湾岸警察署での勾留生活は100日目に突入した。この長期勾留は、検察が申請して裁判所が認めたものである。裁判官にも責任がある。東電OL殺人事件で画期的な判断を下した元裁判官が憂える。
裁判所は信用できない
4回の逮捕に2回の起訴が行われ、片山(祐輔)くん(31歳)は2月10日に逮捕されてから、すでに100日間も身柄を拘束されています。検察の言い分を鵜呑みにして、勾留を認めているのは裁判所です。その対応に、私は心底落胆しています。
しかも裁判所は、せめて母親や弟さんだけでも会わせてやってほしいという弁護人の申し出も棄却しました。「罪証隠滅のおそれがある」というのが、その理由です。検察官は「接見を許せば、被疑者が(家族などに)真犯人を装ったメールを送信させるおそれが高い」と主張しています。検察の言いなりになって、裁判所は家族との接見さえ認めていないのです。
しかし、母親や弟さんとわずかな時間、しかも看守立ち会いの上で接見させることで、証拠隠滅工作などできるのでしょうか。とくにパソコンにまったく詳しくない母親に、そんなことができるわけがないではありませんか。裁判所が本気で証拠隠滅のおそれがあると考えているのだとしたら、その常識を疑わざるを得ません。
木谷明弁護士(75歳)。東京大学法学部在学中に司法試験に合格し、'63年に判事補に任官された。最高裁判所調査官、浦和地裁判事部総括、東京高裁判事などを歴任して、'00年に退官。
'97年に発生した東電OL殺人事件では、一審で無罪判決を受けたにもかかわらず、ゴビンダさんの勾留を続けるべきだと主張する検察に対して、勾留不可の決定を下し、法曹界から高い評価を受けた(検察の再請求により最終的には別の裁判官によって勾留が認められた)。
現在は主に冤罪事件を中心に弁護活動を行い、片山祐輔さんの弁護団にも名を連ねている。
刑事訴訟では「疑わしいときは被告人の利益に」という原則があります。検察による犯罪の証明が十分でないときは無罪にすべきだということですが、この原則を守るのは容易でない。それは検察の力が強すぎるからです。
検察官は国家権力を背景にあらゆる証拠を入手します。検察が手にした証拠のなかには、被告人に有利なものも含まれています。しかし、検察はそれを被告人や弁護人に簡単には見せません。
逆に被告人は身柄を拘束されていて、自分で証拠を集めることすらできない。被告人に与えられた権利は、弁護士と接見することと、黙秘権の二つしかないのです。
そういう意味で検察と被告人では持っている武器がまるで違います。大袈裟に言えば、「大砲と空気銃」ほどの差がある。この両者を対等の当事者だと本気で言っているのだとしたら、世間の人には笑われてしまいますよね。ですが、実際の法廷では両者が対等のものとして裁判が進んでいく。その結果、検察の主張が通りやすくなるわけです。
裁判員制度を睨んで始まった公判前整理手続きによって、開示される証拠の幅はだいぶ広がりました。それでも検察官の手持ち全証拠の開示からは程遠い状況です。
片山さんは逮捕時から一貫して容疑を否認している。検察が主張する「犯行予告メール」を送ったとされる時間帯に、片山さんは派遣先で勤務しており、送信の痕跡があるはずがないなどと反論も具体的だ。
一方、検察と警察側は片山さんが真犯人であるかのような情報をメディアにリークするばかりで、何ら具体的な証拠を示していない。
また、取り調べも可視化がなされるならば、黙秘権を行使することなく応じるとも片山さん側は繰り返し主張している。