残業削減のため様々な知恵を絞る日本企業だが、成果を上げているのは一部にとどまる。残業が減らない背景には、経営層の1つの誤解と、諸外国にはない2つの事情がある。日本人は皆、家に帰りたくない──。そのぐらいの前提に立って対策を練らないと残業は減らない。

<b>日本人の残業体質は昔から変わっていない(写真は昭和24年のオフィス風景)</b>(写真=Carl Mydans/Getty Images)
日本人の残業体質は昔から変わっていない(写真は昭和24年のオフィス風景)(写真=Carl Mydans/Getty Images)

 24時間戦えますか──。

 バブル華やかなりし1988年、こんなキャッチコピーのCMが流行した。俳優の時任三郎氏を起用した、三共(現・第一三共ヘルスケア)のドリンク剤「リゲイン」のCMだ。24時間戦ったかはともかく、昭和はそのぐらい「残業が当たり前の時代」だった。

バブル崩壊後残業は減ったか

 が、その後、バブルが崩壊。社員は一転、効率性を要求されるようになり、企業も残業削減のため様々な施策を打ち出した。

 裁量労働制やフレックス制、在宅勤務、サマータイム、早朝出勤制などを導入し「無駄のない働き方」を目指した企業もあれば、定時消灯や罰金制、事前申告制などにより半ば強引に労働時間の短縮を図った企業もある。社員に定時帰宅を促す「ノー残業デー」を設置するのも定番になってきた。

様々な削減策が登場したが…
●1980年代以降流行した残業対策
様々な削減策が登場したが…<br />●1980年代以降流行した残業対策

 さて、これだけやって、日本企業の残業はバブル崩壊直後に比べどれだけ減っただろうか。

 その答えは、大して変わらない、だ。

 厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると現在、パートタイム労働者や短時間労働者以外の一般労働者の年間総労働時間は2026時間(2015年)。20年前の1995年(2038時間)とほぼ同水準で、横ばいを続けている。

長時間労働は一向に減っていない
●日本における一般労働者の年間総実労働時間の推移
長時間労働は一向に減っていない<br />●日本における一般労働者の年間総実労働時間の推移
出所:厚生労働省

 諸外国に比べ低い生産性の向上が日本経済活性化のカギと言われる中、政府もこうした状況を改善しようと、様々な施策に着手している。今春には、1カ月の残業が80時間を超える社員が1人でもいる事業所に対し、立ち入り調査する方針まで発表した。

あの手この手の残業対策

 企業も手をこまぬいているばかりではない。これまで以上に数多くの工夫をして残業撲滅を図る動きも出てきている。

 りそなホールディングスの東京本社では午後5時25分になると音楽が流れる。故・坂本九氏のヒット曲でもある「明日があるさ」だ。終業時刻を知らせて帰宅を促すのが目的で、ある社員は「この曲を聞くと『仕事に区切りをつけねば』という気持ちになる」と話す。

 1人当たり1日平均100分の残業があるという同社。その対策として昨年度実施したのが「スマート10チャレンジ」プロジェクトだ。生産性を高め残業時間を10%相当の10分減らす取り組みである。結果は「1人当たり5分程度の残業削減につながった」(人材サービス部の神崎亨・グループリーダー)という。

<b>東京都中央区にある味の素の本社ビル</b>(写真=北山 宏一)
東京都中央区にある味の素の本社ビル(写真=北山 宏一)

 味の素は5月から本社ビルの消灯時刻を、ノー残業デーを実施している水曜日に限り現行の午後8時から午後6時に前倒しすることを決めた。7月からは、それ以外の日も午後7時に1時間前倒しする。来年からは、給与を減らさずに基本就業時間も20分短縮する予定だ。「生産性向上に対する社員のモチベーションが高まることを経営陣も期待している」と人事部の森卓也・労務グループ長は話す。

 残業を減らせば、それだけ多くボーナスがもらえる。そんな施策を打ち出したのは大手システム開発会社のSCSKだ。

 2011年に社長に就任した中井戸信英・現相談役の下、「残業半減」を目標に設定。達成した部門に賞与で還元する仕組みを導入した。結果は順調で、「2014年度には全社員の平均残業時間は、対策実施以前の約35時間から18時間台まで軽減できた」と人事企画部長の小林良成理事は話す。

<b>NTW Inc.では毎日12時に仕事の進捗を確認</b>(写真=北山 宏一)
NTW Inc.では毎日12時に仕事の進捗を確認(写真=北山 宏一)

 電子部品商社のNTW Inc.(安田隆社長、東京都千代田区)は、残業しそうになった社員が周囲の社員に助けを求める「12時ツイート」を実施している。文字通り、同社の社員は毎日正午、その日の仕事が順調か周囲に口頭でつぶやく。同社のオフィスを訪れた4月26日も、昼12時になるとあちこちから「私、困っています」「私は大丈夫です」といった声が上がった。

 東京都中央区にある介護事業のシステム開発や人材派遣を手掛けるセントワークスも、社員の業務の進捗を細かく管理し残業を防ごうとしている。社員は毎朝、出社するとその日の予定を書いた「朝メール」を部署の全社員に送付。また、残業禁止日には社員は退社時刻を示すマントを着て残業する。

<b>退社時間を示すマントを着るセントワークスの社員</b>
退社時間を示すマントを着るセントワークスの社員

 一方、名古屋市にあるIT(情報技術)ベンチャー、Misocaの豊吉隆一郎社長は、自ら残業ゼロを続けることで、残業増加に歯止めをかけている。「トップが効率的な仕事を心がけていれば、会社全体もおのずとそうなる」(豊吉社長)。東京都中央区にある化粧品会社ランクアップも、トップ自ら長時間労働をなくし、ほぼ残業ゼロを実現した企業。「今年3月の社員の平均残業時間は3時間。5時間残業した社員が残業の多いトップクラスにいる状況」と岩崎裕美子社長は話す。

 大企業からベンチャーまで、まさにあの手この手で残業削減に立ち向かっている日本企業。だが、他の一般的な企業が、結果を出しているこうした先進企業の取り組みを形だけまねしても、まずうまくいかない。だからこそ、日本人の総労働時間は20年前と同じなのだ。

「抜け穴はいくらでもある」

 歌を聴いて「仕事に区切りをつけねば」などと感じてくれる社員ばかりではない。「ウチにも就業時間の終わりを告げる放送が流れるが、皆、何食わぬ顔で仕事を続行している。自分もそう」(IT、20代)。

 一見、効果がありそうな強制消灯も「自前の電気スタンドを持ち込んだり、一回退社したように見せかけて戻ってきたり、抜け穴はいくらでもある」(流通、40代)。

 残業しそうな社員を他の社員が手伝う方法についても「仕事が終わらないから残業している社員だけじゃない。意味もなく残業している社員には効果なし。仕事なんてその気になればいくらでも増やせる」(製造、50代)。

 残業削減社員の賞与を増やす方法も高収入の社員には効き目が薄い。「年収が100万円、200万円変わってくるならまだしも、わずかな額なら今の仕事のやり方を変えようとは思わない」(金融、50代)。

 経営層の中には、自社の残業削減策がいかに無意味か、どこか自慢げに話す現場社員たちに、混乱する人もいるはずだ。「そもそも君たちは、残業したくないのではなかったのか」と。

 実はその疑問にこそ、日本企業が昭和の時代から残業を減らすことができない真の理由がある。働き方に詳しい専門家の意見を基に、編集部がたどり着いた新説を説明しよう。

 多くの経営者は、残業削減のメカニズムを次のような公式で捉えている。

 残業削減=仕事の絶対量の減少×効率向上

 だがこれは不完全で、正しい公式はこうなる。

 残業削減=仕事の絶対量の減少×効率向上×社員の家に帰りたい気持ち

 新たに加わった3つ目の要素は強力で、これこそが日本の残業が減らない根本的な原因だ。千葉商科大学国際教養学部の常見陽平・専任講師がずばり言う。「日本人は総じて『家に帰りたい気持ち』が低いように思える。だから、会社が仕事量を減らしたり、業務効率化を進めたりしても、それだけでは残業の削減が進まない」。

 では、なぜ平均的日本人は家に帰りたくないのか。その原因は2つある(帰りたくても組織的圧力で帰ることができなかったり、会社の人員構成上の問題などで各人の仕事量が常軌を逸したりする、いわゆる「ブラック企業」の残業についてはここでは触れない)。

 誰もが薄々感じていながら実証できなかった、この身も蓋もない事実をデータで証明したのが独立行政法人の経済産業研究所だ。

 同研究所は、ある大手メーカーの人事データを用いて、労働時間の長さと、昇進確率の関係を分析した。それが下の図で、男女とも労働時間が長いほど昇進確率が高まる傾向にある。

 とりわけ女性における相関関係は鮮明で、年間総労働時間1800時間未満の人の昇進確率に対し2300時間以上の人は5倍を超える。「長時間労働が難しい女性は昇進機会の少ない働き方に振り分けられるのがその理由だろう」。同研究所の客員研究員、米シカゴ大学の山口一男教授はこうコメントする。

週63時間以上働くのは無意味

 長く働くから出世するのか、出世するから労働時間が延びるのか。ここでその因果関係を解明することに意味はない。社員にとって大事なのは、「日本企業では総じて、残業しないと、会社の中枢にいられる確率が下がる」という事実だけだ。

 「50~60代が中核をなす、現在の経営トップはバブルを知る世代。時間をかければ成果が上がった自らの成功体験もあって、遅くまで働いている社員を評価する傾向がいまだにある」。約250社で残業削減の支援を手掛けた経験を持つ、社会保険労務士の望月建吾氏はこう分析する。

残業時間と出世は連動する
●ある大手メーカーの労働時間の長さと昇進確率の関係
残業時間と出世は連動する<br />●ある大手メーカーの労働時間の長さと昇進確率の関係
出所:経済産業研究所。加藤隆夫(米コルゲート大学教授)、川口大司(経済産業研究所ファカルティフェロー)、大湾秀雄(経済産業研究所ファカルティフェロー)によるディスカッションペーパー(2013年)から引用
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 米スタンフォード大学経済学部のジョン・ペンカベル教授は2014年、「週50時間以上働くと労働生産性が下がり、63時間以上働くとむしろ仕事の成果が減る」という調査をまとめた。70時間、100時間働こうと、その成果は63時間の労働より少なくなるというわけだ。

 現場社員の多くは、“そんなこと”はとっくに気が付いている。だが、誰だって、仕事を効率よくこなすことより、中長期にわたって会社に居場所を作ることの方が大切だ。

 「出世を狙う社員にとっての最適戦略は、効率など気にせずとにかく膨大な仕事をこなすこと」。たとえそれが誤解でも、多くの社員がそう思っている間は残業は減らない。

 ブラック企業のように組織的圧力があるわけでもなく、今日やらねばならぬ仕事があるわけでもないのに今日も無駄な残業に精を出す。そんな社員の中には、出世や収入増にさほど関心がない人もいる。彼らが帰らない理由もまた、身も蓋もない。「帰ってもろくなことがない」だ。

 「自分だけでもいいので、ノー残業デーを水曜以外にしてもらえないか」

 あるメーカーの工場で最近、50代の社員、A氏から人事部にこんな奇妙な相談が舞い込んだ。なぜ水曜だと駄目なのか。聞くと、別の会社に勤める妻がやはり水曜がノー残業デーで、お互い早めに帰宅すると、家で気まずいのだという。

 男性の中には、家事をやりたくないから家に帰りたくない、という人もいまだ多い。「多くの日本人男性は残業のおかげで家事を放棄できていた。残業がなくなるとこの“特権”がなくなる」。千葉商科大の常見専任講師はこう解説する。

 女性にも、家事や晩ご飯を用意するのが嫌で帰るのがおっくうな人はいる。「夫婦仲が悪いわけではないけど、何かと面倒なので、ノー残業デーでも食事会があるなど適当な理由をつけて、いつも通りの時間に帰るようにしている」(サービス業、30代)。

 「ろくなことがないから」と家に帰ろうとしない社員は既婚者だけではない。

 印刷メーカーで働くBさんは35歳の独身女性。20代の頃は英会話教室に通ったり、異業種交流会に出席したり自分磨きに力を入れていたから、残業は少なかった。

 「しかし32歳を過ぎた頃から、自己啓発に励んできた友人たちが結婚や出産でいなくなり、自分も何だか疲れちゃって、だらだらと残業するようになった。変に思われるかもしれないけど、今は難しいことを考えず残業するのが一番、気が楽」。Bさんは自嘲気味にこう話す。

 今、首都圏近郊のベッドタウン近くの居酒屋、ファミリーレストラン、パチンコ店、サウナは毎週水曜、かつてないにぎわいを見せている。ノー残業デーを導入した企業に勤める退社後に行くあてのない社員たちが集まっている、というのだ。

 本誌も神奈川県某駅周辺に行き、そうした事実を確認するとともに、ファミレスで飲酒しながら明らかに時間を潰していた52歳のC氏に話を聞いた。

 「水曜は午後3時頃から憂鬱になる」。中堅商社で働くというC氏はこうため息をつく。ノー残業デーが試験的に始まった今も水曜日以外は午後9時に退社している。業務が忙しいわけではないが、残業で退社時間を遅らせている。それが水曜日に限ってはできない。

 同僚と飲みに行くこともめっきり減った。C氏の役職は係長だが、課長は年下。敬遠されている雰囲気をこちらも察し、一緒に飲みに行くことはほとんどない。

 そして家にも居場所はなし。中学生と高校生の子供がいるが、育児を手伝うこともなく、毎晩遅く飲み歩いたことが響いてか、あまり懐かれていない。とはいえ、教育費は増え小遣いは減る一方。会社を早く出ても遊ぶことはできず、ファミレスで数時間過ごし、30分ほど歩いて時間を稼ぎながら帰るのだという。

 「ノー残業デーだけはやめてほしい」。酔いも手伝ってか、C氏は取材中、何度もつらそうにつぶやいた。

<b>街をさまよう”ノー残業デー難民”らしき会社員</b>(写真=的野 弘路)
街をさまよう”ノー残業デー難民”らしき会社員(写真=的野 弘路)

活気づく“残業難民ビジネス”

 こうした“ノー残業デー難民”があくまで少数派なのか、かなりの割合を占めるのか推測する統計などは、まだない。だが、企業の中には、その数が相当数に上るとみて、専用のニュービジネスを始める動きが活発化している。

 吉野家はアルコールやつまみ類などの居酒屋メニューを夜間に提供する「吉呑み(よしのみ)」サービスを全店に拡大する。スターバックスコーヒーは一部店舗でアルコールの提供を開始した。「ノー残業デー後の時間を過ごす人が有力ターゲットの一つ」と千葉商科大の常見専任講師は話す。

 「大企業がノー残業デーを始めると聞いて需要がありそうだと気付いた」。自習室「勉強カフェ」を運営するブックマークス(東京都渋谷区)の山村宙史社長はこう話す。

<b>自習室「勉強カフェ」は、まさに会社員の居場所だ</b>(写真=的野 弘路)
自習室「勉強カフェ」は、まさに会社員の居場所だ(写真=的野 弘路)

 勉強する必要はなく、読書をしたり、仕事の続きをしたりするなど様々な用途に活用可能。コンビニエンスストアで買ってきた総菜を食べることもできる。まさに居場所だ。当初は、外苑前や田町といった都市部に出店してきたが、今後は“ノー残業デー需要”を狙い東京西部の国分寺や、川崎の溝の口など郊外での出店を強化していくという。

* * *

 日本で残業の削減が進まない背景には、「家に帰りたくない」という諸外国には見られないだろう理由がある──。この仮説が正しいとすれば、企業はどうすればいいのか。

 まず、「出世には残業が必須」と考えている社員を減らすには、経営層がその事実を明確に否定し、かつ、残業時間と昇進が連動するメカニズムを検証、改善する必要がある。場合によっては、無駄な残業をしている社員の評価を大きく引き下げてもいい(残業と昇進を負の相関関係にする)。

 「パソコンは原則、終業時間にシャットダウン」「会議は立って短時間で終了」。そんな大胆な生産性向上策で知られるキヤノン電子の酒巻久社長は「定時で帰れないのは能力が低い証拠」と断言する。

 だが、ここまでしても、出世にも収入増にも関心がなく「帰ってもろくなことがない」との理由で残業をやめない社員を突き動かすのは難しい。理屈の上では、帰ったら楽しいことがあるように会社が支援する手があるが、現実的には難しい。よほど強硬なものならともかく、強制消灯も残業削減奨励策も、彼らの前では無力であることは既に指摘した。

 「だったら、そんな社員はもう放っておけばいい。どうせ残業代は出さないのだから経営に大きなダメージはない」という考え方もある。

 が、それはコンプライアンス(法令順守)上、問題が発生する可能性が高い。

 「万一残業の未払い問題や過労死が発生した際、『社員が勝手に働いた』という反論は通用する可能性が低い。残業代を支払ったり、事件が報道され風評被害を受けたりするリスクは免れない」。労務問題に詳しい法律事務所アルシエンの竹花元・弁護士はこう警鐘を鳴らす。

 やはり、企業は社員に自発的に帰宅してもらうしかない。そのための数少ない方法がこれだ。

①残業を申告制にする
②申告の手続きを、「家に帰る苦痛」より、大幅に物理的・心理的苦痛を伴うものとする

 日本の産業界には、この“最終手段”で成果を上げた経営者がいる。元トリンプ・インターナショナル・ジャパン社長で、元祖・残業削減のプロ、吉越浩一郎氏だ。1992年に同社社長に就任後、19期連続増収増益を達成した吉越氏。それを支えたのは徹底的な生産性向上で、その柱をなしたのが「残業ゼロ」だった。

 就任当初は、定時になると自ら社内中を消灯して回り、社員を追い出していた。が、一部の社員は会社に戻って電気をつけ、仕事をしてしまう。らちが明かないと感じた吉越氏が導入したのが残業申告制だった。

 「どうしても残業しなければならない場合は許可するが、その代わり、残業した社員には徹底した反省会とリポート提出をしてもらう」。これが仕組みの骨子。申告制自体は既に導入している企業も多いが、トリンプで特徴的だったのは反省会とリポートだ。

リポートを延々と突き返す

 反省会は、残業した翌日から同じ理由で残業が絶対に起きないよう何回でも開かせる。さらに「なぜ、残業をしなければならなかったのか」「どうしたら残業をせずに済むか」について、再発防止策を詳しく書いたリポートの提出も義務付けた。

 リポートは1回書いて終わりではない。繰り返し添削して、内容的に大した問題がなくても何度も突き返した。何度も、何度も、だ。反省会とリポートで業務に支障が出ても、意に介さなかった。

 社員の中には「理不尽な仕組みだ」「社長はおかしい」と怒り出す者もいたが、そうこうしているうちに少しずつ「こんな大変な思いをするなら、自分の仕事の進め方やプライベートの過ごし方を本気で見直し、残業のない生活をした方が楽だ」と考える社員が増えていったという。

 「残業したらどんな苦難が待ち受けるか身をもって知った社員たちは、定時までに業務を終わらせようと、必死で仕事をするようになった。無駄口をたたく社員は減り、就業時間中のオフィスがすっかり静かになった」。吉越氏はこう振り返る。

 昭和の時代から続く悪しき伝統「無駄な残業」を退治するためには、生半可な対策では不十分だ。

 日本人は皆、家に帰りたくない──。そのぐらい大胆な前提に立って、本気で対策を練らないと残業は減ることなく、日本企業の生産性は永遠に上がらない。

(日経ビジネス2016年5月16日号より転載)

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