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パワハラ被害者が録音していることを揶揄する風潮はマズい

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:アフロ)

みなさん、こんにちは。

豊田真由子議員のパワハラ発言が話題になっています。

豊田議員の言動の酷さについては、録音もあり、誰の目(耳?)にも明らかですので、特に論評する気もありません。

自民党にはたくさんいるとしても、それは是正するべき

ただ、自民党では、これくらいは当たり前であるかのような言動をする河村建夫元官房長官のような方もおられるようですので、それはさすがにおかしいということは指摘せねばなりません。

豊田真由子議員の報道に「あんな男の代議士いっぱいいる」 自民・河村建夫元官房長官

仮に自民党の男性の代議士に、豊田議員のようなパワハラをしている議員が大勢いたとしても、それはすべてが問題ですから、自民党は、公党として、そのようなことが起きないよう各議員に指導するべきでしょう。

もちろん、このような発言をする河村建夫元官房長官が、「豊田議員と同じことしてんじゃね?」と疑われる最前列に立つわけですが、その意味では勇気ある自爆発言です。

なお、河村元官房長官は、発言を「撤回」していますが、撤回すれば何を言ってもいいというのが最近の自民党の流行なんでしょうかね?

録音したことを揶揄する風潮

さて、こうした弁解不能の豊田議員を何とか擁護したいのか、それとも逆張りで面白いことを言いたいからか分からないのですが、一部では、あの録音自体を攻撃する風潮があるようです。

一例として、ワイドナショーという番組で、このようなやり取りがあったようです。

松本人志「秘書の方はわざと録音してて『ちょっと手を出すのはやめてください!』っていう説明ゼリフは気になりましたね」

東野幸治「録音してこれを週刊誌に売るってことですね」

犬塚浩弁護士「確かに証拠としてはある種、出来過ぎという部分もありますね」

松本人志「誘導してる部分もありました」

犬塚浩弁護士「録音って前もって準備してないとできないですから」

出典:松本人志「秘書は豊田真由子議員が怒るよう誘導したんでしょ?録音しながら『手を出すのはやめてください』って説明セリフ(笑)」

芸能人のプライバシーを「売った」こととは質が違う話

まず、今回の件は、国会議員の行動ですから、録音して週刊誌に提供しても、全く問題のある行動ではありません。

芸能人のプライバシーを記録して「売る」こととは質が異なります。

しかも、秘書と国会議員のやり取りですから、これは国会議員の仕事の一環としてのものなのです。

そもそも、この点から誤解があると思います。

録音するのは既に被害があるから

そして、松本人志さんの、「秘書の方はわざと録音してて」「誘導してる部分もありました」という言い方や、犬塚弁護士の「確かに証拠としてはある種、出来過ぎという部分もありますね」「録音って前もって準備してないとできないですから」という言い方も、まるで挑発してパワハラの状況を作り出して録音したかのような印象を受ける会話です。

しかし、パワハラの状況を録音するという行為は、そういう状況が既にあり、被害が発生しているので、やられたことを証拠に残すために録音するものです。

何もされていないところに、上司などを挑発してパワハラをやらせてその状況を録音するということは、一般的にあり得ません。

録音を否定的にされると被害者は救われない

しかも、パワハラは、突然なされる場合も多く、しっかりと録音するのは難しいことが多いのです。

豊田議員のパワハラを録音した行為は、その状況をうまく録音できたものとして、本来、評価すべきです。

ところが、犬塚弁護士のように、「確かに証拠としてはある種、出来過ぎという部分もありますね」と言ってしまい、否定的に捉えてしまう。

これがまかり通ると、どうなるでしょうか?

そうなると、パワハラを録音できなければ「本当にそういうことがあったのか分からない」と言われ、しっかり録音できれば「出来過ぎだ」と言われるわけです。

パワハラ被害者にとっては、たまらない状況が生まれます。

日々、パワハラの被害を受けている被害者は、第三者にその状況を口頭のみで訴えてみても、なかなかすぐには理解してもらえません。

自分が受けている被害を誰かに分かってもらうために、録音しかないのです。

それをこのように揶揄する風潮は、さすがにマズいので、これについては警鐘を鳴らしたいと思います。

<参考記事>

上司との交渉や職場での会話の録音~バレたら解雇?

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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