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つぶやきに耳をすます 大震災1週間、阪神の教訓生きる

2011年3月21日16時51分

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写真:避難所生活を送る東日本大震災の被災者たち。寒さをどうしのぐかも課題だ=16日、宮城県南三陸町、西畑志朗撮影拡大避難所生活を送る東日本大震災の被災者たち。寒さをどうしのぐかも課題だ=16日、宮城県南三陸町、西畑志朗撮影

写真:まつばら・りゅういちろう 1956年、神戸市生まれ。東京大学教授。08年から2年間、本紙「論壇時評」を担当した。著書に『日本経済論』『金融危機はなぜ起きたか?』など。まつばら・りゅういちろう 1956年、神戸市生まれ。東京大学教授。08年から2年間、本紙「論壇時評」を担当した。著書に『日本経済論』『金融危機はなぜ起きたか?』など。

 不規則に停電を繰り返す東京の自宅を出て、電源を求め場所を変えながらこの原稿を書いている。

 筆者は阪神大震災で実家が被災し、末妹を亡くした。2日後に自転車をかつぎ、兵庫県西宮市から神戸市の避難所に入った。しかし二次災害である津波が激甚だった今回の東日本大震災にかんしては、こうした体験だけからでは語り尽くせないと感じている。

 その限りで述べさせていただくが、この1週間の経過については阪神大震災の教訓が生かされていた。被災地では、必要な事柄が場所により時によりくるくると変わる。直後にはあんなにありがたかったおにぎりさえ、じきに飽きられる。

 一般のボランティアは、現場で食事を調達できる程度まで復旧が進まなければ、役に立ちたい一心で駆けつけてもむしろ足手まといになる。そこで今回は、各団体の管理者が現地を視察し、ボランティアにしっかり働いてもらえるよう配置場所や仕事内容の指示を出すまで待機することが徹底されたようだ。

 それでもなお、遺体を荼毘(だび)に付すための施設が足りなかったり、避難所にも燃料や食料が不足したりしている。それほどまでに状況は深刻である。

 大災害においては、被災者に同情したくとも心情を推し量れないことが多々ある。「なぜ、娘が死んだのに私が生き延びているのか」と自分を責める母親がいる。筆者の母も震災後にそう言い続け、縊死(いし)してしまった。心情を酌み取れず「がんばって、残された孫を育てましょうよ」と励ましたことを、筆者はいまも悔やんでいる。

 今回は津波災害が重なっただけに、さらに苛酷(かこく)な心情を抱える被災者が多いと想像している。接することができたなら、「分かったつもりにならない」ことを肝に銘じて、問わず語りに出るつぶやきに、ただ耳を傾けたい。

 災害時には言葉が深いところでうまく通じないということは、福島の原発事故についても当てはまる。マスコミに登場する原子力の専門家は、「現状では……」とか「想定を超えた……」と前置きしつつ解説している。なるほどそのように条件をつければ、手堅い表現になるのだろう。しかし素人目には同じに見える専門家が、以前は「まず安全」と太鼓判を押していたのである。専門家のつける前置きに何かが隠されていると勘ぐったとしても、責めることはできない。

 だからこそツイッターやフェイスブックでは、外国人のものまで含めて「腑(ふ)に落ちる解説探し」が真剣に行われている。「爆発が起きてもなお安全」とは納得できなかった人が、関西へ逃避したり、籠城(ろうじょう)しても耐えられるよう燃料や食料を買いだめたりしている。政府は買いだめを批判しているが、信頼を裏切られたと感じる人にとっては、むしろ合理的といえよう。現状では、専門家にとって分かる説明よりも、素人の腑に落ちる解説が求められている。

 福島の原発については、政府が作業員にかんし被曝(ひばく)線量の上限を従来の計100ミリシーベルトから同250ミリシーベルトに引き上げたという15日の報道が、この上なく重い。

 それほどの危機に陥ったと政府が判断したこともさりながら、オール電化生活さえも享受してきた我々の選んだ政府が、自衛官や警察官、消防士ら直接原発に携わったのではない人々に対しても、生命の危険を賭し放水することを命じたのだ。

 主権者が現場作業者に生命を賭すよう命じた例は、歴史に満ちている。しかしそれが主権在民の世でも起きることに、そして関係者たちの酌み取りがたい心情についても、私たちは思いを致す宿命を負ったのである。(社会経済学者 松原隆一郎)

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