6月12日、自民党の二階俊博幹事長が、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と約1時間にわたり会談した。

 日韓関係は難しい状況が続いている。この状況はいつまで続くのか。

会談した自民党の二階俊博幹事長と韓国のムン・ジェイン大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)
会談した自民党の二階俊博幹事長と韓国のムン・ジェイン大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 2015年12月、岸田文雄外務大臣と韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が会談し、従軍慰安婦問題について「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した。いわゆる「日韓合意」である。

 この合意に基づき、日本は韓国に10億円の解決金を支払い、合意の時点で生存していた元従軍慰安婦の約70%(昨年末時点)がそれを受け取ったという。

 しかし、これで解決というわけにはいかなかった。当時、韓国側は、「ソウルの日本大使館の前にある慰安婦像を撤去するよう努力する」としたが、その後、少女像が撤去されないどころか、昨年12月には釜山の日本総領事館の前に新しい慰安婦像が設置されたのだった。

 日本政府は撤去を求めた上に、長嶺安政・駐韓大使と森本康敬・釜山総領事を一時帰国させ、両国間に緊張が走った。

 日韓合意当時の大統領は、朴槿恵(パク・クネ)氏だ。しかし、彼女は3月に韓国憲法裁判所から罷免を言い渡され、その後、5月に行われた大統領選挙では、ムン氏が圧倒的な支持を得て勝利した。

 これが、日韓関係をさらに複雑なものにしている。選挙戦の最中、ムン氏は「韓国国民の多くは日韓合意に賛成していない。当選したらこれを見直し、再交渉するつもりだ」と宣言していた。さらに、彼は北朝鮮に対して友好的な姿勢を示し、「条件が整えば平壌にも行く」と発言した。これに伴い、韓国に設置されている米軍の最新鋭迎撃システム「THAAD」を撤去するかどうか考え直すとも言った。

 5月に安倍晋三首相とムン大統領が電話会談をした際、ムン大統領は「日韓合意については、韓国国民の多くが納得していない。双方が賢く解決できるよう努力する必要がある」と強く主張した。

 一方、安倍首相は、「日韓合意は両国の間で約束したものだから、未来志向の日韓関係を築くための基盤だ」として、あくまでも日韓合意の路線を維持したいという姿勢を示した。

 そこで今回、二階氏が韓国を訪れ、ムン大統領とこの問題について話し合うことになった。ムン大統領は、「解決までには時間が必要だ」と言いながら、安全保障の問題とは切り離して考えると話した。二階氏は、「未来志向の日韓関係を築きたい」という安倍首相の親書を手渡した。

 慰安婦問題については、相変わらず日韓の間で意見の隔たりがある。しかし、双方が2国間を行き来する「シャトル外交」を実施することが決まるなど、ムン大統領も日韓関係の改善について消極的ではないように見える。

韓国人の反日感情は、非常に強いわけではない

 6月13日付の読売新聞朝刊に、興味深い記事があった。読売新聞社と韓国日報社が共同で世論調査を実施し、ムン新政権が発足したことによる、今後の日韓関係への影響を聞いたものだ。

 日本では、「変わらない」が70%、「悪くなる」が20%、「良くなる」が5%。これに対して、韓国では、「良くなる」が56%、「変わらない」が32%、「悪くなる」が7%だった。

 この結果をどう読むか。僕は韓国国民が日韓関係に対してある種の「期待」をしていると受け取った。日本人の多くは、「韓国人は反日感情が強いから、日韓合意にも反対している」というイメージを持っている。ところが、今回の世論調査によると、韓国人の方が日韓関係について前向きに考えているようだ。

 この結果を見ると、日本人の韓国に対するイメージは、韓国人の日本に対するものよりネガティブだ。もっと言えば、韓国が日本に対して反日感情が強いと言うが、意外に日本人の韓国に対する嫌韓感情のほうが強いのではないか。これこそ重大な問題である。

 韓国人が日本に対して反日感情を持つのは分かる。日本は明治時代に日韓併合を行い、韓国を事実上の植民地にしてしまった歴史がある。韓国人がこれに反感を持つのは仕方ない。

 しかし、日本人の嫌韓感情の根本的な理由はよく分からない。一つ言えるのは、今、日本人の間でナショナリズムが強くなってきているということだ。日本の中で、「韓国が嫌い」、「中国も嫌い」、最近では、「米国からも自立すべきだ」という感情が高まりつつあると感じる。

 僕は、これは非常に危険なことだと思う。日本が、昭和の時代に戦争への道を進んだのはなぜだろうか。そこに極端なナショナリズムがあったからだ。日本が強くなるためには、満州や韓国を日本の領地にしよう。中国を倒そう。そういった極端な思想から、誤った戦争を始めることになったのだ。

 僕は戦争を知る最後の世代として、ナショナリズムが危ないことや、特にアジアの国々と友好関係を築かなければならないことを強く感じている。

 このナショナリズムを先導しているのは、マスコミであり日本会議だろう。安倍首相も例外ではない。非常に危険だ。

北朝鮮を「楽園」と報じた日本の新聞

 先に触れた世論調査の結果は、韓国人が「ムン大統領が対日関係において強硬的な態度を取ることが日韓関係の“改善”に繋がる」と捉えていることを示すものではないと思う。

 これは、韓国人の「日韓関係を改善したい」という期待の現れである。だからこそ、僕はこの結果が意外だった。もっと言えば、この世論調査の主体が、リベラルな朝日新聞ではなく保守的な読売新聞だということにも驚いた。

 1970年代には、日本の新聞は「北朝鮮こそ、理想の国だ。地上の楽園がある」と書いた。一方、韓国については批判を続けた。

 ところが当時、僕はある金融機関のトップから、「田原さん、今、韓国は経済がよくなってきているんですよ」という話を聞いた。僕はそれを確かめたくなって、韓国に取材に行くことにした。同国の経済界トップたちと会って話を聞くと、やはり韓国経済は非常に元気だという。現代自動車や浦項製鉄所(現・ポスコ)などの企業も訪れたが、確かに急成長を遂げていた。韓国は批判されるような対象ではなかったのだ。むしろ、いつか韓国は日本に追いつくのではないかという恐れも感じた。

 帰国した僕は、総合月刊誌「文藝春秋」で、「韓国の政治は独裁だが、経済は絶好調だ」という話を寄稿した。すると、文藝春秋に抗議が殺到した上、あちこちで糾弾集会が開かれた。僕は糾弾されるのは割に好きだから、自ら集会に出向いて、そのすべてに反論した。

 そしてさらに1年半後には、僕の主張していた通り、韓国経済はぐんぐん成長していて、かなり好調だということが日本国内でも認識されるようになった。今、韓国内で、歴代大統領の中で最も人気が高い人物の一人は、当時の大統領である朴正煕(パク・チョンヒ)だ。これも、当時の韓国が国としてうまくいっていたことを示しているだろう。

 僕はこれまで、韓国の政治家に何人も会って取材をしてきた。面白いのは、韓国の政治家たちは、与野党問わず、「日本は本当に素晴らしい国だ。我々は日本を手本にしている」と言っていたことだ。「でもね、田原さん。それは、国民の前では言えないんだ」と付け加えていたが。

 しかし、今回の調査は韓国国民の日本に対する感情は悪くないことを示している。問題はむしろマスコミにある。日本では、週刊誌や月刊誌で、韓国や中国の悪口を書くと売れる。だから、日本の雑誌は、韓国や中国を批判する記事を積極的に書こうとする。これも、韓国に対するイメージを悪化させている大きな一因だと思う。韓国でも、日本の悪口を書けば反響がある。

 互いの反感を煽っているのは、マスコミではないか。そろそろ煽るのは止めて、日韓を始めとするアジアの将来を考えるべきだ。ここが、最も重要な問題だと思う。

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