成瀬巳喜男と林芙美子。
ともにダメンズ好き(笑)
ですから、相性が悪いわけがなく
林芙美子原作の成瀬監督作品は、6つもあります。
「めし」、「稲妻」、「妻」、「晩菊」、「浮雲」そして最後が「放浪記」。

どれも素晴らしく、世間的には「浮雲」が成瀬監督の最高傑作とされているのですが
高峰さんの著書によると、監督もデコちゃんも、「放浪記」に愛着を感じていたようです。
ただし、公開当時は興行的にはあまりヒットせず
「本物の林芙美子に似ている」「似ていない」など生前の原作者にこだわった批評が噴出。
これに対してデコちゃんは、著作の中でこう書いています。

「人の見る眼は十人十色だが『とんちんかん』と『ないものねだり』だけは困る。(中略)
 私はそうした批評への不満を新聞に発表した。
 過去、何百本という映画に出演してきたけれど、
 その映画の批評に自ら反発を示し、私の演技を正当化しようとしたことは、
 それまでただの一度もなかった。
 俳優は素材であって、素材がものを言うべきではない、と思っていたからである。
 (中略)要約すれば、成瀬監督と私は、はじめから『放浪記』をひとつの文学作品として理解し、
 その映画化に当たって、文学少女の執念と、その生きざまを描こうとしたのに対して、
 観る側の人々は『林芙美子の自伝映画』を見ようと思って映画館に足を運んだということだろう」
                                       (「わたしの渡世日記」より抜粋)

このあとデコちゃんは、
「批評が枝葉の部分だけにとどまり、観てほしいところを観てもらえなかった、
 ということは、俳優としての私の責任」とも書いてますが、
自分の作品に対して、ここまで体を張って戦えるなんて、かっこよすぎる。
読んでいて惚れ惚れしました。

というわけで、私も「放浪記」が一番。
と言いたいところですが、やっぱり「浮雲」のほうが好きだなあ。

同じダメンズを描いていても
「浮雲」の登場人物は、しょうがないなあと苦笑しつつ、人間味があって愛せるのに
「放浪記」の人々は、プライドばかり高くて、あまりかわいいと思えない。
デコちゃんの演技は素晴らしく

猫背や上目づかいで、いじけて強欲な主人公を熱演しているのですが
その別人のような表情に、軽い嫌悪感を覚えてしまうのです。
まあ、それが「放浪記」、ということかもしれませんが。

ついでに
「めし」はダメの具合が情けなくて励ましたくなるし
「稲妻」のダメンズは、ダメすぎて笑える。
同じ原作者、同じ監督の、同じダメでも、いろいろですね。


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この6作品の主人公の中では、「めし」の原節子が一番好き。
そして「めし」は何といっても杉村春子。

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ついでに「稲妻」は浦辺粂子なんだわ。いいんだわ。