コンビニ中堅のセコマ(札幌市)が、脱コンビニ戦略を加速させている。今年4月には旧社名の「セイコーマート」から「マート」を削り、小売業からの脱却を印象づけた。丸谷智保社長の頭にあるのは、コンビニ業界の飽和感に対する危機意識だ。

 セコマは北海道で1079店、関東で97店(2016年6月時点)を運営するコンビニ中堅企業。総店舗数は全国1万8000店超のセブンイレブン、同1万2000店前後のローソンやファミリーマートに及ばないが、道内に限れば約3割の最大のシェアを持つ。

 セコマの特長は、店舗内で調理する惣菜や、北海道産の食材を使って自社生産したオリジナル商品。サービス産業生産性協議会がまとめた2016年度の顧客満足度調査では、セブンイレブンを上回って業界首位に立った。小粒でもキラリ光る存在といえるだろう。

7月15日の昼過ぎ、記者が札幌市内のセイコーマート店舗を訪れると店内調理「ホットシェフ」の商品などを手にした約50人がレジに並んでいた
7月15日の昼過ぎ、記者が札幌市内のセイコーマート店舗を訪れると店内調理「ホットシェフ」の商品などを手にした約50人がレジに並んでいた

 ところが、セコマの丸谷智保社長は焦りを隠さない。「コンビニだけでは生きていけない」。7月15日に札幌市内で開いた経営戦略説明会では、食品メーカーや卸企業、金融機関に対し、コンビニ業界が限界に達しつつあると訴えかけた。

コンビニ誕生40年、鈴木氏の退任が節目の象徴

 「今年も既にいろんな変化があった。英国のEU離脱もそうだが、コンビニ業界ではやはり鈴木さんがお辞めになったこと。コンビニ誕生から40年。FC(フランチャイズチェーン)制度に支えられて成長してきた業界が、一つの節目を迎えた象徴ではないか。私なりにそう考えている」

 「鈴木さん」というのはもちろん、セブン&アイ・ホールディングスの会長兼最高経営責任者(CEO)から退いた鈴木敏文氏のことだ。1974年、東京・豊洲にセブンイレブンの日本1号店がオープンしてから40年あまり。鈴木氏はPOSシステムの活用や公共料金の徴収、ATM設置など常にコンビニの針路を示してきた。日本フランチャイズチェーン協会によると、2016年6月時点の全国のコンビニ店舗数は5万4157店。経済産業省も2015年3月の調査報告書で「コンビニは国民生活と日本経済に不可欠」と記している。

 丸谷社長はコンビニ普及の足がかりが「コンビニエンス(便利さ)ではなく、FC制度にあった」とみる。FC制度のもとでは、オーナーが手を挙げさえすれば即座に有名チェーンの看板を掲げることができる。事業経験がなくても本部の手厚い経営指導を受けられるほか、テレビCMで目にする人気商品の安定調達も可能になる。

「コンビニ店舗数は明らかに飽和」

 一方、店舗の増加で競争が激しくなれば当然、従来通りの成長は望めなくなる。業界では「住宅街への出店規制が緩和されれば、10万店まで伸びるポテンシャルはある」(ローソンOB)との見方もある。一方、セコマの丸谷社長は「北海道だけで3000店超がひしめく。全国で見ても、コンビニ店舗数は明らかに飽和している」と話す。

 最近では店舗を運営するオーナーの疲弊も指摘される。「人件費や光熱費の高騰で、オーナー負担の営業経費が増えた。ロイヤルティーを受け取る本部は隆々としていても、1店舗1店舗はかなり収益的に弱体化した」(丸谷社長)。24時間営業を継続することの負担、オーナーの後継者問題――。FC制度はここにきて、試練のときを迎えている。

 だからこそ、丸谷社長はこう訴える。

 「小売業としてのコンビニチェーンは曲がり角に差し掛かっている。セコマは原料の生産、製造、物流、小売までを手掛ける総合流通企業に脱皮する」

 この方針を象徴するのが社名変更というわけだ。「セイコーマート」から「マート」(お店)をとることで、小売業からの脱却を社内外に印象づける狙いだ。

丸谷社長は歯に衣着せぬ表現でコンビニ業界の現状を分析してみせた(7月15日、札幌パークホテル)
丸谷社長は歯に衣着せぬ表現でコンビニ業界の現状を分析してみせた(7月15日、札幌パークホテル)

 同社の取り組みを川上から見ていこう。セコマは2007年、農業生産法人の運営を始めた。現在運営する農地は116ヘクタール。所有するハウスは176棟に上る。栽培しているのは白菜・キャベツ、レタスなどの葉物類から、ジャガイモやにんじんなどの根菜まで20品目。2016年の収穫見込みは2100トンに及ぶ。

 こうして生産した農作物の多くを、関連会社の工場で加工する。その品目もカレーや卵焼きといった定番商品から、ジンギスカンなど北海道ならではの食品まで様々。今年8月には牛乳やヨーグルトを生産する新工場の建設に着手し、来春の稼働をめざす。もちろん、ここで使われる牛乳はすべて北海道産だ。

 自前の物流機能にもこだわる。現在、セコマが抱える物流拠点は北海道15カ所、本州5カ所の計20カ所。年内には釧路で移転作業を進めていた最新鋭の配送センターが完成する見込み。277台のトラックが1日にのべ約7万キロを運送しているという。

米アップルを意識?

 比較対象として適切かどうかは分からないが、故スティーブ・ジョブズ氏率いる米アップル・コンピュータも2007年、社名から「コンピュータ」を削った。社名変更を発表したのは初代iPhoneの発表会の席上でのこと。それから約10年が経ち、米アップルはパソコン会社という枠を超え、総合ライフスタイル企業に変身した。

 セコマも、コンビニという従来の殻を破る大躍進を実現できるのだろうか。農業生産法人はセブンイレブンやローソンも設立済み。むしろ、特色ある商品づくりは経営資源の豊富な大手こそ有利とも言える。それでもセコマが大風呂敷を広げられるのには、もう一つの理由がある。

 「セコマは直営店舗が全体の75%を占める。直営店なら、新商品をブランドとして育てるなど、時間のかかる経営戦略でも根気強く遂行できる」

 丸谷社長は「FCオーナーは廃棄ロスを極端に嫌うので、ロスの出るものに対しては発注を絞る」と話す。セコマの場合、近年、店内調理品のブランド「ホットシェフ」などに力を入れてきた。こうした商品は開始当初はヒットが約束されておらず、さらにその商品特性上、売れ残って廃棄処分になりやすい。こうしたリスクある商品の充実化も、FC中心の店舗運営なら難しかったかもしれない。

セコマは来春までに、ウインドーを使い店外向けに情報を発信するデジタルサイネージを全店で採用する。コストはかかっても、直営店なら導入しやすい
セコマは来春までに、ウインドーを使い店外向けに情報を発信するデジタルサイネージを全店で採用する。コストはかかっても、直営店なら導入しやすい

 「固定客をつかんでブランドを育てるのは非常に難しい」と丸谷社長。「直営店なら本部の考えを浸透させやすい。ブランドが出来上がるまでじっくり取り組める」という。「総合流通企業への転身」といっても、最終的に消費者と接点を持つのは店舗。店舗にそっぽを向かれては本部の経営改革も成し遂げられない。

 北海道のコンビニの異端児が問いかける「コンビニ限界説」。セコマの取り組み次第では、店舗の直営化や商品の自社生産・物流といった取り組みが大手コンビニチェーンに波及し、コンビニ業界のビジネスモデルが一変する日も来るかもしれない。

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