スチュアート・ビッグス、ユーリー・ハンバー 2011年4月1日 8:37PM
香港の定常的な放射線量は、いまも日本東北の麻痺した原発を作業員が必死で封じ込めようとしているにも関わらず、現在の東京の放射線量を上回っていることが分かった。日本から放射線汚染が広がっているという恐れは過大視されている可能性が浮上した。
東京都健康安全研究センターが発表したデータによれば、昨日(3月31日)の東京の中心街である新宿区での放射線レベルは毎時0.109マイクロシーベルトだった。香港天文台のウェブサイトによれば、香港の九龍地区では毎時0.14マイクロシーベルトが観測されている。ちなみに一般的なX線検査などでは通常50マイクロシーベルトを浴びている。
王立放射線科医協会の指導医を務めたボブ・バリー氏によれば、多くの国々において東京の放射線量を超える値が自然状態で観測されるという。3月11日の津波が福島第一原発を襲い、危機が発生した後にこうした値の30倍の放射線汚染が東京を覆った時、数千人の外国人が日本を離れることを決めた。専門の分析家は、現在の値を見ても東京の放射線量はロンドンやニューヨークのそれをわずかに上回るだけだという。
「日本の状況は放射線への恐怖が実際の放射線より遥かに被害を引き起こしたという意味でチェルノブイリのパターンを引き継ぐことになるでしょう」とバリー氏は旧ソ連で1986年に起こった世界史上最悪の原発事故を参照しながらメールに答えてくれた。「現在の東京の放射線量がどんな値であれ、恐らく世界の多くの場所の自然背景放射量よりも低いと思います。」
ニューヨークを超えた
東京の放射線量はわずかながらニューヨークのここ一週間で記録された毎時0.095マイクロシーベルトという値を上回っていると、様々なガイガーカウンターの持ち主からリアルタイムで情報を集積している「バッググラウンド・ラディエーション・サーベイ」プロジェクトは報告している。地震災害の前日の東京では平均で毎時0.0338マイクロシーベルトを記録していた。
1945年にアメリカ合衆国が原爆を落とし14万人の命を奪った広島県での放射線量は3月31日には毎時0.051マイクロシーベルトであったという日本の文科省のデータが公表されている。
他方でシンガポールでは3月31日の午後4時には毎時0.09マイクロシーベルトだったと当地の国立環境庁が報告している。そしてロンドンでは同じ日には毎時0.08マイクロシーベルトだったとイギリスの国立放射線観測ネットワーク兼緊急応答システムのRIMNETが報告している。
地下ウラニウム
イギリスの健康保護局は典型的なイギリス人は年間で2,200マイクロシーベルトの放射線を自然背景放射から浴びると言う。これは毎時に換算すると0.251マイクロシーベルトとなり、今日東京で報告されている量の2倍以上の値に相当すr。
「イギリス国民が年間平均で被曝する放射線の半分の量はラドンというどんな土壌にも存在する不可視の、透明な放射性のガスから検出されています。」と健康保護局の放射線センターの副所長を務めるジョン・ハリソン氏がメールで回答した。「これは世界中の土壌で発見される腐敗したウラニウムの崩壊生成物による作用(訳者注:左記表現、読者のご指摘により訂正 2011.04.03 13:00)であり、どのぐらいの量が大気に吐き出されるのかということは土地毎の地質に依存しています。」
そしてイギリス南西の景勝地として観光客に人気のコーンウォールはイギリスの他のどの場所よりも4倍ほどラドンの量が多いという。
自然放射
世界原子力協会によれば自然放射は世界中の放射線量の85%を占めるという。そして原子力産業以外にも製薬業や建設業といった人為の活動が占める割合は全体の1%に過ぎないという。食料品も放射性物質を内包しており、135グラムのブラジル・ナッツ(訳者注:ミックスナッツの種類)はおよそ10マイクロシーベルトの放射量を持つと、イギリスの健康保護局も指摘する。
IAEA(国際原子力機関)の2008年の報告書によれば、その他で自然放射量に加わる活動としては、鉱業、製粉(訳者注:milling)、そしてウラン鉱石や鉱物砂の加工、化学肥料の製造と使用、そして石油・石炭などの化石燃料の燃焼、などが挙げられている。
世界で最も高い放射線量が(訳者注:定常的に)記録されるのは南インドのケララ州チェンナイ市とタミルナドゥ州(訳者注:左記地名、読者のご指摘により訂正 2011.04.03 10:00)である。この街の住民の年間被曝量は30ミリシーベルトに上り、およそ毎時3.42マイクロシーベルトであると世界原子力協会が報告している。インドは膨大な量のトリウムという物質が土壌に存在する。1ミリシーベルトは1,000マイクロシーベルトである。
同協会はブラジルとスーダンでは、(訳者注:最大で)年間40ミリシーベルトつまり4.57マイクロシーベルトの被曝量が観測されたているとしている。
部分的なメルトダウン
東電の原発は、日本史上最大級のマグニチュード9の地震が引き起こした高さ15メートル超の津波を受けた後にバックアップ用電力を含めた電源系統を失い、部分的なメルトダウンの段階に突入した。この原発は東京から220キロメートルの距離に位置している。そして作業員や消防士、そして自衛隊や米軍が電源復旧とリアクターの冷却に努めている間も空気中と海に放射性物質が流れ込んでいっている。
原発のタービン室の溜まり水で記録された放射線量の最大値は1シーベルト、つまり100万マイクロシーベルトだった。この量を直接被曝すれば出血を伴う症状が発生するが、1キロメートル離れた場所では1マイクロシーベルトに減衰し、10キロメートル離れた場所では0.01マイクロシーベルトまで弱まる、と日本中部に位置する名古屋大学で同位体分析と放射線検出を専門とする井口哲夫教授は説明する。
漁業がストップ
昨日、日本原子力安全保安院のスポークスマンを努める西山秀彦審議官は安全基準の4,385倍の放射性ヨウ素が福島沖で今週検出されたと、東京の記者会見で説明した。周辺海域では漁業は停止しており、海がヨウ素を消散させてくれると語った。
東京北西の金町浄水場でサンプルされた水道水からは、3月22日の時点でリットルあたり210ベクレルという、日本政府が幼児が服することのできる規定値の倍以上の値が検出された。だが翌日には規定値以下まで放射量は下がったが、政府が危険が少ないと伝えてもこの報道によってスーパーやコンビニでペットボトル水の大量購入が引き起こされた。
原発を廃炉にし、現地を清浄化するには30年以上の歳月と、東電だけでも1兆円の支出が必要になると技術者や分析家は言う。
日本政府は福島原発の周辺20キロメートルに避難指示命令を出し、30キロメートル圏の住民には屋内避難指示を出した。米国政府は日本に住むアメリカ人に対して、原発の80キロメートル圏内には立ち入らないように指示している。
「東京は安全」
東京は生活するには安全であり、フランス大統領のニコラ・サルコジは昨日の在東京フランス大使館でのスピーチで東京のフランス人学校は来週再開すると宣言した。同時に原発を巡る状況は「危機的で、不安定で、長期化する」とも伝えた。
長崎大学大学院の医歯薬学総合研究科放射線医療科学の山下俊一教授は、日本の外国大使館は自国民を国外退出させたのは大げさに過ぎると先週東京で行われた会見で話した。
「わずかばかりの放射線の痕跡ですら危険だというのは誤りです」とチェルノブイリ後に子供に対する放射線の影響を研究し、福島県政の放射線レベルに関するアドバイザーを務める山下は言う。「皮膚に放射性物質が付着したとしても簡単に洗い流せるのです」
日本政府の指定した福島原発から30キロメートルの圏内から1キロしか離れていない場所に住んでいる人が例えばロンドンに住んでいる人と同じぐらい安全だろうかという質問に山下教授は「はい、絶対に安全です。」と答えた。
ピンバック: “コーンウォールと香港の放射線量は原発事故の恐怖に包まれる東京を上回っている” 米ブルームバーグ記事全訳 4月1日付 (via Genpatsu) | ogswr.WordPress.com
ピンバック: “コーンウォールと香港の放射線量は原発事故の恐怖に包まれる東京を上回っている” 米ブルームバーグ記事全訳 4月1日付 (via Genpatsu) | KobeBijinDietPress
すごく細かいですが、「ケララ州チェンナイ市」は存在しません。チェンナイ市があるのはタミルナド州です。原文では「in Kerala and Madras states」で、このマドラス州というのはタミルナド州の昔の名前なので(領域は正確には一致しませんが。http://en.wikipedia.org/wiki/Madras_State参照)、あえて訳すなら「ケララ州とタミルナド州」です。ちなみに、タミルナド州と変わったのは1968年なので、元データがそれ以前のものだということが推察されます。
ご指摘ありがとうございます!なるほど、地名に関して不勉強でした。記事中の表記も「ケララ州とタミルナドゥ州」と訂正しておきます。今後ともよろしくお願いいたします。
ピンバック: “コーンウォールと香港の放射線量は原発事故の恐怖に包まれる東京を上回っている” 米ブルームバーグ記事全訳 4月1日付 (via Genpatsu) « earthquake+reactor note
「腐敗したウラニウムによる作用」に違和感あります(ウランが腐る?)。原文 It’s a byproduct of the decay of uranium は、ラドンがウランの崩壊生成物 (崩壊
“decay” によって生成されるもの)であるということです。
その後のwhichは字面ではuraniumにかかっているとも考えられますが、鉱石の形で産出するウランがそこらじゅうに散らばっているよりは、希ガスであるラドンが散らばっていると考える方が自然なので、byproductの方にかかるんじゃないかという気がします。
連投すみません。コメントの後半ですが、ちょっと調べたらラドンは最も半減期の長いものでも3.8日なのでラドンの形で散らばるというイメージは誤りでした。半減期から考えてやはりuraniumの形で散らばってるか、その系列のトリウムで散らばってると考える方が自然ですね。後半については取り消します。
ご指摘いただいてありがとうございます。decayについてはおっしゃる通りですので訂正いたします。原子力関係については素人であるとはいえ、重要な部分ですので今後は特に慎重に調べてから記事公開したいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
初めまして。興味深い資料だったのですが、理解できなかった部分があり、宜しければ教えてください。
文中で「世界で最も高い放射線量が記録されるのは南インド(年間被曝量は30ミリシーベルト)」
とあるのに対し、その後では
「同協会はブラジルとスーダンでは、年間40ミリシーベルトの被曝量が観測されている」
と、南インドを超える数値となっています。
観測値はどちらも正しく、”世界で最も高い”との表現が現在は異なる(資料も40年以上前の物のようですし、観測時期が異なる?)と考えるべきでしょうか?
ご指摘ありがとうございます。確かに原文でも分かりにくいのですが、ブラジルとスーダンに関しては「記録された最大値」という意味で「can reach ~」となっていて、南インドのケララ州とタルミナドゥ州では定常的に高い値が観測されている、というようにも理解できるかと思います。記者たちのメールアドレスが公開されているので、念のため問い合わせてみます(返信があるかどうかは保証できないのですが)。
有益な情報をありがとうございます。
私のブログで一部転載させていただきました。
これからもがんばってください!!
ありがとうございます!今後ともよろしくおねがいします ^^
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ええ記事ありがうございます。
リンク張らせていただきます。