第1回第2回とお送りした「ノマドワークス講座」。これからもっとノマドワークを極めてみたいというみなさんに向けて、Night School開校式でも「ノマドワークス講座」でも講師役を務めてもらった、「電源カフェ」の管理人・林だいゆうさんと、ライフハッカー[日本版]編集委員の早川大地さんの両名に、ノマドワークについて実践的なノウハウについて語っていただきました。

 

編集部:すでにNight Schoolの連載では、「ノマドワーカーの実体」「ノマドワークスの良し悪し」を紹介してもらいましたが、ご自身で実践されているノマドワークはどのようなスタイルですか?

林:僕の場合、週に数回ほどノマドスタイルですね。「カフェで仕事してるとカッコイイから」という程度の理由で始めたんですが、自分のライフスタイルに合ってるというか、短期集中できるのですごく効率がいいんですよね。今はコンサルティングの仕事がメインですが、クライアントのところで打合せというのも多いですし、資料の整理や考えをまとめる時は、だいたいクライアント会社の近所のカフェで作業してます。

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早川:自分は、もともと日本だけでなく海外でも仕事をしているので、常に移動していて、日本を含め世界中どこでも仕事をする必要に迫られて、ノマドワークスタイルになってるって感じですかね。「決まったオフィスがないと不便じゃないか?」とよく言われるんですが、今やケータイは世界中どこでもつながるから、連絡はちゃんと取れるし、海外のいわゆるワールドチェーンのカフェのほとんどはネットと電源が使えてるから、不便はあまりないですよ。オフィス代わりに仕事している人の姿をよく見かけます。

林:日本でも、ノートパソコンやモバイルアクセス用のツールがだんだん普及して、どこでも仕事ができる環境が揃いつつあるような気がします。そこで必要になのが電源で、「電源カフェ」は、もともと自分のニーズを満たすために立ち上げたんです。どこに電源があるのか、というログですね。それをTwitterで紹介したら、すごく食いつきがよくてびっくりしました。お客側のニーズが高くなってるのか、「コンセント貸します」という点を売りにしているお店は、だんだん増えてきてますね。

早川:パソコンやネット回線といった道具は自前で用意できるけど、電気は買うわけにはいかないですからね。予備バッテリーを持ち歩くにも限界があるから、ノマドワークをするなら電源は必須かも。海外だと電源があるのが当たり前だけど、日本ではまだ探さないといけないし、あっても借りられるのかどうかわかりにくかったりする...。

林:電源カフェ」ではお店の人に聞かなくても借りられるお店を対象にしています。ただし、事前に使用許可がいるところと、何も言わなくても使えるところがありますのでご注意ください。さらにノマドワークの拠点にするなら、コンセントの数や位置などのくわしい情報も必要になってくるので、登録されてる約800店のほぼ全てを管理人である自分がチェックしてから掲載するようにしています。

編集部:800のお店を全部確かめたというのはすごいですね。

林:僕にとってカフェはオフィス代わりで、チェックは趣味と実益を兼ねてるのでそれほど大変じゃないですよ。あくまで自分の基準をクリアしたお店だけを紹介したいので、なかなか首都圏以外の情報を増やせないのが悩ましいところなんですが、その点については現在進めているサイトのリニューアルと合わせて検討していこうと思ってます。

早川:日本で電源の使えるカフェがなかなか増えないのは、長居されて回転率が落ちると思われてるからかもしれないですけど、意外とみんなそんなに長居はしないよね。デスクワークもそうだけど、集中して仕事できるのは2時間ぐらいが限度だと思う。

林:その通りで、あるデータではカフェで仕事をする人の平均滞在時間は1~2時間程度で、普通にお茶をしてる時間とそれほど変わらないと出てます。しかも、長時間利用する時は気を遣って追加オーダーするので、営業的にはむしろ呼び水になるんじゃないかと思います。

早川:その点、海外はカフェに対する考え方が違ってて、社交場とか交流の場と捉えられてるから、長居しててもお店は営業妨害とか考えたりしないですよね。常連が増えるほうがいいし、お客同士が友達になって利用する人がさらに増えてくれるほうがいいし。


編集部:ノマドワークが増えるとそこで新しい出会いが生まれるようになるかもしれませんね。

林:女性のノマドワーカーは増えてきてますけど、出会いという点ではみなさん仕事に熱中してるので、残念ながらほとんどチャンスはありませんね(苦笑)。

早川:確かに。「お嬢さん、USBメモリを落とされましたよ...」とかちょっとありえないシチュエーションだし(笑)。でも、僕と林さんはノマドワーク中に、偶然出会ったんですよ。渋谷のルノワールにいたら、たまたまテレビの取材を受けている林さんがいたんです。そこで取材後に僕から話しかけて、今に至ると。

林:そうそう、その時から早川さんのノマドワークスタイルは国内だけの自分と違っててものすごく興味があったんです。このチャンスに聞いておきたいんですが、世界中でノマド生活を経験されていて、日本との違いってどんなところがありますか?

早川:簡単に言えば規模というかスケールの違いかな。日本の場合はノマドワークといっても、オフィスの代わりにカフェを利用したり、移動中の新幹線を利用したり、といったイメージですけど、海外のノマドワーカーはもっと生活自体がノマドだったりします。例えば、普段はロンドンに住んで、夏の間はN.Y.で働いて、そこでのプロジェクトが終わって季節が変わるとはパリに住むとか。特にデザイナーやミュージシャンとかアイデアやクリエイティビティを仕事にしている人は、世界中をノマドしながら受けた刺激を突破口にしたり、仕事にうまく活かしてる感じがしますよ。

編集部:環境的にもノマドワークをしやすい条件が揃ってるんでしょうか?

早川:たとえば、海外のモバイルアクセスのサービスはプリペイド式が使えるのが一般的だから、事前契約無しで、移動先でもすぐに使えるというのは大きいかも。ネットが使えれば、ロンドンにいようがパリにいようが、仕事できるならどこでもかまわないわけで、そういう状況も影響しているのか、ここ数年でノマドワークをしてる人たちの都市間での行き来はさらに加速してるところがありますね。

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林:おそらくクラウドサービスが普及した影響もありそうですね。自分も以前は重たい外付けHDDを持ち歩いてましたけど、今はネットがあればどこでもデータを取り出せるし、テキストベースの仕事が多いので、既存のサービスでも十分に仕事ができます。

早川:自分の場合は扱うデータ容量が大きいので完全にクラウド化は難しいけど、荷物はずいぶん減ってるかも。4〜5年前はビデオデッキくらいのおおきなインターフェースとか、DATやマイク一式を持ち歩いて、まるで引っ越しするみたいだったのに、今は外付HDDも2.5インチで1TBとかでも持ち歩けるし、ノートパソコンとかも軽くなって、以前紹介した中華パッドくらいでも、メールとブラウジングなら、間に合うこともあるし。


編集部:ちなみに、お二人はどんなクラウドサービスを利用されてますか?

林:SugerSyncDropboxを利用してます。どちらもデータをシンクしたりバックアップするのが簡単なので。

早川:僕はEvernote派。ToDo管理もリストもがっつり使いこんでますよ。サービスやアプリとかは仕事をラクにするため常にいろいろ試してて、目的に合わせたものを探しながら、けっこう使いこなしてます。

編集部:話は戻りますが、日本ではどんな人たちがノマドワークをされてるんでしょうか?

林:ノマドワーカー向けのオフ会のような集まりに参加した時に、100人ぐらいのノマド実践者と直接会う機会があったんですが、年齢は29~42才で男性と女性の比率は7:3ぐらいでした。フリーのプログラマーやエンジニア、サラリーマンが半分で、外で打合せをするという仕事スタイルの方が多かったですね。さらにノマドワークの比率は100%という方は少数で、1日の20%ぐらいが多いでしょうか。それも通勤時間が2時間以上あるので移動時間をノマドワークに充てているということでした。

早川:業種や働き方によってノマドワークの向き不向きは確実にありますよね。デスクワーク中心の仕事では物理的に不可能だし。会社員であれば、社内のコンセサスを得られる仕事かどうかがポイントになってくるはず。

林:どこでもオフィス仕事術』の著者の中谷健一氏が、現役ノマドワーカーの方にアンケートを取られた結果を見せていただいたんですが、早川さんの言うように業種の要因は大きく、企画やアイデアを練るといったクリエイティブ性が求められる業種はノマドワークが認められやすいけど、成果が見えにくい業種はノマドワークが難しい。たとえば、プログラマーはノマドワークに向いてるように見えますが、現実には作業量で仕事を判断されるので難しという話がありました。

早川:ノマドワークが仕事効率や成果と結びつくかどうかはかなり重要で、フリーランスは成果が明確だからやりやすいけど、企業の場合、今までのようにタイムカードを打刻する必要がある職場では浸透しないだろうね。実験的に導入しているところは別として。

林:企業の規模も要因としてありますよ。ある企業では特定の個人だけにノマドワークを許可するわけにはいけないので、部や課の単位で承認されないといけない。となると上司の理解が必須なので、会社が導入のきっかけや理由付けになるデータとして使えるアカデミックな裏付けがあれば、普及にはずみを付けられるかもしれないと考えてます。


早川:ノマドワークはあくまでも手段であって、目的は仕事の効率や質を上げること。3.11以降はどこでも仕事ができるようにしておくことも必要、と感じた個人・企業も多いみたいで、ノマドワークへの関心そのものは高くなってる気がします。

編集部:ノマドワーカーに時間貸しするレンタルデスクのようなビジネスも増えてきてますよね。

林:サービスは増えてますが、まだノマド用途にはこなれていないことが多いですね。実は、退社後、家に帰るまでに自分の時間を持ったり、ちょっと勉強するためにノマドワークするという人が増えているので、その需要に対応するといいんじゃないかと考えています。同じ理由で朝早く利用したいと思っている人、いわば「プレノマド」したい人はずいぶん増えていると思います。

早川:海外ではレンタルオフィスはたくさんあって、ベンチャーのような会社規模が変化している段階ではオフィス費用を削減するためにも、レンタルオフィスを利用するのは当たり前になってますよ。東京は特にオフィス料金が高いし、ニーズを考えるともっとレンタルオフィスは普及してくるはず。そうなると、ノマドワークがしやすくなりますね。

編集部:最後に、ノマドワークを快適にできる場所を見つけるコツはどんな点でしょうか?

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林:カフェでちょっと仕事をしたいという場合、経験則としてターミナル駅から徒歩1分以内のカフェは終日混んでるのでリスキー。5分以内まで足を伸ばす、とランチタイムと午後9時以降をさければ、比較的空いているので作業はしやすいと思います。14~16時ぐらいが穴場時間ですね。

早川:あまり快適すぎると効率が上がらないので、場合によっては電源がなくてもバッテリーが使える間だけ集中して作業ができるところを利用する、という考え方をするのもいいですよ。仕事の内容や自分のペースに合わせたノマドワークスタイルをどう取り入れるかが、一番大切だと思いますよ。

林:ノマドワークは自分の仕事や働き方を見直す機会にもなるので、特に若い人はどんどんノマドワークをして新しい刺激を受けてほしいと思います。

早川:同じく人は移動したほうがいいアイデアが浮かぶと思ってるので、もっとアクティブな人たちが増えるようなノマドワークスタイルを紹介していければいいですね。


(野々下裕子)