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編集者の眼第21回

たった5年で激変したITエンジニアの基礎スキル

2010年11月29日 11時01分更新

文●中野克平/Web Professional編集部

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 iPhoneもGmailもなかった2000年頃、たとえばメールであれば、一般ユーザーはOutlook Express、ハイエンドユーザーはBecky!を使う、といった習慣があった。Outlook Expressはデフォルトのメッセージ形式がHTMLメールだったので「Outlook Expressにはセキュリティ上の問題があるため、必ずテキスト形式に設定を変更してから使いましょう」というのが雑誌の定番解説だった。MB単位のファイルを添付して送ったら瞬時に送り先から電話がかかってきて、激怒されたこともある。瞬時に届いているのに。

 当時HTMLメールを毛嫌いしていた人はいつごろWebメールを受け入れたのだろうか。いまではGmailのようなWebメールは、テキスト形式で送られてきたメールでもHTMLで表示するし、iPhoneの3G回線でMB単位の添付PDFファイルを普通に客先で表示している。どうやらここ数年でネットワークの常識がまるごと変わってしまったようなのだ。

まるごとわかる本
ロングセラームックを5年ぶりに大改訂した「ネットワークの基本がまるごとわかる本 増補・改訂版」

 実は5年前、『ネットワークの基本がまるごとわかる本』というムックを編集した。同じ職場の若手エンジニアが「その本でネットワークの勉強をしたんですが、中野さんが作ったんですね」と言われるのは編集者冥利に尽きるが、確かによく売れたムックだった。とはいえ編集したのは5年前。いま見ると「2000年」という画面写真もあり、そろそろ記事の寿命を迎える。そこで5年ぶりに大改訂したのが本日発売のネットワークの基本がまるごとわかる本 増補・改訂版である。

 ここでムックの宣伝をするのは野暮なので、編集作業で気づいた「たった5年で激変したITエンジニアの基礎スキル」についてまとめてみよう。


ハブといえば「スイッチングハブ」のことである

 ハブにはリピーターハブとスイッチングハブがあって、リピーターハブは4段までしかカスケード接続できない、というのは昔のITエンジニアであれば基本中の基本だが、そもそもリピーターハブはもう見かけないし、ギガビットEthernetがここまで安価に利用されている現在、ほとんど無駄な知識になった。

「IPアドレス」といっても、v4なのかv6なのかわからない

 もうすぐIPアドレスといっても、IPv4のアドレスなのかIPv6のアドレスなのか特定できない時代になるだろう。今回のムックでは、元の記述でIPアドレスとなっていた箇所は、ほぼ「IPv4アドレス」と書き直した。

クラスやサブネットの知識はそれほど重要ではない

 「IPアドレスにはクラスA~Cがあって」という説明は、実は当時も時代遅れだった。CIDR方式でIPアドレスを配付するようになってから、IPアドレスのクラスは実質的な意味がなくなったからだ。これからネットワークの勉強をする人は、歴史的知識であるクラスの概念より、IPv6の「ユニークロカールアドレス」や「リンクローカルアドレス」などをしっかり勉強した方がいいだろう。今回のムックでは、元のムックにあった「サブネットマスク徹底鍛錬道場」という記事を削除し、IPv6の解説記事で置き換えた。

クラウドの知識が不可欠になった

 「クラウドコンピューティング」の概念が登場したのは2006年。これからのITエンジニアは、クラウドコンピューティングの知識なしにはやっていけないだろう。今回のムックでは、月刊ASCII.technologiesの連載「クラウドのいる場所」を「クラウドの使い道」に改題して収録。SaaSやPaaSといった分類、AWSやキーバリュー型のデータストアなど、クラウドの基礎知識を解説することにした。

Outlook Expressが消えた

 さまざまな意味でITエンジニアを苦しめたOutlook ExpressはWindowsから消えた。Windows Vistaでは「Windows Mail」が標準のメールクライアントになり、さらにWindows 7ではメールクライアントはオプション扱いとなり、「Windows Liveメール」をダウンロードしてインストールする必要がある。Outlook Expressを嫌っていた人々が勝ったのだ。

POP3、IMAP4の他にExchangeプロトコルが生き残った

 5年前の電子メールの技術解説を読むと、これからは低機能のPOP3が廃れ、高機能でモバイルにも対応しやすいIMAP4が主流になる(と臭わす)記事が多い。確かにIMAP4は普及したが、それより驚くべきはExchangeプロトコルが生き残ったことだ。iPhoneでもAndroidでも、もちろんWindows Phoneでも、メールとカレンダーなどの同期にExchangeプロトコルが使われる場合がある。スマートフォンの用途と、マイクロソフトがOutlook + Exchangeサーバーで実現しようとしたことが一致し、誰も予想しなかった形でExchange用のプロトコルが生き残ったのだ。

NETCONFが普及した

 ネットワーク管理といえばSNMP対応機器とPING、ROUTEコマンドを駆使して、という実態はいまでも残っているが、ネットワーク機器の構成用プロトコルであるNETCONFが企業用製品では普及している。


 一方で、ITエンジニアにはEthernetやTCP/IPなど、基本的なプロトコルの知識が欠かせないのは今後も変わらないだろう。たとえば、サーバーやデータセンターのコストが低くなり、ハードウェアの性能に頼ってしまうWebアプリケーションも多いが、HTTPの知識を駆使してキャッシュの効率を高めれば、サーバーの負荷は劇的に低くなる。また、TCP/IPの仕組みにはたくさんの知恵が活かされており、基礎知識を身につけておけば、自身のプロジェクトの工夫に応用できる。5年ぶりにネットワークのムックを編集して、そんなことを感じた。

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