日本企業は手元資金が過剰、賃金は低過ぎる-IMFエフェラールト氏
野原良明、Brett Miller-
日本は被雇用者に対して雇用主の力が強くなり過ぎた
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労働市場改革はアベノミクスの成功に不可欠
潤沢な資金を持つ強者対安い賃金で働かされる弱者ー。国際通貨基金(IMF)は日本の企業と被雇用者の関係をこのようにみる。労働市場のこの問題に対策を講じなければ日本全体が敗者になると、対日審査責任者のリュック・エフェラールト氏が指摘した。
同氏は東京でのインタビューで、日本の「労働者の賃金交渉力が弱くなり過ぎたことを懸念している。日本の労働市場は雇用主に有利な柔軟性が高くなり過ぎた」と語った。
日本銀行が26日発表した資金循環統計によると、企業(金融を除く民間)の現金・預金は4-6月に242兆円と過去最高に達した。企業が賃上げに動いていないことが示唆される。賃金が上がらなければ消費が伸びず、インフレや成長の足かせになる。
日本の労働組合は正社員の終身雇用維持を重視してきたが、現在の日本の労働市場はいわゆる非正規労働者が約40%を占める。
エフェラールト氏は日本が、企業が経済の変化に適応する力を弱める厳密な終身雇用という極端なモデルから非正規労働者には雇用の保証や福利厚生がないという別の極端なモデルに移行したと考える。
「終身雇用モデルは歴史的に見て1960年代と70年代には日本経済にプラスだった」が、「有用性は失われたと思う」とエフェラールト氏は述べた。
両極端ではなく、企業が人員を再編できると同時に被雇用者にも理にかなった退職条件と福利厚生が用意されるような雇用形態が日本には必要だと同氏は言う。正社員の転職を容易にすることは賃金動向の力学にも労働力の効率的な配分にも役立つと同氏は指摘した。
エフェラールト氏は最低賃金や介護ワーカーの賃金を引き上げる政府の取り組みを評価。既婚女性がフルタイムで働くインセンティブを減らす配偶者控除は廃止すべきだとの考えを示した。
労働市場の改革がなければ金融緩和も財政出動も日本経済の方向を変えるのには力不足だと指摘。労働市場改革は「アベノミクスが設定した時間枠の中で目標を達成するために不可欠だ」と述べ、賃金上昇加速と労働市場の適度の柔軟性がなければ、日本の成長が今日の水準から大きく加速することはないだろうと論じた。
原題:IMF Sees Japan Inc.’s Cash Hoard as Excessive and Wages Too Low(抜粋)