名前を音読みする昔の例

http://anond.hatelabo.jp/20091208004450
 「有職読み」というタームは初耳でしたが、名前の漢字を音読みすることはだいぶ古くから行なわれています。最も著名なエピソードは『古今著聞集』にある家隆の子息の名づけをめぐる滑稽譚(後日紹介します)でしょうけど、今ざっと探したなかで見つかった一番古い例は次の『江談抄』の話でしょうか。

「天暦皇帝、道風朝臣を召し、勅して云はく、「我が朝の上手は誰人ぞや」と。申して云はく、「空海・敏行」と。時の人難じて云はく、「大師の御名においては音読に奏すべきなり。敏行をばなほ『としゆき』となむ奏すべき」」と云々。

(類聚本系『江談抄』巻二)
――村上天皇(926〜967年)が小野道風を召して質問した。「日本での(書の)名人は誰か」。道風は「空海と敏行(藤原敏行)です」と答えたが、その受け答えを非難する人がいて、「弘法大師のお名前は音読すべき(くうかい)でしょうが、敏行は『としゆき』と呼ぶべきであろう」と。
 道風は敏行を「びんこう」と呼んだことがわかります。
 また、『平家物語』に慣れ親しんだ人なら、冒頭に近い部分に出てくる

近く本朝をうかがふに、承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼、おごれる心もたけき事も、皆とりどりにこそありしかども……

の人名は、「まさかど」「すみとも」(以上訓読み)「ぎしん」「しんらい」(以上音読み)と読み慣わしていることを思い出すでしょう。