西海で砲撃戦、韓国兵に死者 住民も負傷 | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

ビックリしました。北朝鮮が海岸砲で韓国延坪島(ヨンピョンド)の海上に向けて海岸砲を数十発も撃ち一部が島にとどいたと言うのです。そのためにこのブログを書いている時点で将兵2名が死亡し、6名が重症、10名が軽傷を負ったと言います。また延坪島の住民3人が負傷したと伝えられています。「天安艦」事件以来、南北間で激しい軍事的緊張がかもし出されていましたが、ついに不幸な事態が起きてしまいました。


韓国軍合同参謀本部は局地的非常体制実施を意味する「チンド犬1」を発令し、一帯のすべての軍警および予備役を招集し、戦闘待機状態に入りました(ただし全土的規模での戦闘体制突入ではありません)。事態が事態だけに冷静に対処したいところです。


実は今日はブログを休もうと思っていましたが、日本の報道が事態を正確に伝えていないので書くことにしました。たとえばMSN産経の19:01発【ソウル=加藤達也】の記事は「現場付近の海域ではこの日午前、韓国軍が通常の射撃訓練を行っていた。」と書いています。この記事では韓国軍の通常の射撃訓練中に、北朝鮮が理由も無く突如一方的に攻撃してきたと言うことになってしまいます。


ところが実は発砲の前日から、韓国軍は陸海空軍による全国的規模の軍事演習「2010護国」(22日~30日)を強行しており、問題の地域でも射撃訓練をしていたのです。射撃訓練と言っても砲による射撃訓練です。


演習には正規軍7万余人、軌道車両600台、ヘリコプター90余機、鑑定50隻、航空機500余機が参加しています。そして事態の起きた西海では艦隊起動訓練が、京畿道のヨジュ、イチョン、南漢河一帯で陸軍の軍団級演習が行われています。さらに韓米空軍の連合編隊訓練と西海合同訓練も計画に組み込まれています。さる17日に起きたヨジュ沖での高速艇転覆事故も「護国」演習のさなかに起きたものでした。日本の報道はほとんどこれを無視しています。


北朝鮮は前日の抗議に続きこの日(23日)の午前8時20分に、電話通信文で「護国訓練はわが国に対する攻撃である」と抗議しながら射撃訓練の中止を要求し、「南側が北側領海に砲射撃をしたときは座視してはいない」と強く警告しています。


問題はこの軍事演習が北朝鮮の強硬な警告を無視した中で行われたばかりか、この日(23日)の10時から同地域一帯の北側領海に、韓国軍が北側の警告を無視して砲射撃を加えたことにあります。そして14時34分、北側の砲撃が始まったのです。


ここまで書けば産経の報道がまったく事実関係を無視していることがわかると思います。しかもひどいことにこの記者は、「韓国軍が通常の射撃訓練をしていた」と書く前の2010.11.23 15:53の記事では「韓国軍、戦闘機を展開 北砲撃50発に80発応酬 軍事訓練に反応か」と題した記事を書いているので、「通常の射撃訓練」ではないことを知っていたわけです。歪曲と言うほかありません。産経の黒田記者はしっかりと「後継者」を育てているようです。


ところでその黒田記者は、この事態をとんでもない方角から眺めているようです。2010.11.23 18:24【ソウル=黒田勝弘】の記事です。「北朝鮮による軍事的挑発・冒険は予想通りだ。北朝鮮は先ごろ、金正日総書記の3男、金正恩氏を後継者として公式に登場させた。金正恩後継体制のための“軍事的業績作り”として突出行動は必至とみられていた。北朝鮮ウオッチャーたちによるとこの事件も『金正恩後継体制の業績作り』という見方が一般的だ。」


驚きました。何でこうなるのか管理人には皆目検討がつきません。こんなことが金正恩氏の業績になると本気で思っているのでしょうか?あまりにもばかげた話でついていけません。それにいい加減なことを言ってはいけません。彼は「北朝鮮ウオッチャーたちによるとこの事件も『金正恩後継体制の業績作り』という見方が一般的だ。」と書きましたが、彼は韓国に住み込んでいるので、彼の言う「北朝鮮ウオッチャー」とは韓国の「北朝鮮ウオッチャー」のことになります。


ところで管理人の見るところでは韓国のまともな学者の中でこのように思っているものは皆無であり、マスコミ人の中でもいわゆる「朝中東」と一括りされている、右翼保守言論者の記者らを除いてはほとんどいないでしょう。それ以外でそのような考えをしているものがいるとしたらそれこそただの「ウォッチャー」で、日本で言えば2チャンネルに好き勝手なことを書き込むことで自分を「専門家」と誤解しているような人々や、TVによく顔を出す一群の、何でもキャスターやなんでもコメンテーターの類でしょう。邪推が好きな彼はもう一度記者としての勉強をしなおすべきです。


毎日新聞は号外まで出しましたが、韓国側が軍事演習を行っていたことに触れながらも、一言で済ましその危険性については無視しています。他の新聞やTV報道も護送船団方式でまったく同じです。


ところで日本でも韓国でも仮に北側が事前に警告しているとしても、なぜ衝撃的な方法でそれを実践したのかについてさまざまな意見があります。ほとんどの意見はアメリカに事態の深刻さをわからせ、対話に出てくるように圧力を加えていると言うものです。最もわかりやすい見方ではあります。しかし、アメリカは「ワシントンに来たければソウルを通って来い」と言っているのですから、逆効果になる可能性が大きいことを考えると、対米交渉に向けたアクションとして直結させるのもおかしな話だということになります。しかもすでに北朝鮮は軽水炉建設現場を見せ、ウラン濃縮施設も見せることでアメリカに多大なショックを与えているわけですから、何も軍事衝突を演出する必要も無いでしょう。


管理人はもっと単純な見方でいいのではないかと思っています。軍事演習については北朝鮮が常々警告してきたところです。今回も直前まで厳しく警告しています。問題は韓国がこの警告を無視し、射撃を強行した点にあります。それに憤慨し、警告は実行されると言うことを明確に示す必要があると判断したからではないでしょうか。
北朝鮮人民軍最高司令部が23日午後7時に発表した報道の題名が「わが軍隊は空言は言わない」というもので、「挑発者らの火遊びは無慈悲な火攻で徹底して諌めるというのがわが軍隊の伝統的な対応方式」だとし「(南側は)空言は言わないわが革命武力の厳粛な警告をしっかりと刻み込まなければならない」と強調していることからもそれを窺うことができます。


ところで韓国ではこのため国会は麻痺し、与野対立の焦点となっていたさまざまな問題が一気に萎んでしまいました。4大河開発問題、一般市民に対する秘密査察のために政府がいわゆるテポ(大砲)フォン(盗品や、紛失した携帯電話)を手に入れ改造しては、市民に対する不法査察の際の指示や連絡用として秘密に使用していたことが発覚した事件、李明博大統領夫人の収賄疑惑問題などの大型不正疑惑問題、そして「天安艦」沈没事件をめぐる国防部の虚偽発表問題などで野党の追及を持ちこたえられそうも無い状況に蓋をかぶせることができ、李明博政権の命運のかかった諸問題が一気に消し飛んでしまいました。


李明博大統領は当分反対勢力との「休戦状態」が訪れることになるとほっとしているのではないでしょうか。そしてこれを機会に対北強硬姿勢を合理化して一切の対北交流を遮断し、韓国民衆の力に押されつつある対北政策変更の要求を遮断するのに利用するでしょう。そしてアメリカの対北朝鮮政策に再度たがをはめられると、胸をなでおろしているのかもしれません。