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夏目房之介の「で?」

映画『ブラックスワン』

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『ブラックスワン』観ました。
バレエ映画だと思っていたので、観ようかと思ってたのですが、何人かの人から「気持ち悪い」とか「エロい」「二度と観たくない」という声があると聞いて、ふ~むとか思ってたんですが、奥さんが観て「素晴らしい映画だと思う」というので、一緒に観に行きました。奥さんは二度目。

まず、映画の宣伝の仕方が間違ってると思うな。バレエ映画のように予告は見えるのだけど、正確にいうとバレエ・サイコ・ドラマです。バレエに挫折した母(典型的なグレートマザー)に支配される主人公が、ニューヨーク・シティ・バレエの「白鳥の湖」の主役に抜擢される。白鳥は完璧だが、黒鳥のダークで魅惑的な部分が出せず苦悩するうちに、もともと持っていた強迫障害がひどくなってゆき、途中から強迫妄想に支配されてゆく、というお話。そのつもりで観れば、素晴らしい心理映画だと思いますね。
黒鳥の場面は素晴らしい。最後は感動して、たった一人で拍手してしまいました。最後の白鳥の踊りに出る前には泣けそうになった。奥さんは隣で泣いてました。一人の、自立しようとして苦悩し破滅する女性のドラマとして観れば、感動すると思うがな。
ほぼ全編を覆うハンディカメラのドキュメンタリーな映像が、ぐいぐい主人公の心理状態に観客を引き込んでゆく。鏡を効果的に使った妄想場面もけっこう怖い。まあ、若い女性で単純にバレエ映画を期待していった人はショックを受けるかもしれないな。主役をはじめ演者たちもいいですね。
そういえば、演出家が主人公に何度もいうセリフで「自分を解放しろ」と訳されていた英語、僕には「Lose yourself」って聞こえた。訳すとすれば「自分を捨てろ」ってこと? 映画全体の文脈からすると、映画の訳し方になるのかもしれないけど、主人公の病んでいく様を観ると、「Lose yourself」がしっくりくる気がするなあ。

ところで、僕としては当然山岸凉子を想起せざるをえない。山岸凉子のバレエ物とサイコ物がお好きな向きにはおすすめかも。古い映画ですが、ポランスキーの『反撥』も思い出した。

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