「放射性物質拡散予測」報道ってどうよ?

ドイツ気象庁(DWD)やNorwegian Institute for Air Research(NILU)が出している放射性物質拡散予報がやたら取り上げられてる件。
どうも、西日本に広範囲に汚染が広がるという絵がショッキングということらしい。

日本で公表されない気象庁の放射性物質拡散予測 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 日本で公表されない気象庁の放射性物質拡散予測 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

武田邦彦 (中部大学): 原発 緊急情報(47) 汚染・6日に日本全土に拡がる怖れ 武田邦彦 (中部大学): 原発 緊急情報(47) 汚染・6日に日本全土に拡がる怖れ

元サイトはこちら

NILU:
Fukushima

Atmospheric Transport

DWD:Weather and Climate - Deutscher Wetterdienst -- Homepage

読売の派手な絵だけ出して解説のない記事も、武田教授のサイトも、肝心な前提条件があまり説明されていないので、ブスの素人が説明するよ。

NILUの予測は何を意味しているのか?

先ずはNILUの拡散予測について。
以前の日記でも書いたけど、大事なことなんで二度書くと

ATTENTION: These products are highly uncertain based on limited information for the source terms. Please use with caution and understand that the values are likely to change once we obtain more information on the overall nature of the accident. The products should be considered informational and only indicate 'worst case scenario' releases. From what we've learned recently, it seems releases of this magnitude have not yet occurred. Furthermore, these modeling products are based on global meteorological data, which are too coarse to provide reliable details of the transport of the plume across Japan.

Currently we are using a daily releases distributed evenly of 0.1E18 Bq I-131, 0.1 E17 Cs-137, and 0.1 E19 Xe-133 per day.

という注意書きが書いてある。適当訳すると。

注意:これらのプロダクトは、ソースタームについての限られた情報に基づく非常に不確かなものです。今回の事故の全般的な性質について、より多くの情報が得られた場合には、これらの値を変更するかもしれないことを理解し、注意のうえで使用してください。このプロダクトは情報として考慮すべきであり、"最悪ケースシナリオ"での放出についてのみを示しています。(ゴメン。この箇所は上手い訳が思いつかない)最新の情報によると、このような強度の放出は未だに発生していないようです。さらに、これらのモデルプロダクトは地球規模の気象学データに基づいており、日本上空での煙の移動について信頼できる詳細を提供するには粗すぎます。

現在のところ、われわれは一日あたり 0.1×10^18BqのI-131、0.1×10^17BqのCs-137、0.1×10^19BqのXe-133が、毎日均等に放出される(モデルを)使用しています。

要は、空気中に常に放射性物質がガンガン放出されているという前提でシミュレーションを行なっている。まあ、"最悪ケース"シナリオなんだから当然だよね。

DWDの予測は何を意味しているのか?

次に、DWDのサイト(ちゃんと英語版ページも用意されてる)の注意書きを見てみる。

Since the strength of the emission is unknown, the values are to interpret only as relative distribution and dilution outgoing from an unknown source concentration. A conclusion on the actually radioactive load locally is not possible!

またも適当訳

排出量の強さが不明であるため、値は相対的な分布と、不明な元濃度からの希釈としてのみ捉えてください。実際の局所的な放射線量についての結論を出すことは不可能です!

要は、あくまで福島第一原発を中心とした相対値であって、絶対量は分かんないよと。

追記:
DWDの予測内容について、日々の予報内容も含めて日本語訳している所が有ったのでリンク。
山本堪 : ドイツ気象庁 (DWD)による粒子分布シミュレーションの日本語訳

平たく言うとどういう事?

両者とも、”福島第一原発から大気中に放射性物質が放出された場合、どのような分布に成るのか”というシミュレーションであって、明日明後日に原発から放出される放射性物質の濃度分布予測では無いってこと。

でも原発から放射性物質がダダ漏れなんだろ?

実のところ、大気中への放射性物質の放出は、3/15〜16がピークで、その後はあんまり大規模な放出は無いっぽい。国内ソースだと「大本営発表」扱いらしいんで国外ソースな。

Radiation at Fukushima Daiichi - Graphic - NYTimes.com

まあ、大気中への放出が少なくなっただけで、長期的に見ると海洋汚染(と生物濃縮)が結構心配ではあるけれど・・・

でもヤバイんじゃないか?

うん。
原発に不測の事態が発生してドライベントやったり、その他何らかの原因で放射性物質を含む蒸気が大量に放出される可能性は多分ゼロではない。
でも、その可能性がどんだけあるのかは、多分政府か東電か福島第一の現場か米国政府か、とにかく現場の状況を情報を持ち、それを解析できる組織にしか分からない。
リスクを見積もれない以上、「でも安心ですよ」とか言うつもりは無い。(というか、それは個人ブログのやることではなく、政府が確かな情報を迅速に公開することでしか解決できない。)

ただ、あのインパクトのある予想図を見ただけで結構パニックに成ってる人が居そうなので、あの図が何を意味するのかを説明してみた。

関係者各位に一言

  • 武田教授へ

「オレオレ核爆発(緊急情報(3)緊急情報(4))」の頃から見てませんでしたが、タイトル煽り過ぎでは?
あと、出典・リファレンスはちゃんと明記してください。仮にもアカデミアの人なんだから。

  • 読売新聞へ

詳しい説明抜きで「放射性物質の拡散予測」とか図だけ出すってマスコミのあるべき姿としてどうよ?
記事中にある気象庁IAEAの依頼を受けて作成しているシミュレーションと、記事に張ってるDWDの放射性物質拡散予想図がものすごい勢いで混同されそうなんですが。
あと、出典はちゃんと明記してください。

  • 気象学会各位

asahi.com(朝日新聞社):放射性物質予測、公表自粛を 気象学会要請に戸惑う会員 - 社会 asahi.com(朝日新聞社):放射性物質予測、公表自粛を 気象学会要請に戸惑う会員 - 社会

今回の件、日本語できちんと説明が行われていれば、図だけ見て慌てる人は大幅に減っていたと思いますが、この期に及んでまだ予測出さないんですか?
DWDのサイトとかトップページがドイツ語なんで、図だけ見てリスク判断してる人も多いと思うんですがね。



てか何でど素人の俺がこんなこと書く必要有るの?「渚にて」とか「K-19」とか「ソ連/ロシア原潜建造史」とかの読書感想書きたいんだけど。