クラウド時代に向けて、情シスの在り方を見直せERPリノベーションのススメ(9)(1/3 ページ)

IT投資が回復基調にある一方で、企業競争力を確保する新しいカギとなるであろうクラウドコンピューティングも進展しつつある。こうした中、われわれ情報システム部門は、IT投資を有効に生かし切るうえでは、どのようなスタンスが求められるのだろうか。今回はERPの有効活用以前の“最も基礎的な問題”を振り返っておく

» 2010年07月29日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]

有効なIT投資を行うためにも、徹底的に無駄を見極めよう

 2010年度に入って景気回復の兆しが見えて以降、1年余り凍結していたシステム投資に再び乗り出す企業は着実に増えつつあります。ただ、ここ1年は多くの企業にとって「徹底したコスト削減」が至上課題でした。そうした中、全社システムの棚卸しを行い、予想以上に多くのシステムを抱え込んでいたことに、あらためて気付いたケースも多かったようです。

 さらに、稼働中の既存システムの実態を調査すると、その利用内容が当初計画と大きく乖離(かいり)しており、「大して使用していないのに、過剰な運用コスト・作業負荷が発生しているもの」があったり、「長年稼働している老朽化したシステムが、実は事業遂行に必要不可欠なミッションクリティカルなものであった」ことが判明した例なども聞かれました。

 こうした“現状の棚卸し”といえば、多少エンターテインメント的ではありましたが、話題となった民主党の事業仕分けも、「長年の蓄積や馴れ合いが生んだ、莫大な無駄の積み重ね」をリセットするのに有効だったと思います。

 それと同様に、IT資産の棚卸しも、あらゆる無駄を再認識するうえで非常に有効です。特に、無駄なものを見つけてバッサリと切り捨てることも重要ですが、前述の「長年稼働している老朽化したシステムが実は……」という例のように、「これまで軽く見ていたものが、実は非常に重要な意味を持っていた」ことを認識するのも、ITインフラを整備するうえで大切なポイントになります。

 昨今、私もコンサルティングを通じて、そうしたケースを実際に自分の目で見る機会が増えてきました。そこで今回は、過去の負の遺産を白日の下にさらし、“攻めの姿勢”でその整理に乗り出した製造業、I社の事例をご紹介します。これを通じて、IT資産の棚卸しとその徹底的な整理に取り組むことの重要性について、あらためてお伝えしたいと思います。

“システムが増える一方”では、効率化にも限界がある

 では早速、事例に入りましょう。製造業、I社の場合も、棚卸しによって予想以上に多くのシステムを保有していたことが発覚するのですが、IT資産の現状とともに、その「構築・運用の在り方」にも問題を見いだしている点がポイントです。情報システム部門が問題をどう解決しようと考えたのか、その“考え方”に注目して読んでみてください。

事例:棚卸しと仕分けで構築・運用を効率化したI社 〜課題編〜

 「リストのとおり、現在稼働中の基幹系システムは大小合わせて30あります。そのうち、15年以上使われている5つのシステムについては、あと3年程度が限界で、次期システムへの移行を早急に判断する必要があります」

 I社の全システム調査結果の報告会――その開始当初から、出席者の全員が予想以上に深刻な現状にため息をつくこととなった。重い空気の中、調査担当者はさらに説明する。

 「1番に対応が必要なのは、20年近く利用してきた営業契約管理システムです。導入当初から開発にかかわり、その全体像を理解できる人間は、すでに社内に2人しか残っていません。ご存知のとおり、この2人はあと2年で定年となります」

 また、この営業契約管理システムの運用体制は社員3名、外部ベンダ5名の計8人体制だったが、そのうち4人は常に機能追加と変更対応に追われていた。長年の増改築の影響で、動作テスト項目が多いことがその理由とのことだった。

 「次に深刻なのは、国内工場の生産管理システムを補完する、『部品在庫物流管理サブシステム』です。こちらも稼働16年目ですが、すでに開発元のベンダが存在せず、工場に常駐する要員2名で運用しています。調査を行うまでは、このシステムがあくまで生産管理システムのサブシステムであり、管理内容もドキュメントベース、年間維持コストも2000万円以下であることから、簡単に置き換えられる小規模システムだと思っていました。しかし現実には、全社の部品在庫の流通管理を一手に担う仕組みになっていたのです。このシステムが止まると、わが社の全製品の8割の生産に影響が出ることになります」

 また、部品在庫物流管理サブシステムが稼働するオフコンの耐用年数はあと3年であり、ベンダからは「後続機の予定はない」と言われていた。本来なら、3年前に生産管理システムを導入した際、この機能も生産管理システムに取り込むはずであったのだが、コスト抑制のため「現行システムを極力、存続させる」という判断がなされていたことから、開発対象から外されていたのだった――。

 「ここで、あらためて現状を整理しますと、全社で稼働しているシステムは50以上。そのうち、基幹系システムだけで30、うち5システムは3年以内に代替システムが必要です。逆に、導入してから5年未満にもかかわらず、すでにあまり使われていないシステムも10ありました」

 この「使われていないシステム」とは、例えば『高度な経営分析が行える』という触れ込みで導入したものの、社長が交替してからぱったりと利用されなくなったBIシステムのことであった。また、需要予測システムも、この2年で市場環境が激変したことから、予測データがまったく使い物にならなくなっていた。「高度IT化」を掛け声に、5年前に全社員に1台ずつ提供したPCもすでにスペックが古くなり、新しいソフトを稼働させることができなくなっていた――いまさらながら、こんなシステムが多くのIT費用を食いつぶしていたと分かったのである。

 急激な景気後退の影響を受け、I社もこの1年余り 、全社・全部門で徹底的なコスト削減に取り組んできた。当然、IT費用も削減対象となり、新規開発の原則凍結やランニングコストの見直し、サーバ仮想化によるサーバの統廃合などを行った。

 そうした必死の努力の結果、前年比3割のコスト削減を達成できたのだが、振り返って考えてみれば、以上のようにシステム数は基幹系だけでもIT部門の要員30人と同じ30もあり、物理サーバも開発用、テスト用、待機系など大小含めて100近い台数を保有していたのである。サーバ統合などによって、最終的には50台ほどにまで減らしはしたのだが、今回の全システムにわたる「稼働実態調査報告」によって、増え続けるシステムを維持し続けてきたことによる弊害を、あらためて痛感したのであった。


       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ