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ロマンの木曜日
 
風吹き荒び、雨打ちつける、怒涛の高知県〜遍路日記まとめ〜
歩き遍路のまとめ、高知県編です

2011年4月29日から、当サイトの「木村岳人のお遍路日記」というコーナーにおいて歩き遍路の様子をリアルタイムにお伝えし始め、既に40日以上が経過した。春だった季節も梅雨に入り、夏へと移り変わろうとしている。

現在、愛媛県松山市に到着し、まだもうしばらく続きそうな私の遍路旅。先月には、徳島県内の遍路の様子をまとめた記事「歩き遍路はじめました〜遍路日記まとめ〜」を書かせていただいた。

今月もまたそれに引き続き、高知県内の遍路の様子をまとめてみようと思う。

木村 岳人



高知県は、まさに「修行の道場」

弘法大師こと空海の足跡をたどり、四国八十八箇所の霊場を歩いて巡る四国遍路。1200kmにも及ぶその行程は、全部で4つのステージに分ける事ができる。

それはかつての国別、今の県別で、徳島県(阿波)は「発心の道場」、高知県(土佐)が「修行の道場」、愛媛県(伊予)が「菩提の道場」、そして香川県(讃岐)が「涅槃の道場」と呼ばれていたりする。今回はそのうちの高知県、「修行の道場」だ。

その道のりはまさに修行と言うにふさわしいもので、本当に大変だった。何せまず、徳島県最後の札所である23番札所の薬王寺から、高知県に入って最初の札所、室戸岬の先端に位置する24番札所の最御崎寺(ほつみさきじ)まで、約75kmもあるのだから。


しかも、このような荒涼殺伐とした海岸線の道がずっと続く
店も無い、民家も無い、自販機も無い

室戸岬への海岸道は、ゴツゴツした岩の海岸が続き、風が強くて打ち寄せる波も荒々しい。山の緑も海の青もあるっていうのに、どこか荒涼殺伐とした雰囲気で、全く心が休まらない。

しかも途中には、店はもちろん、自販機も民家すらも無いような道路が延々と続く区間まである始末。私はその事を知らず、飲み物を持たずにこの区間へ入ってしまい、死ぬかと思った。


やった、水が飲める!と思いきや……
枯れてるーッ!

室戸岬までの道のりは、本当にろくな事が無かった。

高知県に入ってまもなく、長年愛用していた懐中時計を紛失してしまい、非常にがっかりした。さらにその直後、一眼レフカメラの広角レンズが突如壊れ、ピント合わせやズームが一切できなくなってしまった。その後も、休憩して出発した後などに杖を忘れ、1〜2km取りに戻るなんて事も多発した。

いずれも自分のせいなんだろうけど、イライラが募り、かなり心が荒んでいたと思う。後から聞いた話によると、この区間で歩くのが嫌になり、リタイヤする遍路も多いのだとか。


もう少し歩くと、吹っ切れて景色を楽しむ余裕も出てきた
宿営地にやってきた鳥に心癒される

 

やっと着いた室戸岬は、まるであの世のようだった

薬王寺を経って3日、パラパラと雨が降る中、ようやく室戸岬に到着した。しかしそこはなんて言うか、非常に現実離れした、この世のものではないような雰囲気の場所だったのだ。


巨大な大師像がお出迎えしてくれる所から既に非現実的

ここには、空海が悟りを開いた御厨人窟(みくろど)がある
海岸は、この世の終わりみたいな、凄まじい様相だ

最御崎寺は室戸岬の山の上
しばしの山登りの後、目の前に現れたのは……

視界がほとんど無いほど濃い霧に包まれた最御崎寺の仁王門

この室戸岬は、空海が若い頃に厳しい修行を敢行して悟りを開いた場所で、御厨人窟の中からだと空と海しか見えない事から、空海という名を得た場所でもある。

確かにこれはこれで霊場にふさわしい雰囲気ではあるものの、本音を言えばやっぱりスッキリ晴れて欲しかった。絶景が望めるという室戸岬の灯台にも行ってみたが、崖下からもくもくと雲が湧き上がって何も見えず、さらに物凄い風で危うく菅笠が吹き飛ばされるところであった。


風で飛んだ菅笠のヒモが首を絞める中、命からがら室戸岬灯台から帰還

 

室戸岬の翌日は、違う意味での天国だった

室戸岬に到着した翌日、この日はより本降りとなった雨の中、最御崎寺から程近く、室戸市の中心部にある25番札所の津照寺へと向かった。

このお寺は市街地にあるものの、本堂が小高い丘の上にあり、そこへ行くには長い石段を上らなければならない。しかし、それは雨で濡れて滑りやすく、非常に恐ろしいものだ。

雨というヤツは、歩くのを妨害するだけに飽き足らず、参拝をも邪魔したいらしい。遍路にとって、本当に憎らしい存在である。四国の方々にとっては、恵みの雨なのでしょうけど。


長い石段&雨の相乗攻撃にやられた25番札所の津照寺

なお、津照寺のお参りが終わった後、私はとある人物に連絡を入れ、その人の到着を待った。

この室戸には、私が昔通っていた学校の同級生が住んでいるのだ。この前日から連絡を取り合っており、せっかく近くに来たのだから、家に招待してくれるという。

正直、激しさを増すこの雨の中を歩きたくなかっただけに、その申し出は非常に嬉しいものであった。


でもって、その友達の家へ

これはこれは、スミマセン、スミマセン
いやはや、本当にスミマセン、スミマセン

これがまた、申し訳無いくらいの至れり尽くせりであった。刺身やタタキやら、油揚げの代わりに、甘辛く煮たこんにゃくで作ったいなり寿司とか、とにかく色々腹いっぱいに食べさせてもらった。そして、溺れるほどに飲ませてもらった。

友達曰く、潰れるまで飲むのが土佐流の歓迎なのだとか。遍路に出てから、私は一切の酒を断っていたのだが、歓迎という事ならば仕方が無い。あぁ、仕方が無い。

友達の家にお邪魔したのが朝の10時であったのに、気が付いたら夜の10時過ぎ。結局、この日は友達の家に泊まらせていただくことになった。ご馳走を頂いたのみならず、寝床まで提供してもらえるとは、本当に頭が下がる。贅沢しすぎである気がするが、まぁ、室戸岬まで歩いたご褒美って事で、ひとつ。


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