黙然日記(廃墟)

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産経「正論」で八木秀次氏がが社会主義を肯定。

 5/8分です。ファンクも初心者です。どのぐらい初心者かというと、やっとジェームス・ブラウンの名前を覚えたところ。

【正論】「国民の憲法」1年 広がる奇妙な改正反対論を正す - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140508/plc14050803140005-n1.htm

 八木秀次麗澤大学教授です。麗澤大に移籍したのを機に改めて八木氏のプロフィールを見ると*1、専門分野が「法哲学」「法思想史」の他は憲法学関係ばかりになっていますから、本人的には憲法学者のつもりなのかもしれません。しかし研究テーマが「保守主義思想研究」とか「国家論」で、憲法そのものを研究する姿勢は見えません。それと、著書がPHPや扶桑社などからの一般書ばかりというのは、学者として情けないですね。ところでこのプロフィールでは、八木氏が日本教育再生機構理事長であるらしい片鱗はまったくうかがえません。機構のサイト*2を見ても理事長のプロフィールは「高崎経済大学教授」のままになっているし、同姓同名の別人かと思ってしまうところです。ただでさえ、偉大な工学者とまぎらわしいのに。教育問題に口を出すのは趣味の範疇ということでよろしいでしょうか。
 さて本題、「正論」は憲法の話です。「憲法は国民を縛るものではなく国家を縛るもの」という、自民党産経新聞憲法草案に浴びせられる批判を「それは近代立憲主義といって古い考え方だ」と切り捨て、「第一次世界大戦以降、日本国憲法も含む現代立憲主義では国民も縛られる」として、例により納税・教育・勤労の三大義務を挙げています。しかし、憲法が他の法律と違うのは国家のあり方を規定している点であり、その意味で主権者国民により「国を縛るもの」であることに変わりはない点には、口をぬぐっています。日本国憲法第99条が公務員だけに憲法遵守義務を課していることについても、定番の憲法教科書を引っ張り出して、国民の憲法遵守義務は暗黙の了解と片付けていますが、引用文を読むかぎり、「権力監視などにあたり主権者として遵守する義務が当然ある」のであって、「憲法は国民を縛るためにある」とは読めません。いずれにしろ、「憲法は国家を縛るためのものではない」という言い方は、超国家主義者による詭弁にしか見えません。
 まあそのへんはともかく、近代立憲主義から現代立憲主義への切り替わりについて八木氏の解説に注目したいと思います。長くなりますが引用すると《近代憲法の保障する人権が単に形式的な自由と平等を保障するにとどまり、真に人間らしい生活を保障する役割を果たしていないとの主張を社会主義思想が広めるに従って、国家の役割も憲法観も大きく変わっていった》《第一次世界大戦以降の各国の憲法では、労働基本権や最低生活の保障、勤労権、教育権など、その実現のため国家の積極的な介入を要求するような権利がうたわれるようになった》。だから福祉国家の「大きな政府」を目指す現代立憲主義が正しいのだ、というわけです。これが憲法学の常識だとして八木氏が推奨するなら、ずいぶんとまたリベラルな立場に移られたものだと思います。高経大から麗澤大に移って、思想が180度転換したのでしょうか。とてもそうは思えません。学界の定説をまず提示し、現代立憲主義の目指す福祉国家から「福祉」の部分を無視して(あるいはタテマエとして利用して)、国民生活に介入する「大きな政府」の部分だけを残して超国家主義に利用しよう、という姿勢なのでしょうが、そのために一度は「社会主義思想」の肯定を経由しなければならなかったことは、八木氏にとって断腸の思いでばて買ったかと忖度します。どうせなら、教育再生と同じように日本国家社会主義機構でも設立して趣味として活動してみればいいのに。