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Google検索から不正確な医療情報が消える 「前代未聞の規模」

ただし「すべてが解決されたわけではない」と専門家。

Googleが大鉈を振るった。不正確な医療情報を大量生産するメディアに。

2016年11月末に閉鎖された『WELQ』以降、ネットの医療情報を巡る動きは、「もぐらたたき」の状態だった。

情報の信頼性よりもコスパを優先し、記事を大量生産して、検索結果を独占する。WELQで問題となった手法を駆使するネットメディアは次々と現れた。

BuzzFeed Japan Medicalや一部の専門家が、問題のある記事やメディアの指摘を重ねてきたが、検索結果上位に不正確な情報が並ぶ状況は続いていた。

それが12月6日、一変した。

検索サービス最大手Googleが「医療や健康」に関する検索結果の改善を目的としたアップデートを実施したと発表したのだ。

これまで情報の信頼性が疑問視されてきたメディアや記事の多くが、検索結果の上位から姿を消した。

BuzzFeed Japan Medicalは、今回のアップデートの狙いや影響について、検索エンジン最適化(SEO)専門家の辻正浩氏に話を聞いた。

「WELQ的な手法」「素人投稿型」が急落

実はGoogleは、すでに今回のアップデートを匂わす発表をしていた。

「多くの人から指摘があることはGoogleでも把握しており、(健康・医療分野の検索結果改善の)優先度を高くしている。詳細はここでは明らかにできないが、期待していてほしい」

8月25日に開催されたイベント『Google Dance Tokyo 2017』の質疑応答で、同社担当者がこのようにコメントしたことを、複数の出席者が証言している。

それから約3カ月後に実施された今回はアップデートは、専門家の予想を超えるものだった。辻氏は「今回の変更は前代未聞」と表現する。

「今回の変更は、WELQ後に実施された健康・医療分野の改善としては、最大でした。健康関連の検索に限りますが、検索順位の変動として前代未聞のものだったとも言えます」

現時点では、今回のアップデートが実施されたのは日本のみ。「WELQ問題」以降、日本で高まっていたネットの医療情報への不信感を受けた、独自の対応と考えられる。

今回のアップデートで、何が変わったのか。辻氏はまず「WELQ的な手法で運営されていたサイトの評価の低下」を挙げた。

「『いしゃまち』や『ヘルスケア大学』など、記事を大量生産する手法で運営されていたメディアは、大きく順位を落としました」

他に「NAVERまとめやYahoo!知恵袋などのCGM(誰でもコンテンツを作れるメディア)も順位が急落している」という。

「すばらしい改善」と評価

辻氏は「現時点では情報が限られている」と断りを入れた上で、今回のアップデートを「すばらしい改善」と評価する。

「今回、健康情報を求める検索に対して、多くのページが検索順位を落とされました。非常に厳しい判定基準となりましたが、日本のウェブの状況を鑑みれば、仕方のないことだと私は考えます」

「日本のウェブ上には、あまりに問題あるサイトが増えてしまいました。WELQが閉鎖された後も、WELQのノウハウを活用した更にひどいサイトが生まれてしまっていた。このような手法は今後、許されないということを示したのでしょう」

ただし、「今回のアップデートですべてが解決されたわけではない」。例えば、3単語以上のキーワードなどのニッチな検索では、今回の改善が影響していないものも見られる。

また、「ダイエット」や「育毛」など、健康に関連してはいるが、現時点では大きな変化が発生していないジャンルもある。

「とはいえ、今回断固たる対応を行ったことから考えると、今後も続く改善で同様の動きになる可能性は高いでしょう」

Googleは、今回の変更により「医療従事者や専門家、医療機関等から提供されるような、より信頼性が高く有益な情報が上位に表示されやすく」なると表現している。

実際、一般人がクチコミの形で健康食品やサプリメントなどを販売する「アフィリエイトサイト」には、今回のアップデートにより、存続が危ぶまれるところもある。

しかし、このようなアフィリエイトサイトの中には、薬機法(医薬品医療機器等法 、旧薬事法)に触れるような悪質な記事があることが度々、問題視されてきたことも事実だ。

「もちろん、ウェブには悪い医療情報サイトばかりではありません。私見ではありますが、信頼に足ると感じていたいくつかのサイトも、今回のアップデートで大きく検索順位を落としているケースが散見されます」

巨大インフラになったGoogleは、公平性を維持するためにも、自動化されたアルゴリズムで、順位を調整している。

しかし、アルゴリズムによる調整では、人の要望を汲み取れないこともある。世界中から優秀な人材を集めながらも、Googleが頭を悩ますジレンマだ。

「“信頼に足るサイトまで落ちてしまう”というのは問題ですが、これが今後、解消されるのか、それともこのままなのかは、わかりません」

「問題あるサイトへの対策を大規模に行う上で、巻き込まれて落ちてしまうサイトが出るというのは、ある程度は仕方がないことだと思います」

辻氏は、WELQ問題からの一連の流れから「私たちの声はGoogleに届く」と強調する。

「だからこそ、引き続き、検索結果の監視と警告をしていかなければなりません」

医療関係者に「わかりやすい情報発信」呼びかけ

今回の発表で、Googleは情報発信をする医療関係者に向けて、以下のように呼びかけている。

もし、あなたが医療関係者で、一般のユーザーに向けたウェブでの情報発信に携わる機会がありましたら、コンテンツを作る際に、ぜひ、このような一般ユーザーの検索クエリや訪問も考慮に入れてください。ページ内に専門用語が多用されていたら、一般ユーザーが検索でページを見つけることは難しくなるでしょう。内容も分かりづらいかもしれません。

つまり、すでにネット上にある「信頼できる医療・健康に関するコンテンツ」は、専門用語が多く、一般のネット利用者が検索で使う日常的な言葉ではヒットしにくい。

いくら信頼できる情報でも、一般のネット利用者が検索する言葉で見つからなければ、役に立てない。そのため、医療関係者にも、わかりやすい言葉で情報発信をするように、対応を求めた。

異例とも言えるこの呼びかけについて、辻氏は「ボールは医療情報の提供者側に投げられた」と話す。

「多数の一般サイトが退場させられた結果、検索結果が貧相になっている部分は明らかに見られます。つまり今は、専門家の発信する情報を重視したものの、専門家が情報を十分に発信していないため、中身がない状態、とも言えるのです」

今回、大幅に順位を上昇させたのは、大手報道機関や公共機関、製薬会社、医療機関のサイトなどだ。

「そこから積極的な情報発信がなされること、また、そのようなサイトは万が一、不正確な情報を発信しても上位に表示されやすいので、その内容をチェックすることが必要でしょう」

WELQ問題以降、なぜ、検索結果の上位に信頼性の低い記事やメディアが並ぶのかと、Googleは批判されてきた。そして、Googleはその声に答えた。

そして、今度はGoogleが医療関係者に協力を求めた。よりよい検索結果を作るためには、医療関係者による信頼でき、かつ、見つけやすい情報発信が必要だ、と。

発信者と情報プラットフォームが協力すれば、ネットはよりユーザーに役に立つインフラとしてさらに発展していく。そこが問われている。