中でも特筆すべきは日本助産師会だろう。これまでも散々指摘してきたように、日本助産師会はむしろホメオパシーを推進する活動を行ってきた過去*6があり、理事の神谷整子氏ですら新生児の出血症の予防に必要なビタミンKの代わりにホメオパシーのレメディを与えていたことを朝日新聞の取材に明らかにしていた*7。山口のビタミンK不投与訴訟の直後には、不自然に「西洋医学」を連呼する不可解な声明を発表し*8、その後の声明でも

山口県で起こったビタミンK2シロップを投与せず児がビタミンK 欠乏性出血症により死亡した事例については、当該助産師が補完代替医療の一つであるホメオパシーによる効果を過大に期待したためと考える。ホメオパシーのレメディはK2シロップに代わりうるものではない。

(引用元:http://www.midwife.or.jp/pdf/H220810_K2.pdf 強調は引用者による)


と、あたかもホメオパシー自体に一定の効果があると考えているかのような記述が残されていた。

一方、今回の日本学術会議の会長談話を受けての声明では、

今般、日本学術会議金澤一郎会長は8月24日付けで「ホメオパシー」の治療効果は科学的に明確に否定されており医療従事者が治療に使用することは厳に慎むべき行為という談話を発表されました。日本助産師会はその内容に全面的に賛成します。

日本助産師会は、山口県で乳児がビタミンK欠乏性出血症により死亡した事例を受け、ホメオパシーのレメディはK2シロップに代わりうるものではないと警告し、全会員に対して、科学的な根拠に基づいた医療を実践するよう、8月10日に勧告を出しておりますが、一昨日出されました日本学術会議の談話を重く受けとめ、会員に対し、助産業務としてホメオパシーを使用しないよう徹底いたします。

(中略)

日本助産師会としては、現段階で治療効果が明確に否定されているホメオパシーを、医療に代わる方法として助産師が助産業務として使用したり、すすめたりすることのないよう、支部を通して会員に通知するとともに、機関誌及びホームページに掲載することで、周知徹底いたします。出産をサポートし、母子の健康を守ることができるよう、会をあげて、真摯にこの問題に取り組んでまいりたいと存じます。
また、現在、分娩を取り扱う開業助産師について、ホメオパシーの使用に関する実態調査をしており、集計がまとまり次第公表いたします。

(引用元: http://www.midwife.sakura.ne.jp/midwife.or.jp/pdf/homoeopathy/homoeopathy220826.pdf 強調は引用者による)


今回は完全にホメオパシー否定の方向に舵をきったと言っていいだろう。ただし、だからと言って現在に到るまでの日本助産師会のホメオパシーに対する貢献が消え去るわけでもない。また、twitterでの指摘で知ったことだが、今回、日本助産師会がホメオパシーを使用しないように徹底したとされるのは「助産業務」のみであり、それ以外の業務、すなわち「妊婦、じよく婦若しくは新生児の保健指導」(保健師助産師看護師法第3条)に関しては少なくとも明示的にはホメオパシーの使用が禁止されていないことも気になる。

いずれにせよ、現在、行われているという「ホメオパシーの使用に関する実態調査」の結果公表とその後の適切な対応が待たれるところだ。

日本ホメオパシー振興会の永松昌泰氏は相変わらず

ブログのグタグタ感に定評がある永松昌泰氏は会長談話に対する「準コメント」をブログで発表した。

当振興会では、
本来のホメオパシーとは何か」
という根本的問題をまず明らかにすることを急務と考えていますので、
この談話についての正式なコメントは、
まだ先になりますが、
ホメオパシーの科学性については、
「本来のホメオパシーとは何か」をHP上に掲載した後、
既に予告していますように、
じっくりとブログに掲載しますので、
当面の間は、それをもって
今回の日本学術会議 金澤一郎会長の談話に対する、
「準コメント」とさせていただきます。

(引用元: http://www.hahnemann-academy.com/blog/2010/08/post_158.html強調は引用者による。)


山口での訴訟の直後から問題を起こしたのは「本来のホメオパシー」ではない、という主張を行ってきた日本ホメオパシー振興会・ハーネマンアカデミーオブホメオパシーを率いる永松氏だが、一体いつになったら問題を起こしたホメオパシーが偽物で自分たちのが本物であると判断する基準を明らかにしてくれるのだろうか。

何はともあれ、もう間もなく発表されるであろう永松先生の「本来のホメオパシー」談義にご期待ください!

日本統合医療学会と帯津三敬病院の見解

民主党鈴木寛議員に国際シンポジウムで挨拶をしてもらったり*9、政権与党と比較的近い距離にあったと思われる日本統合医療学会*10だったが、その鈴木議員は日本学術会議の会長談話を受けてあっさりと反ホメオパシーに回ってしまった*11鈴木議員、ホメオパシーの記述のウェブサイトからの早々の削除、ご苦労様でした*12

しかしながら、日本統合医療学会日本学術会議の会長談話には賛同せず、これまで通りの立場を貫いている。

この新聞報道は、ホメオパシーの“或る団体”の不正事件を大きく取り上げた
ものであり、更には発表された「日本学術会議会長談話」には実態と異なる内
容が含まれており、結果として誤解を生む内容となっています。
そこで、日本統合医療学会として、
1)日本学術会議に、早急(9 月中旬)に、公開討論会の開催を呼びかける。
その場に於いて、ホメオパシーに関する国の内外の実態を明らかにすると
共に、統合医療の立場を明確にする。
2)関係諸団体に対して、統合医療の立場を明確に伝えるよう努力する。
統合医療理事長の見解

A)ホメオパシーについて
① アメリカ国立衛生研究所(NIH)では、ホメオパシーは代替医療の分
野として、調査研究の対象となっており、当学会でも同意見である。
諸外国に於いては、ホメオパシーの有効性の報告が多くあり、ホメオ
パシーは研究の対象であると考えられている。
③ 今回、問題となった「ホメオパシーの療法」は、助産師の職権を逸脱
した医療行為であり、しかも、独断で正当な医療を排除したとすれば、
それは正に犯罪行為であり、処罰されるべきである。今後、この様な
問題の発生を防止する為、国家は厳しい規制を考える必要がある。

B)統合医療および代替医療について

(中略)

代替医療には現時点で安全かつ有効で利用すべきものが多く存在す
る。今回のような不適切なホメオパシーの団体の不適切な使用の事件
により、安全で有効な代替医療が否定されることがないようにしたい

(引用元:http://www.imj.or.jp/pdf/100826.pdf)


日本学術会議に公開討論を呼びかけるという複数の意味で無茶な提案を持ちかけた点は新しいが、山口の訴訟について問題を起こしたのは「不適切なホメオパシーの団体」であって、ホメオパシーそのものが危険とは言えないというは先述の永松氏と似通った立場のようだ。


一方、日本統合医療学会の理事であり、日本ホメオパシー医学会の理事長である帯津良一氏が名誉院長を務める帯津三敬病院は「ホメオパシーを使用中の患者様へ」として以下のようなPDFを発表した。

皆様の中にもご存知の方も多いかと思いますが、8月24日に日本学術会議より「ホメオパシー」についての会長談話が発表されました。
現在、当院では代替療法のひとつとしてホメオパシーを取り入れております。ご指摘の通り、科学的根拠は明らかではありませんが、200年の以上の歴史を持ち、欧米や日本、当院でも効果を認める患者様が存在することもまた事実です。ですから、現時点では、ホメオパシーの使用を継続していく予定でおります。

(引用元: http://www.obitsusankei.or.jp/new/news.pdf 強調は引用者による。)


実際の日本学術会議の会長談話では「ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。」と念押しされているわけだが、帯津三敬病院のPDFではどういうわけか「科学的根拠は明らかではありません」と「ご指摘」されたことになっている。それに、ホメオパシーを継続する理由に「効果を認める患者様」を登場させたのも卑怯というものだろう。怪しいお水から帯津先生も宣伝に一役やっている天仙液*13まで、何かを使うと効果があると感じてしまう患者様がたくさんいるのは事実だが、そういう主観的感想とは一線を画して、正しく客観的な情報を提供しインフォームド・コンセントを実現するのが医者の仕事ではないのか。私には帯津氏の態度が患者への責任転嫁に見える。

陰謀論を展開しビタミンK不投与の正当化に足を踏み入れた日本ホメオパシー医学協会

ホメオパシージャパン系の日本ホメオパシー医学協会は、山口の訴訟で被告になった助産師の所属団体であり、日本のホメオパシー団体の中でも、特に当事者的立場にあると言えよう。日本ホメオパシー医学協会は当初、25日に日本学術会議の会長談話に対するコメントを発表するとウェブサイトで告知していたが、その後「後日」に書き換えられ、結局「見解」が表明されたのは28日から29日早朝にかけてのようだ。

その見解は日本学術会議の権威*14を"希釈"する作業から始まっている。

日本学術会議』という機関は、政府から独立した特別の機関であるため、本会議自体に行政・立法・司法の三大権限を有していません。つまり、今回の「ホメオパシー」についての会長談話の公表内容は、日本学術会議という一機関の見解であり、政府の見解ではありません日本学術会議の声明文を見ていきます


その独立性の高い機関が公式にホメオパシーを否定したことが大きな反響を呼んでいるわけだが。


そして、その「見解」の中身は相変わらずの陰謀論が満載。

アメリカでホメオパシーが衰退した背景には二つの理由があります。一つはアメリカ医師会によるホメオパシーの弾圧です。当時のアメリカ医師会はあからさまにホメオパシーを叩き潰すという目的のために設立された圧力団体であり、競合相手のホメオパシー医師たちを妨害し、廃業に追い込むという目的のために組織されたものです。これは推測ではなく、実際に米国医師会の設立目的として掲げられているものです。米国医師会がどのようにホメオパシー潰しを行っていたかの詳細は以下の文献をお読み下さい。

(中略)

アメリカでホメオパシーが衰退したもう一つの理由が、日本学術会議が主張するとおり、1910年のカーネギー財団によるフレクスナー報告に基づく医療改革があります。
しかし、カーネギー財団と米国医師会は裏で繋がっていた証拠があります。フレクスナー報告書を「設計」したのは米国医師会であると断言している者さえいます(Roberts, 1986)。

(中略)

すなわち米国医師会がホメオパシーを叩き潰すために設立された協会であり、フレクスナー報告書を設計したものが米国医師会であるとするなら、フレクスナー報告書はホメオパシーを叩き潰すためのシナリオだったということが言えます。

(引用元: http://jphma.org/About_homoe/jphma_answer_20100828.html 強調は引用者による。)


まさにMMRを地で行くような語り口である。


それ以外の反論の根拠もさんざん使い古されたもので目新しさはなかった。何のために発表を引き伸ばしたのだろうか。あえて言うならビタミンK不投与の是非に関わる見解が公式に打ち出されたことである*15

今事実の相違から裁判で争っている事例を、あたかも、一方の言い分を事実であるかのような前提で話をするのは、いかがなものかと思います。現に、助産師は第1回口頭弁論にて、訴えを棄却し法廷にて争う立場であることを表明しています。まず、日本学術会議は「ビタミンKの代わりにレメディーを与えられた」と主張していますが、それは本当に事実でしょうか? またマスコミはK2シロップを与えないことで死亡したと断定していますが、それは本当に事実でしょうか? 事実が明確になっていない段階でこのような形でマスコミが報道したり日本学術会議が声名を出すことに問題はないのだろうかと思います。
K2シロップを投与していても出血を起こす事例も報告されており、(第3回乳児ビタミンK欠乏性出血症全国調査成績 S63度 厚生省心身障害研究。 S60年7月〜63年6月まで3年間に、突発性ビタミンK欠乏出血症が126例、そのうち、K2シロップ投与していたのは16例。12.6%)、確かにリスクは減るものの、100%確実とは言い切れない予防法です。今回の件で、K2シロップは確実に出血を防止するもの、と認識する人が増えているように思われますが、そのような慢心により、実際に出血が起きたときの対処が遅れることを懸念しています。
もし、このK2シロップにそこまでの必要性があるのならば、国は投与を義務化すべきと考えますが、生後わずかな赤ちゃんに、出血を防止するために人工物を投与することが、本当に何も影響がないのか、K2シロップは副作用がないと言われていますが、長期的に見ても本当に何も影響がないのか、誰も追跡のしようがない状況で、義務でない人工物を摂取しない、という自由は、もちろん自己責任においてですが、認められるものと考えています。この件はいずれ法廷で事実関係が明かされるものと考えています。

(引用元: http://jphma.org/About_homoe/jphma_answer_20100828.html 強調は引用者による。)


確かにビタミンKの投与ですべての出血症が防止できるわけではないが、投与すればリスクを大幅に低減できたのは事実だ。シロップを飲ませるだけでリスクの低減ができたのに、それを行わなかった助産師がいたとすれば*16、これは重大な過失だろう。この日本ホメオパシー医学協会の見解は、シラフでも交通事故が起こるのだからと飲酒運転の罪を矮小化するようなもの*17ではないのか。

ましてやビタミンK投与による「慢心」云々の話が、どうしてこのタイミングでこの人たちの口から出てくるのかもさっぱり理解出来ない。むしろ「慢心」によって赤ちゃんを危険に晒していたのはホメオパシーの方ではないのか。そして、この期に及んで何の証拠もなくK2シロップの安全性について難癖をつけているわけだが、こういう無責任な言説こそ新生児の生命を不要なリスクに晒す元凶ではないのか。

極めつけはお決まりの「自己責任」だ。ここでいう「自己」とは一体誰のことを指しているのだろう。


赤ちゃん? お母さん? お父さん? 助産師? それとも日本ホメオパシー医学協会自身?


少なくとも命を落とすという最悪のリスクに晒されているのは物言えぬ「赤ちゃん」だ。*18

*1:http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d8.pdf

*2:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100719/1279545144

*3:もちろん、プラセボに過ぎないホメオパシーが幼児や動物に効いているように誤解される原因はそれだけではないのだが、会長談話でこれ以上仔細に渡って説明することは難しかっただろう。

*4:これは正当で公正な厳しさだ。

*5:http://togetter.com/li/44927

*6:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100731/1280608405

*7:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100806/1281117346

*8:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100710/1278709485

*9:http://www.imj.or.jp/pdf/20100330-2.pdf

*10:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100719/1279545144

*11:http://mainichi.jp/select/science/news/20100827ddm008040045000c.html

*12:現在:http://suzukan.net/manifesto_2_11.html 魚拓:http://megalodon.jp/2009-0906-2116-07/suzukan.net/manifesto_2_11.html

*13:http://www.tensen.com/book/book14.html

*14:確かに日本学術会議には権威があるかもしれないが、本質的に重要なのはそこではない。科学的な見地からホメオパシーが公式に否定されたことが重要なのだ。

*15:同じ内容ではないが、そのような見解は以前にもコメントアウトされてこっそり公開されていたのだが。http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100806/1281117346

*16:少なくとも神谷助産師は不投与を認めている。

*17:ただし、これは比喩にすぎず似ていない部分もある。誰しもそのリスクを承知しているであろう飲酒と違って、助産師はシロップの代わりにレメディを与えるリスクを認識していなかった可能性がある。

*18:そして、誤解がないように書いておかなければいけないことは、少なくとも山口の訴訟に関して言えば、母親は初めビタミンKの代わりにレメディが与えられていることを知らなかったとされているということだ。仮に知っていたとしても、出産の専門家のアドバイスに従ったにも関わらず責任を問われるのでは理不尽というものだろう。