国立大学職員日記
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国立大学職員日記:記事一覧




■はじめに
 前回のエントリーで平成24年度運営費交付金のランキングを作成しましたが、大学の収益というものは運営費交付金以外にも授業料収入や科学研究費補助金収入等、いろいろなものがあります。例えば東京大学は平成24年度で運営費交付金が850億円程配分される予定ですが、これに対して全収益は前年度実績で2400億円程もあり、運営費交付金以外の収益は運営費交付金以上に多くあるのが現状です(全収益における運営費交付金の割合は各国立大学により異なってもいますが)。
 学外の人間から見ると、この運営費交付金以外の収益の存在は少し意外かもしれません。私立大学ならまだしも、もともと国家機関であった国立大学が税金以外からの収益を多く持っているイメージはあまり世間に定着していないような感じがします。また仮に大学関係者だとしても、大学間でそれがどのくらい違うのかはこれまであまり考慮されてこなかったかも知れません。
 そこで「こういうものを一覧にしてみたら面白いんじゃないかな?」と思い立って作り始めたのが今回のエントリーで、ついでに「国内だとどこも同じ雰囲気でつまらないから財政事情がいろいろ違う世界各国の大学、それも世界大学ランキングの上位大学を比較してみよう!」と無駄にハッスルして出来上がってしまったのが以下のものです。自分の英語力の無さを最初に少しでも考慮に入れていれば作ろうとはしなかっただろうなと今更ながらに後悔できる出来ですので、面白かったら褒めてくれるととっても嬉しいです。

■内容について
 「予算規模」と題していますが、正確には「収益(Income)」と書いたほうが良いかもしれません。ただ、大学ごとによって収益の表記が「Income」「Revenue」「Operating revenue」と様々なため、今回は予算規模ということで一括しました。また自分には会計上の知識が無いため、もしかすると比較すべき対象を間違っている可能性もあります(例えば「収益として比較するならこの項目は含めちゃいけない」等の指摘があるかも知れません)。そこらへんは相変わらず大目に見て欲しいのですが、一覧の他に各項目の元々の英文や、参照データのURLもまとめておいたので、ここらへんは特に事後確認が出来ることを持って細々とした誤りはご容赦ください。本格的に正確に作ろうとしたら渡米してMBAでも取得してこないと無理そうですから。
 なお全ての情報は各大学がホームページで公開している「年次報告書(Annual report)」や「財政報告書(Financial report)」の収益と思われるページから取得しました。
 「世界大学ランキング」と呼ばれるものは複数ありますが、今回は「QS World University Rankings 2011/12」を利用して上位30大学を選びました。このランキングを利用した特段の事情はありません。Googleで検索したら最初に出てきたので利用しただけです。

■世界大学ランキング・トップ30大学の予算規模



【寸感】
 「世界ランキングトップに入るためには最低限どのくらいの財政規模が必要なんだろうか?」と思ってデータを作成してみましたが、簡潔な答えは出てきませんでした。ちょうど25位に東京大学が入っているのでこれを日本の大学の最も財政規模が大きい大学として比較すれば分かりやすいと思います。東京大学も遥かに凌ぐ大学がある一方で、日本の地方総合大学クラスの財政規模で世界ランキングに入っている大学もありました。もちろん、少ないとは言っても大学界全体で見ればどれもそこそこに大きい財政規模ではあるとは思いますし、このあたりはその大学の形態である私立・公立・国立等によっても事情が違うので、一概にはまとめられないとは思います。しかし、とりあえずこういったランキングに載るために必ずしも財政規模を肥大化させなくてはならない、という訳ではないようです。日本で言えば、旧帝大学や大学病院を持つ総合大学であれば、どの大学も世界ランキングに載ってもおかしくない財政規模かも知れません。

 むしろ「財政規模」そのものより、その「内訳」の方が世界上位大学になるために必要な何かを与えてくれるかも知れません。という訳で各大学の収益の内訳を下記に載せておきます。
 「財政規模」と同様、やはり「内訳」も単純に比較することはかなり困難なはずです。これは特に、私立・公立、また州立や国立の違いに加えて、各国における大学財政のあり方がかなり違うからだと思います。ただ、それでもこれらのデータから日本の大学の「大学としての国際競争力に何が足りないのか」は、なんとなく雰囲気だけでも伝わってきました。というのも冗談みたいな話ですが、今回各データを和訳する作業で、一番手間取ったのは実は東京大学のそれでした。英文と和文を一対一に対応させたデータが無かったので、英文の財務レポートを日本語に訳したのですが、それまで他の外国大学の和訳に慣れた状態でこの作業を行ったところ、想像以上に東京大学の収益の内訳がよく分からなくなってしまったのです。
 これは単に使っている英単語が他の外国の大学で使われているそれと少し違っただけかも知れませんが、それでも30大学のデータの和訳作業をして一番違和感を覚えたのが日本のそれだった、ということには少し薄ら寒いものを感じました。東京大学の秋入学の話もそうですが、寄付金や基金の充実、外部資金獲得を促す流れは、もしかするとこういった国際的な潮流に対する危機感みたいなものがあるのかも知れないと、いまさらながらに実感したので、このことは念のために書いておきます。
 内訳の詳しい説明は専門家に譲りますが、やはり「外部からの研究費の獲得」「政府支出に依存しない財政構造」あたりがポイントになるんだと思います。またこのあたりは私立・公立で大きく事情が違うとは思いますが、「投資による収入」「寄付・基金の存在」あたりも日本と外国では大きく違うようです。とは言え、日本の国立大学のように運営費交付金のような収益を受けている大学も思っていた以上にたくさんありましたので、必ずしも公的資金からの支出を減らせば良い、ということでもないようです。「じゃあ何が最終的な指標になるんだ」というのは正直自分程度の人間には分かりません。このあたりはそれこそ本職の研究者がたくさん論文を書いていると思うので、いつかそれらにも目を通してもう少し詳しい事情を確認してみようと思います。

■各大学の内訳





























































































■おわりに
 英語力の無い自分には難儀なエントリーでしたが、それでもつくづく、大学は国内だけに目を向けている状況では無いなということを実感しました。もちろん、世界ランキングの上位30大学と言えばエリート中のエリート大学で、これらの大学の状況が全ての大学に当てはまる訳ではないですし、国内の全ての大学が他の問題を先送りしても国際競争力の強化を最優先課題に据えなくてはならない訳でもないと思います。しかし、例えば地方の町工場であっても扱う製品の革新的な技術改良が外国で起これば影響を受けるのと同じく、国内のいかなる大学も「学術研究・高等教育」という分野で全世界の大学と密接につながっているため、諸外国で起こっているこれらの変化に対応できなければ国内ですらもその存在が危ういものになる、という考えは、あながち間違ってはいないと思います。
 こういった考え方に対してその「財政規模」や「内訳」がどのくらいの比重を占めているのかは自分には判断できませんが、それでも「無視は出来ないんじゃないかなぁ」くらいには考えても良いでしょう。あるいはまた、こういった諸外国との比較で立ち遅れている点や大きく異なっている点というのは、今回の「財政規模」に限らず、きっといろいろあるのだと思います(例えば秋入学の話なんかもこういった問題の一つなんだと思います)。

【おまけ:どうすれば外国関係業務を処理する能力が身に付くか】
 自分はプロパーの大学事務職員なので、さすがに上で書いたような財政規模の抜本的な改革に取り組める程の能力も権限も、今も無いですし多分将来も付与されないと思います。しかし、だからと言って日常的な業務の中で諸外国を意識してやらなければならないことが無い、という訳では全然ありません。いつの間にこうなったかは知りませんが、出張や兼業の各種処理をしている関係上、気づいてみれば英文の学会パンフレットや委嘱状、Webサイトを当たり前に読み、外国出張のビザ申請に掛かる英文証明書の発行をあまり苦もなくやれるようになりました。
 こういった業務は「勉強してやれるようになった」というよりかは、「しなくてはいけない必要性に駆られて身に付いた」ものなので、あまり積極的な評価の対象にはならないかも知れませんが、自分はこういう身に着け方でも別に問題は無いと思っています(最初から完全な知識を身につけるのではなく、OJTで発生頻度の高い問題から優先的に身に着けていくやり方)。またそういう意味では、大学は職員の英語力とか国際競争力を身に着けさせたければ、とにかくそういった業務をバンバン受注して事務職員に仕事をさせまくればいいと、個人的には思っています。つまり、教員や大学幹部は一種の「営業職」のように立ち回って欲しい、ということです。
 これは結構実体験に基づいた話です。というのも、自分が各種英語の文書を読めたり英文証明書を発行できるようになったのは「そういうことをしなければならない業務をしょっちゅう持ち込む教員」というのがたくさんいたからです。民間で言えばこれは「現場のことも考えずに無理な注文をとってくる営業職」みたいなものになるのでしょうか?忙しい時期にこういう注文はあまりありがたくないですが、それでもこういう業務を通して次第に諸外国とのやりとりの業務にさほど苦労を覚えなくなっていったのは紛れも無い事実です。そういう意味では、頼んでもいないのにこういった業務をもってきてくれる教員というのは、ある意味結構ありがたい存在だったりします。
 という訳で、自身の「国際競争力強化対応としての業務処理能力向上」と「大学全体の国際競争力強化」を図る意味において、大学は「やたら国外でなんか新しいことをしたがる教員」を一種の「営業職」と考えて割と大事にした方がいい、というのが自分の提案です。
 この「大学教員=営業職」仮説、別に国外業務に限らず全業務に当てはめても特に問題ないと思うんですが、どうなんでしょうか?今のところこの説の賛同者はいない状況ですが、個人的にはもっと流行ればいいなぁとか思ってたりします。



※データ作成に利用した各大学の財務報告書等のURL
1.http://www.admin.cam.ac.uk/univ/annualreport/2011/Statement.pdf
2.http://vpf-web.harvard.edu/annualfinancial/
3.http://web.mit.edu/facts/financial.html
4.http://www.yale.edu/about/docs/financial-report.pdf
5.http://www.ox.ac.uk/about_the_university/facts_and_figures/index.html
6.https://workspace.imperial.ac.uk/finance/Public/annual_report/annual_report_10_11.pdf
7.http://www.ucl.ac.uk/news/annual_review_2010.pdf
8.http://finserv.uchicago.edu/reporting/2011%20UC%20Financial%20Statements%20-%20F-47628CHI.pdf
9.http://www.archives.upenn.edu/primdocs/uph/uph4_5/2011fin_report.pdf
10.http://www.finance.columbia.edu/finance_statement.html
11.http://bondholder-information.stanford.edu/pdf/AR_FinancialReview_2011.pdf
12.http://annual-report.caltech.edu/documents/34-ar_09_10.pdf
13.http://www.princeton.edu/pub/profile/finances/
14.http://sitemaker.umich.edu/obpinfo/files/greybk_aasum_fy11.pdf
14.http://www.umflint.edu/financialservices/Budget%20Reports/flint_budget_10_11.pdf
14.http://www.umd.umich.edu/fileadmin/template/businessaffairs/files/Financial_Budget_General_Services_-_FILES/Budget_Coordination/DBN_Greybook_2011-12.pdf
15.http://www.dfa.cornell.edu/cms/accounting/reporting/annualstatements/upload/cufinancialrept1011.pdf
16.http://finance.jhu.edu/pubs/financial_reports/AnnualReport2011.pdf
17.http://www.mcgill.ca/principals-report/fact-book
18.http://www.ethz.ch/about/publications/annualreports/index_EN
19.https://finance.duke.edu/resources/docs/financial_reports.pdf
20.https://www.wiki.ed.ac.uk/download/attachments/68630228/uoe_reports_fin_statements_10-11.pdf
21.http://berkeley.edu/about/fact.shtml
22.http://www6.cityu.edu.hk/puo/newscentre/publication/annual_report/finance_5.html
23.http://www.finance.utoronto.ca/Assets/Finance+Digital+Assets/reports/financial/2011.pdf
24.http://www.northwestern.edu/financial-operations/annual-financial-reports/2011-Financial-Report.pdf
25.http://www.u-tokyo.ac.jp/en/about/data/finances.html
26.http://about.anu.edu.au/__documents/annual-reports/2010-anu-annual-report.pdf
27.http://www.kcl.ac.uk/aboutkings/facts/profile.aspx
28.http://www.nus.edu.sg/annualreport/2011/
29.http://documents.manchester.ac.uk/display.aspx?DocID=6178
30.http://www.bris.ac.uk/finance/statements/

コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
米大院生 (Unknown)
2012-05-07 15:42:48
各大学の資金源内訳、非常に興味深く読ませて頂きました。今後、東大のみならず各大学が進化・淘汰されて行く中、差別化し生き残りたい大学に取って非常に有意義なデータだと思います。

もしお時間があれば、是非より踏み込んだデータも見てみたいです。MBAというより、会計の方とやってみられては?
 
 
 
ご苦労様です (alchemist)
2012-05-09 14:58:18
参考になります。
研究費に特化した日米比較ですが現代思想2008年9月号に竹内淳氏の「日本の研究教育力の未来のために」という論考(164~174ページ)があります。要するに、日本の論文生産力トップ10に該当する大学は米国では100ほどあり、それは両国の大学が交付される研究資金とパラレルになっているという解析です。
15年ほど前まで在籍した米国の小さな大学では運営予算が1億1千万ドル、うち1/3が財団基金の運用益、3~4千万ドルが公的研究費、残りが寄付金と云われていたような記憶があります。今は2~3倍になっているのでしょうか。
 
 
 
higher education (noga)
2012-09-22 02:29:36
辻褄を合わせて語ることができなければ、国内外の社交も外交も実のあるものにはならない。
実況放送・現状報告のたぐいの話だけでは、人は心を通わせることはできない。「それで、どうした」の問いに対する答が必要である。
その答えは、実況放送・現状報告の延長線上には存在しない。未来構文という次元の違った構文の中にある。
日本語には未来構文がないので、話はあくまでも現在構文の中にとどまる。すると、歌詠みのようなものになる。無為無策でありながら感情に訴えることになる。
空理・空論であるから、何事も起こらない。現実の世界を動かすことはできない。

教育には金がかかる。だが、無知にはもっと金がかかる。
日本人の大きな間違いは、日本にいても英米の高等教育と同等なものが受けられると思っていることである。
日本は、自国語で教育を全うできる ‘たぐいまれな国’ であると思い込んでいるようだ。
英語と日本語は別の言語であり、日本語で英語の考え方を学ぶことはできない。

そのような教育の事情を深く理解している結果かどうかは知らないが、中国の富裕層の85%は、自分たちの子供を海外で教育させたいと思っている。
アメリカの大学の留学生の22%は中国からであるという。次にインド (14%)、韓国、カナダ、台湾 (3%) と続く。日本は、五指にも入らない。
はたして、我が国は教育の満ち足り足りた国なのであろうか。このところ、国力は下降線をたどっている。
我が国は、英国、仏国、ドイツなどと同じような国であると考えられているのであろうか。

中国から米国に留学して成功して有名になった人に宋三姉妹 (three Soong sisters) がある。
特に宋美齢 (Soong May-ling) は英語に堪能で、ヘミングウェイに ’中国の女王’ (empress of China) とまで褒められた。
彼女は、有名な大学 (Wellesley College) を優秀な成績で卒業した。主専攻は英文学、副専攻は哲学であった。

 
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