Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

認知症の末期

2012-03-05 08:39:43 | 認知症の看取り
本日、Twitterで紹介されていたブログの記事です。

http://drsammy.cocolog-nifty.com/haguredoctor/2011/02/post-f7f4.html

記事自体は少し古いもののようです。

進行した末期の認知症の治療について、とても大切な問題提起をされて
いました。もちろん、あちこちで繰り返し論じられて来た内容なのですが、
とても大切な内容なので紹介させて頂きました。

実は、認知症の末期はある意味がんの末期よりもずっと難しい部分があり
ます。がん末期では、ほぼ全ての患者様・御家族はこの病気が治癒しない
段階にあり、時間と共に苦痛が増す疾患であるという認識がありますので
御本人を苦しめたり尊厳を奪うような延命治療は控えようという考えが
まだ受け入れやすいと思います。

しかし、アルツハイマー型をはじめとする認知症も次第に悪化し、
死に至る疾患であるという認識はあまりなされていません。
治療をすればまた元気になって、食事が出来るようになる、という
気持ちが強く、点滴を控えようとか、苦しそうだから鎮静を考慮すべき、
という考えにはなかなかなりません。
がんの場合にあるような、ガイドラインもなければコンセンサスも
存在しません。

医療者は多くの場合、認知症末期で肺炎を繰り返すようになると予後が
極めて悪く、家族が期待するような良い形の退院は殆どない事を
知っています。よく議論される胃瘻を行なったところで、本人に多大な
苦しみと、御家族に精神的肉体的、そして金銭的な負担を強いる割に
限定的なメリットしかない事を知っています。
しかし、この事を時間を掛けて説明しても理解を得られる事は少なく
「見殺しにしろと言うのか」という反応が非常に多いのが現実です。
医療者としてはこの「かわいそう」という感情を封印し、
機械的に治療を行った方がずっと楽です。
しかし、それではいけないと考える医療者は悩む事になります。

また、たとえ身近な家族が理解示したとしても、在宅で亡くなると
分かっている家族を看るのも、やはり大きな負担となるでしょう。
そういった決断をサポートする医療者・介護者の働きが十分ではない
事も現実には多いと思います。また、御本人の苦しみを見ていない
「遠い親戚」ほど、家族の決意を阻もうとするでしょう。
何度も申し上げていますが老衰に近い患者様に「安らかな死」を
提供するためには
家族と医療者にしっかりした死生観がある事がとても大切なのです。

そのためにまず、高齢者看取りの現実を皆さんと考えていきたいと
思っています。

そして、積極的な延命や治療を選択する場合も
御本人のためにこれだけの知識を持った上で選択して頂ければ

と思っています。


4 コメント

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ブログ主です。 (tsammy610)
2012-03-05 18:40:15
突然におじゃまいたします。
とりあげていただき、ありがとうございました。
「実は、認知症の末期はある意味がんの末期よりもずっと難しい部分があります。」
私は緩和ケアを専門にしているわけではありませんが、地域唯一の入院医療機関に勤務した期間が長かったため、本当に実感しています。
少しでもこういった現状が皆に知られるようになるといいですね。
Unknown (RY)
2012-03-05 21:44:46
初めて拝読させていただきました。
ものすごく同感です。

しかし、現場では死生観議論など行われていない現状があります。
食べれなくなって死ぬのはダメで、肺炎で死ぬのはいいのか。

ずっと考えてます。
Unknown (こたろう)
2012-03-06 08:50:20
>RY様
御訪問、コメント有難うございます。
入院や胃瘻などは本当に色々な問題を抱えており、
この手の、人間の苦しみに関する問題はきっと
正解はないのだと思います。
だからこそ皆悩んでいるのだと思います。
「そうですか」と簡単に治療を中断する家族は
いませんし、医療者とて、延命を希望しなかった
患者様・御家族をしっかりサポート出来ない場合
も多々あります。
でも、私達がこの仕事をしている以上、
向き合い、考え、悩むもとは義務だと思います。苦しみに寄り添う、なんて簡単には言えない
事ですが、それを目指す事が求められているのだと
私は思っています。
Unknown (こたろう)
2012-03-06 08:51:14
>tsammy610様

御訪問、コメント有難うございます。
私は2年前に高齢の祖母を同じような状況で亡くしており、
胃瘻・入院を選択しない事の難しさを実感して
おりますが、一方で何の議論もないまま、「死なせない」
事だけを目的とした医療を続ける事への抵抗も感じています。
家族にとっては恐らくどちらも難しい選択ですが
いずれを選ぶにしても周りの人間ではなく、御本人の
立場を考慮した決定をして頂きたいと願っています。
そのために、私が出来る事はわずかですが
何度かに分けてお話が出来ればと考えています。