クラウドの企業導入が本格化する2010年--ブームに流されないための戦略を 佐々木俊尚氏に聞く

クラウド上の世界でほとんどの情報を処理し、紙の書類もノートもペンも持ち歩かないという。そうした利用の先駆的存在であり、クラウドを実際の仕事に活用しているITジャーナリストの佐々木俊尚氏に、企業におけるクラウドコンピューティング導入についてうかがった。

気がつけば日常化しているクラウド

別井:佐々木さんはクラウドコンピューティングを日々の執筆活動に活用しているとのことですが、具体的にはどのような変化がありましたか。

ITジャーナリスト 佐々木俊尚氏 ITジャーナリスト
佐々木俊尚氏

佐々木氏:以前はWindowsを使っていたのですが、Macに乗り換えてもまったく違和感がなかったですね。考えてみたら、自分でも驚きましたが、日常使っている主なアプリケーションはほとんどブラウザを経由して使っていたのです。ウェブサービスとして使っているので、OSに依存していないのです。

つまり、クラウドが日常化しているということです。気がつけば、いろいろなところにクラウドは普及していて、光ファイバーの速度が上がっていくほど、広帯域の中で遅延がなければデスクトップのアプリケーションを使うのもウェブのアプリケーションを使うのもシームレスに使えるという状況です。

たとえば、ウェブアプリとしてEvernoteを使っています。テキストや画像、ウェブなど、どんどん張り込んで巨大なメモ帳として使うことができる。タグ付けと検索機能により、紙のメモとは比べものにならない利便性が提供されています。米国で始まったサービスですが、文字コードにUNICODEを採用していたので、日本語のファイルやタグも問題なく使えたことが普及のきっかけになったと言えますね。原稿執筆やアイデア出しに欠かせないツールです。

クラウドの認知が急速に広まり本格導入へ

別井:エンタープライズコンピューティングの世界では、「クラウドコンピューティングは普及期に入った」などとも言われています。「クラウド」というキーワードがより浸透してきた昨今の状況を、どのように見ていらっしゃいますか。

佐々木氏:まずは、GmailやEvernoteといったサービスが日本でも流行して、クラウドという言葉が急速に認知されたと思います。このように、海外のSaaS型クラウドサービスが消費者の中で認知されるようになった状況と、国内のベンダーがプライベートクラウドを中心として企業に提供するという準備が徐々に始まったという状況が、2009年ぐらいに同時並行的に起きたと考えます。

そして、まさに2010年はエンタープライズ分野でクラウドが本格的に導入されていく年になるのではないでしょうか。それには、企業にとって不安を解消する解決策が見えてきたという点があると思います。

CNET Japan 編集長 別井貴志 CNET Japan
編集長 別井貴志

去年、一昨年ぐらいに「クラウド」と言えば、ほとんどの人が、「セキュリティに問題があるのではないか」、「自社のクリティカルな情報を外部の企業に任せるというのは、コンプライアンス的に問題があるのではないか」という不安を掲げていました。コンシューマー向けのクラウドが普及したことで、信頼性やセキュリティレベルも向上し、企業が保有する基幹系システム(コア業務)、金融機関が扱うクリティカルな情報などを除けば問題はないのではないか、という認識に変わってきました。

また、コンプライアンスなどの課題から外部のクラウドに載せることが出来ない基幹系システムには、企業内に企業/グループ専用のクラウド環境を構築するプライベートクラウドという形態があります。最近では外部のクラウドと、企業内のクラウドを適材適所に使い、連携する「ハイブリッドクラウド」という形態も登場し、企業のクラウド導入をサポートしています。

電子カルテのクラウド化に注目

別井:企業がクラウドを本格導入する元年とするならば、特にどういった業種や業務で導入が進むとお考えですか。

佐々木氏:私は電子カルテのクラウド化に注目しています。まだ日本では紙のカルテがほとんどで、電子化されているのがおそらく10数パーセントです。それも病院ごとのスタンドアロン状態で、サーバどうしが接続されていません。政府は電子カルテのクラウド化を進めようとしています。ただ、いきなりクラウド化しないで、各病院のサーバをネットワーク化した方が低コストではないでしょうか。

別井:健康情報をクラウド上に置くことに対しては、プライバシーの問題が不安視されるのではないでしょうか。

佐々木氏:たとえば、こんなお話があります。米国の人気ブロガー、ロバート・スコーブルが病気になったとき、Twitterでつぶやいたら、治療方法についてのアドバイスが殺到したそうです。そして、彼は「医療におけるプライバシーは死んだ、今後私の健康情報は隠さない」と宣言しました。その方が個人にとってのメリットが大きい。これは極端な例ではありますが、健康に関する情報がどんどんクラウドに集約される時代が来るでしょう。基本的には自分の健康データは第3者には見られないようにしておけばいい。企業に利用させるのか、医学研究に利用させるかどうかは、その人自身が判断すればいいことでしょう。

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