どうしてプロに無償で仕事依頼しちゃダメなのか - 原価のある、時間


Currency Wall Clock via M〓veis e design

ここ数日、"手に職系"のプロに"無償"で仕事を依頼することが続けて話題になってます。


天王寺区広報デザイナー」無償の募集について - Change.orgコチラ
大阪市天王寺区役所が「デザインの力で、行政を変える!!」をキーワードに広報デザイナーを募集するも、区ホームページ・広報紙等にて名前を紹介する代わりに"無償で"制作することが条件だったため、撤回の署名活動が行われている
※追記※これら抗議を受けて大阪市は「学生やアマチュアのボランティア募集」に変更するも、最終的に計画は中止となりました。

好きな人が翻訳を断ってきました - 発言小町コチラ
プロの翻訳家に幾度も無料で翻訳をお願いし、「ご依頼は翻訳会社を経由して下さい」と言われるも、知り合いにお金を要求するのはマナー違反と主張する方の相談が炎上



美容師に「ちょっと軽く切ってくれない?」
ミュージシャンに「新しいCDちょうだいよー」
イラストレーターに「HPのイラスト描いて」……

「友達だから」「ちゃちゃっとテキトーでいいから」などを理由に無償で頼む人はとても多いですが、基本的にはダメです。
親しい間柄で、たまたまタイミングが合った時や結婚式など特別な時にはむしろ喜んでやってくれることも多いですが、その他の場合には承諾してくれたとしても内心あまり良くは思っていないと考えた方がいいです。
「友達だからこそ断りにくい」「有償にしてとは言い出しにくい」と、相手を悩ませています。



プロに無償で仕事を頼む人は、"手に職系"の人達が"技術"をお金に変えて生活しているということを理解できていないのだと思います。
別の言い方をするなら『金=モノ』としか思えていない。


"技術"を無理やりモノに置き換えて例えると、

八百屋さんに「このリンゴ、タダでちょうだい」とか、
「今日の買い物分、全部タダにして」と言っているようなものです。
場合によっては、「数日分の買い物をタダにして」位のこともあるかも。

文頭の天王寺区役所の場合だと、
さらに「ここの店はタダでくれるよー!って宣伝してあげるね」という感じでしょうか。


これだけでもちょっと異常なのが想像つくでしょうか?

"技術料"というのは目に見えないので、"気持ち"に換算されがちなんでしょう。
でも、実際に換算する時に「近い」のは"時間"です。

言うまでもなく、世の中で一番高いのは人件費です。
多くの人が"時間"を売って生活しています。
そんな中、友達に「時間をタダにしろ」というのがどれほどおかしなことかわかるかと思います。

さらに、"手に職系"技術者は一般的な雇用と異なり、時間+αによってその職業が成り立っています。
この+αこそが、その人ならではの"技術"。


同じ職種内には、様々な"技術"を持った人がたくさんいるのだから、"技術"はその業界内で仕事を得るための大事なもの。
買い手がクオリティ、オリジナリティ、値段などで比較検討するのはモノも"技術"も同じです。

例えば牛丼屋をオープンさせようとする時、吉野家松屋の価格を参考に考えますよね?
もし無料、あるいは1杯100円で売ったとしたら、牛丼屋チェーン全体に影響が及び、低価格争いになって自分の首も絞めることになる。
赤字にしかならない価格でしか他社と争えないとなったら、業界全体で品質の低下も起こる。
儲け度外視で質にこだわって頑張っても、副職のない本職の方なら先ず生活から成り立たなくなってしまいます。
その業界で本職のプロとしてやって行きたいなら、なおさら価格には気をつけねばならない。

"技術"の市場原理も同じです。



プロの"技術"をタダにさせるというのは、その人がその業界で生きていくのに大事なものを軽んじる行為なだけでなく、業界全体にまで影響を及ぼしかねないことなんです。
無償や低価格でも引き受ける人がいることが広まったら、業界内での買い叩きも起こりかねない。
だから、あくまで「親しい間柄」で「特別な場合」に「好意」でする場合を除いて、プロの技術者は無償で仕事することを好まないのです。

またプロだからって、否。プロだからこそ、「ちゃちゃっとテキトーに」なんてできないんです。
プロとしてのプライドなどもありますが、いい加減なものが自分の仕事として広まるのは、その"技術"が売り物だけに避けたいのです。
だから好意の無償仕事であっても、殆どの方が有償の仕事と変わらない仕事をしていると思います。



いやいや、だって八百屋さんは仕入れて来てるじゃん!
モノには原価(仕入れ値)があるんだよ。
"技術"はタダでしょ。ちょっとやってくれてもいいじゃん!!

という方もいるかもしれませんが、"技術"を習得し、業界で生き続けるための修練には膨大な時間とお金がかかっています。
制作実費や光熱費などの経費以外にも、技術を発揮させる道具(プロ仕様は高額でケアも大変なものが多い)や、それを支える体力、勉強なんかも原価と言えると思います。

つまり、プロの技術は"原価のある、時間"でもある。



「親しい間柄」の人が、どの「特別な場合」に、
「好意」で、"原価のある、時間"を遣ってくれるか否かはケースバイケース。


ま、ここの測り方が一番むずかしいと言えば難しいんですけどね(笑



*前半にあるリンゴの例え話はデザイナーの友人によるものです。チャットでお互いが過去に受けた狼藉話をしていて、この記事を書こうと思いました。


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*この記事は一年以上前のエントリなので、補足を更新しました→コチラ
 (2014/6/13 追記)