羆を「白熊」と解することについて

 飛鳥時代に唐からパンダが送られた、とする珍説を紹介する文。おもしろかったです。
 http://syulan.sakura.ne.jp/200706/panda.html

3.ヒグマと白熊(パンダ)

 第三に、ヒグマとパンダ。ヴェントさんが「生羆」を「白熊」と誤読したという可能性は、「生きた白熊」という文章でちゃんと「生」の字を読んでいるみたいなので難しそう。むしろこれはmujinさんに教えていただいたとおり、そもそも彼が「羆」という字を「白熊(=彼的にはパンダ)」のことだと思ったのかも知れない。それか、「羆」という字を縦に分解して「罒」「熊」と作っているのかと誤解して、「罒熊」=「白熊」=「パンダ!」だという結論に達したのかもしれない。

 いずれにしても、もしヴェントさんが漢和辞典を使わずに中国語の辞書だけを使ったか、あるいはそうやって外国語に翻訳された日本書紀を資料にしたと仮定すれば、上記のような誤訳がでる可能性があるかもしれない。

 まあ私も肝心のヴェント氏の原著を見ていないのですが、この通りの話であるとすれば、筆者が仮定した「外国語に翻訳された日本書紀を資料にした」が正しいと思います。多分、利用されたのはアストンの英訳『日本書紀』(https://twitter.com/HanShotFirst_jp/status/213546183010951170)だよ。(あるいはアストンの翻訳を元にしたまた別の資料)

 (クリックで拡大)はっきりと white bears と訳している。もっとも、アストン自身は(もちろん)これをパンダだとは理解していませんが。注3の部分をさらっと和訳しておきますね。

ここに用いられている漢字「羆」は「しぐま」とよまれ、山田氏の辞典や『三才図会』の記述によればホッキョクグマ(シロクマ)を意味することになる。マレー氏の『日本ハンドブック』のなかで、ホッキョクグマは北海道沿岸で時々見かけるが、希少であるとディキンズ氏は言う。後に70枚の羆の皮について言及されているが[斉明5年是歳条を指す――consigliere注]、この数量からすると、結局これはホッキョクグマではなく、蝦夷からカムチャツカにかけての北方地域に多くいる、大きな茶色いクマであるヒグマを指すのではないかと疑わせる。このヒグマは、日本列島に生息するずっと小さい黒いクマとは全く異なっているのである。しかし、ホッキョクグマが当時の蝦夷にもっと多く生息していた可能性はあるだろう。

 これがめぐりめぐってパンダとして解されるようになったとは、なかなか数奇な運命を辿った「誤訳」であります。