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町工場に届いたかアベノミクス、大阪・経営者の本音-参院選ルポ

  • 「プラスマイナスゼロ」、野党も「ふがいない」との声
  • 円安は評価も仕事は増えず、「ものづくり」への関心期待

町工場が集まる大阪市東住吉区内で測定機器や医療機器などの部品加工や組み立てを手掛ける「新生」。川上幸一社長(53)は、参院選でどの党に1票を入れるか思案している。アベノミクスの効果は期待ほどではなかったが、経済の安定という観点から現政権の維持が選択肢の1つとも考える。

  1959年に創業し、現在は正社員4人を含めパートなど約50人を抱える。売上高は数億円。高度経済成長時代は、松下電器産業(現パナソニック)や任天堂、三洋電機、シャープが地域経済を牽(けん)引してきた。今は中国や韓国企業の製品が台頭し、家電の仕事はなくなった。

  安倍晋三首相は参院選の争点にアベノミクスを掲げる。2012年12月の政権発足後、大型財政出動や日本銀行の異次元緩和で、ドル円相場は昨年14年ぶりの円安、日経平均株価は19年ぶりの株高を記録した。中小企業倒産は政権交代前から3割減少し25年ぶりの低水準、中小企業も収益は過去最高-。自民党の公約パンフレットにはアベノミクスの成果をアピールする文言が踊る。

Osaka General Eco Ahead of Brexit Vote

大阪市の街並み

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  しかし川上氏のアベノミクスの評価は「プラスマイナスゼロ」。リーマンショック後の落ち込みから回復した売上高は年初来から減り、5月には前年同期比で2割程度減少したという。円安による生産の国内回帰の動きはまだなく、「結果的には期待外れの状態」。選挙で「選択肢は正直ない」というのが本音だ。「野党はふがいない。安定を考えるなら安倍政権でもいいのではないかとも思う」とも話す。

安定か失敗か

  例えば、「為替など対外的な政策は今のまま続けてほしい」と思う一方で、政府が賃上げをデフレ脱却の切り札に掲げることには不満だ。時給が上がり、月額で1人5000円ほどの増加になった。川上氏は「加工賃は物価が上がっても決して上がることはない。人件費の高騰はこのままでは経営を圧迫する」と危惧する。賃金政策は経営者に任せてほしいというのが言い分だ。

  中国の景気減速や英国の欧州連合(EU)離脱を受け、円相場は年初来対ドルで約18%上昇している。安倍首相は6月1日の消費増税の先送り発表に際して参院選で国民の信を問うと述べ、「総合的かつ大胆な経済政策」を秋に講じる方針も示した。同24日には英国民投票の結果判明後、インタ-ネット上で「安定した政治が今こそ必要だ。世界経済が不安定な中、世界は日本政治の安定を求めている」と訴えた。

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  民進党の岡田克也代表は1日、日本外国特派員協会での記者会見で、円安・株高の絶好のタイミングで構造改革を進めることができなかったと、アベノミクスの失敗を強調した。朝日新聞が2、3の両日に行った世論調査では、安倍首相の経済政策を「見直すべきだ」との回答が55%と「さらに進めるべきだ」の28%を上回った一方で、安倍政権の支持率は41%と不支持率36%を超えている。

為替がどう振れても

  
  東大阪市内で自動車部品などを製造する「フセラシ」の嶋田守社長は自民党に投票するつもりだ。「今は安定と継続が重要」と強調する嶋田氏。世界経済の潮目が変わりそうな時だからこそ、政治的な変化は望ましくないという。「自民党はよくやった。消費増税後も企業をもうけさせ、税収も増えた。経常収支も黒字を回復した」と評価する。

  米国やタイ、中国などでも事業を展開している嶋田氏は、円相場が1ドル=70円台後半の硬直した状態から円安に動いたのは少なくとも「良かった」という。しかし、「円安だから日本で作ろうという単純な発想はない」とも話す。「為替はいつまた環境が変わるか分からない。為替がどうであろうが日本でしか作れない高度な製品を作る」という考えだ。

  東大阪市は国内有数の中小企業の集積地だ。フセラシの本社がある地下鉄高井田駅の南に広がる一帯は、特に工場の密集度が高い。ドアを開け放している会社が多く、機械に向かう従業員の姿が外からうかがえる。金属加工から溶接、建機や印刷に至るまで立ち並ぶ看板が示す業種は多種多様だ。中にはシャッターを閉じている会社や、テナントを募集する張り紙のある物件もあった。

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  中小企業白書(2016年版)によると、日本の中小企業数は381万社と全体の99.7%を占める。従業者数は3361万人と大企業の1433万人の2倍以上に上る。日銀が1日発表した企業短期経済観測調査(短観)では大企業・製造業の業況判断はプラス6と横ばいだったが、中小企業・製造業はマイナス5と1ポイント悪化した。

ものづくり

Osaka Manufacturer

能美工業で働く従業員

Photographer: Buddhika Weerasinghe/Bloomberg

  守口市内で船舶や特殊車両などの部品加工を手がける「能美工業」を営む能美孝司社長は、「アベノミクスで海外からの観光客が増える効果はあったが、日本を支えるものづくりへの関心が感じられないのが不満」という。台湾の鴻海精密工業によるシャープの買収劇も、安倍首相が米アップルなどにトップセールスをすれば、技術の流出を阻止することができたのではないか、と思っている。

  安倍首相の政権運営に点数をつけるとすれば、「たまたまそうなっただけではないか」と思う円安効果の評価も含めて60点。自公政権がこのままの勢力を維持するのは良くないが、「政権がひっくり返るのも困る」のが本音だ。せめて「おおさか維新の会」などがある程度勢力を伸ばすのが望ましいと話した。

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