【私の一人暮らし】ユーチューバー・藤原麻里菜が語る「一人だからこそ生まれるクリエイティブ」

公開日:2018年3月13日

22歳、実家住まい、ユーチューバー

22歳の私は、実家住まいのユーチューバーだった。

だらしのなさがこの一行に詰まっているが、恥ずかしながらも事実だ。20歳の時に「無駄づくり」というYouTubeチャンネルを一人で始めた。無駄なものを作って、その過程や使用シーンをまとめた動画がメインで、今でも1週間に1回くらいの頻度でアップしている。

当時は「歩くたびにおっぱいが大きくなるマシーン」や「入ったまま動けるこたつ」なんかを作っていた。両親は無駄づくりのことを知っていて、何も言わないどころか、アップを楽しみにしてくれていた。ちょっとおかしい。

歩くとおっぱいが大きくなるマシーン
歩くとおっぱいが大きくなるマシーン

私だったら、子どもがこんな動画をアップしていたら秒で勘当する。

実家は横浜にあり、たまに東京へ行く際、1時間の電車を我慢する程度で、特に不都合はない。母がパートをしながら家事をしてくれていた。

私はというと、限りなく無職に近いくせに片手間程度にしか家事を手伝わず、ぬくぬくと実家ライフを満喫していた。

しかし、焦燥感があった。特に夢や目標があるわけではないが、バイトをしながらユーチューバーをやって、少し褒められてニヤニヤして。そんな毎日から脱したいなという気持ちが日に日に強くなった。

そして22歳の時バイトをしてお金を貯め、東京に引っ越すことにした。

バカな物件に引越した

初めての一人暮らしに選んだ物件は、中野のボロアパートだった。横から見ると、テトリスのLを逆さまにしたような建物。設計した人は、相当なバカだと思う。

中野のボロアパートの自室
中野のボロアパートの自室

一人暮らしを始めて、仕事や身の周りのことを全て自分一人でやらなくてはいけなくなった。とても慌ただしく、生活のスピードに体も心もついていけなくなった。

6畳一間で見るテレビはとてもつまらなかった。冷たくて埃っぽい部屋。目に映るものが全てつまらなく見える。一人でいると寂しかった。心がざわざわして、近くに住んでいる友達を誘ってご飯を食べに行ったり、酒を飲んだりしてごまかしていた。

一人暮らしの寂しさは酒で解決するのだ

そう、寂しさに打ち勝つためには、酒だ。新宿・歌舞伎町にあるゴールデン街という飲み屋街。私はそこに入り浸るようになる。

本名も職業もよくわからない人たちと連日飲んで、ゲラゲラ笑って、眠くなったら家に帰って昼過ぎまで眠るというルーチンができ始めていた。惰性でずっと酒を飲み続けて気づいたら昼の12時になっていた時もあった。

新宿上海小吃
新宿上海小吃

ゴールデン街は、今では名の知れた文化人たちが若い頃に、創作について「あーでもないこーでもない」と酒を飲みながら語っていた場所でもある。

しかし私は、知らないババアの恋バナに親身になったり、知らないジジイの歌に合いの手を入れたりと、生産性ゼロの時間を過ごしていた。

生産性のない楽しい毎日だったが、いかんせん仕事が全くないのだ。アルバイトで何とか生活はできているが、ずっとこのままの生活という訳にはいかない。ユーチューバーとして大成したい訳ではないが、好きじゃない仕事を続けたくはない。自分の好きなことで稼いで、バイトを辞めて、いい感じに生活をしたい。そもそも自分の好きなことって何だろう。

まあ、いいか。とりあえず飲も。そんな感じで、寂しさと共に将来への不安も酒の力で消し去った。

聡明な読者はお気づきだろうが、これは完全に「おわり」に向かっている人間だ。しかし、おわりに向かっている人間はそれにすら気づかないふりをするのだ。

新宿にあったパーティーの残骸
新宿にあったパーティーの残骸

東京に来てから3ヶ月が経ったある日、いつもと同じように酒を飲んで昼過ぎまで寝ていた。トラックが通り過ぎる振動で目が覚めて、あーこのままじゃダメだなとぼんやり思った。

窓から光が差して、空気中の埃がキラキラと目立つ。

孤独に慣れてみよう

「酒を飲みすぎちゃうのは家が悪い」私はそう確信した。新宿から近い中野という場所と、ボロアパートであんまり家の中にいたくないから酒を飲んじゃうのだ。名推理。

ということで、新宿から遠く友達がいない地域に引越した。上野に近い場所で、いわゆる下町的な地域で一人暮らしを再開した。飲みに出かける回数が減ったかと問われれば微妙なところだが……。

しかし、だんだんと一人暮らしに慣れてきた。裸で家の中をぷらぷらしたり、急に踊り狂ったり、奇声を発したり。楽しい。一人って楽しい。他者が誰一人入らない空間が、好きになってきた。

一人暮らしは私をおかしくせる

そういえば、たい焼き作りに精を出した時期があった。

通販でたい焼きマシーンを購入し、「今までにないたい焼きを生み出すぞ」と高い目標を掲げて、毎日、さまざまな組み合わせのたい焼きを焼き続けた。三食全てたい焼きだった。2キロ太った。結局、クリームチーズを入れたものがベストだったのだが、調べたら、普通にクックパッドにレシピがたくさん載っていた。なんだよ。

あと、プロジェクターを買ってワイン片手にゴダールを見た夜もある。誰も見ていないのになぜかかっこつけていた。一人暮らしは、さらに私をおかしくさせる。

だんだんと一人に毒されていった私だが、無駄づくりにも影響を及ぼしている。

ペットが飼いたくなって、犬を作った時もあった。発泡スチロールとラジコンで体を作り、ベロがモーターで動くのだが、なかなか気持ち悪い。また、恋人がいたら寂しさが紛れるのではと、マネキンに色を塗って彼氏を作り上げた。

ヒモ貯金箱
ヒモ貯金箱

これは、「ヒモ貯金箱」というマシーンで、お金をいれると金額に応じて「好きだよ」などの甘い言葉を言ってくれる仕組み。売れないバンドマンを養っている気分になりながら、お金が貯められるというすごいマシーンだ。もう一度言う、すごいマシーンなのだ。

実家にいた時は、こんな発想は出てこなかったなと思う。やっぱり、一人暮らしは私をおかしくさせるのだ。

100円ショップから電子工作へ

ちょっと狂気じみた工作を作り始めた私だったが、なんと技術力がメキメキ上がってきたのだ。

100円ショップで買ってきたポンプに風船をつけて「歩くたびにおっぱいが大きくなるマシーンですけど」と、したり顔をしていた私だが、最近では電子工作ができるようになった。プログラミングをマイコンに入れて、モーターをウイーンと動かしたり、センサーによって数値を読み取ったり、そういった少し専門的なことができるようになったのだ。

そして、モデリングした3Dデータを3Dプリンターで出力することもできるようになった。

スタバでメッセージを書いてもらえない人のためのマシーン
スタバでメッセージを書いてもらえない人のためのマシーン

これは、「スタバでメッセージを書いてもらえない人のためのマシーン」だ。

スターバックスというカフェは、持ち帰り用のカップに「Thankyou」とか「素敵な服ですね」とかメッセージを書いてくれるサービスがあるらしいのだが、私はそれを経験したことがなかった。真っ白のカップを渡されるだけ。それが悲しかったので作った。みんなも書かれたことないよね?

青い箱にカップを入れて、棒をギューっと押すと、スタンプの要領で好きな文章をプリントすることができるすごいマシーンだ。

スタバのカップのサイズに合わせた外箱が欲しかったので、3Dプリンターで出力した。

初めてのモデリングは難しくて「もういやだ。つらい。誰かやって」と自室で独り言を言いながら作っていた。誰もやってくれないから、自分でやるしかない。こんなマシーンは私しか求めていないだろうけれど、それでも作り上げたかったから、頑張ったのだ。

一人でできることを増やして一人になっていこう

生活に関して言えば、料理もできるようになった。

実家に住んでいる時は、冷蔵庫にある母の料理を食べていて、自分ではあまりしなかった。

一度だけ「煮っころがしでも作るか」と、冷蔵庫にあった里芋を切ったら中が緑色をしていて、「新種の里芋だ!」と騒いだら、それはキウイだったことがあった。「やって!TRY」だったらナレーターも無言になるほどだ。それから自分が怖くなり、料理を封印していたのだった。

でも、一人暮らしで毎食カップ麺を食べていたら大変なことになってしまう。料理を作れるようにならなきゃなとレシピ投稿サイトを見ながら失敗を重ねて、ようやく最近、満足いく料理を作れるようになった。

知人に食べさせたら無言だったが、私は満足しているのでよしとしよう。

掃除も洗濯も、細かいところだけれど、ずっと頼っていた部分が、一人でできるようになった。こんなに頼りなくのろまな自分だが、案外、一人で色々なことができるようになった。

一人でできることが増えると、どんどん一人になっていく気がする。しかし、一人に慣れた今はそれが楽しい。

徐々に仕事も増えて行き、アルバイトを辞めて、無駄づくり関連の仕事で食べていけるようになった。工作をしたり文章を書いたり映像を作ったりする仕事がメインだ。一人で考えて一人で作ったものを納品している。仕事の大半が、一人の時間だ。

一人暮らしという環境が、だらしない私を追い詰めて、成長させてくれた。仮に今一人暮らしじゃなくなったとしても、きっと前には戻らない。

一人だからこそ生まれるものたち

一人でいる寂しさと不安、楽しさと自由。それらが混ざって、アイディアが湧いてくる。そして、そのアイディアを一人で出来ることを増やしながら実現してみる。一人暮らしを始めてから、それが楽しくてしょうがなくなった。

以前、尾道で不思議なお店を見たことがある。

尾道の商店「ひめじや」
尾道の商店「ひめじや」

これは、店主であるおじさんが、長年一人で作っているアート作品なのだが、一人だからこそ生み出されたものだなと感じた。話を聞いてみると、奥さんはアートに全く興味がなくて、ちょっと嫌だけど好きにやらせているらしかった。

誰にも相談せずに自分から湧き上がってくるものを信じて作り続ける人たちを私は尊敬している。私の中に、これほどまでの独創性とそれを実現する情熱があるかはわからないけれど、何だかこの商店を見て元気が出た。一人の世界に閉じこもって作るものって、やっぱりおもしろいなと改めて思えた。

なので、フェイスブックで「濃いメンツで飲んでまーす」と連日写真をアップしている人たちを妬みながらも、私は孤独と向き合って、これからも好きなことを続けていく。

藤原麻里菜
藤原麻里菜

文・写真=藤原麻里菜
2013年から、YouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始し、無駄なものを作り続ける。Googleが主催するYouTubeNextUp入賞(2016年)。ライターとしては、第三回オモコロ杯未来賞、週刊SPA!「今読むべきブログ21選」、おもしろ記事大賞佳作など。横浜出身。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。ガールズバーの面接では「帰れ」と言われた。
YouTube:無駄づくり / MUDA-ZUKURI
ブログ:藤原麻里菜のブログ
Twitter:@togenkyoo

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