プロレスは八百長か否か。
勝ち負けが最初から決まっているプロレスに意味はあるのか。

それは長年語り合われてきた大きなテーマでした。
賛否両論あるところですが、「プロレスには台本がある」というのを前提にした漫画が9月8日に発売されます。
題名は任侠姫レイラ 1 (少年チャンピオン・コミックス)
 
この作品が描いているのは勝ち負けではない。「プロの魂」です。
プロレスは確かに力と技の競い合い。
じゃあ単純に強ければいいのか? 相手の技を避けまくってボコボコにすればいいのか? 断じて否! なぜプロレスラーは相手の投げ技をわざわざ避けずに食らうのか、なぜプロレスラーは自分が殴ったあと、相手に殴られるのか。『任侠姫レイラ』が描こうとしているのはそこなんです。
確かに仰天するような技で相手を倒すプロレス漫画も爽快で面白いのですが、この作品においては勝ったほうが偉いんじゃないんです。だって、この作品のプロレスは「台本(ブック)」があって、勝ち負けは最初から決まっているんだから。強い「だけ」に意味はない。一番大事なのは勝負が決まっている状態の中で真剣勝負を魅せることなのです。


観客の感動を引き出すプロは、自らの技を見せるだけで終わることをしない。その信念の元、対戦相手の力を最大限まで引き出すレイラの戦い方が丹念に描きこまれています。
彼女は自らの華麗な技を見せるのはもちろんのこと、相手の渾身の殴りも、蹴りも、投げも、トペも、両手を広げて全部受け止めます。少女の小さな体で、男たちの最高度に熱い攻撃を決して避けないのです。レイラは巨体の男の攻撃を喰らいながら、こう言います。
「プロレスには……人間を燃えたせずにはおかない……底力がある……プロレスラーの“真剣”だけがなせる業さっ!」(「任侠姫レイラ」第一話より)
相手を徹底的に挑発して、自分は技を受ける。
それは痛く苦しいことだけれども、観客はその真剣さに虜になるのだ。

「受けるプロレス」を少年漫画で表現しようとした試みに拍手を送りたい! そもそも、読者の少年側としては『キン肉マン』のように派手で豪快な技が見たいわけですよ。かつ「プロレスにはなんらかの台本的なものがある」という事に気づいて気持ちがしおれていく時期なじゃないですか。だが、リングの上のプロレスラーは本気なんだ。リングの上の演者でありながら、お互いの本気のぶつかり合いが生み出される時、プロレスは命を取り戻すのだ!
新日本プロレス立ち上げ時に、アントニオ猪木は「ほうきを相手にしても名勝負ができる」と称されていました。レイラもまた、観客を熱狂させるのは相手の全力を受け止める姿を魅せることだと、言葉ではなく自らの身をもって証明していきます。


読んでいくにつれ、読者もまた真剣試合に巻き込まれていることに気付かされます。作家と読み手がお互いに「受け止めあう」作品、それがこの『任侠姫レイラ』なのだ!
さあ、どこからでもかかってこい、受け止めてやる!(たまごまご)