1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:13:56.13 ID:CO85kKIh0
「雫ー早く起きなさい」
母の大きな声で私は目覚めた。
「休みの日くらいゆっくり寝かせてよぉ」
「早く部屋のゴミ出さないと持ってって貰えないわよ」
そうだった。飛び起きて部屋の隅に山積みにされたガラクタをゴミ置き場に運び出す。


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:17:03.50 ID:NesUdss+O
>>1
乙。
最高に面白かったよ


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:17:11.15 ID:CO85kKIh0
「父さんも手伝おうか」
「お願い」
父は優しかった。私が私大の文学部に通いたいと言ったときも黙って後押ししてくれた。
「やっぱり重いなぁ」
階段を降りながら父がつぶやいた。
「無理しなくていいよ」
「いや大丈夫。雫こそあっちで無理して体壊さないようにな」
「私は大丈夫。心配要らないよ。」
私は嘘をついた。正直不安で仕方なかった。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:18:07.30 ID:CO85kKIh0
私はこの春から勤めていた出版会社の支社に転勤する。
周りの人は栄転だと励ましてくれたけれど、実質左遷であることは火を見るより明らかだった。
小説がかけなくてもいいと、必死で就活をして何とか内定をもらったはいいものの、
就職先で、私の書いた記事は総じて編集長の顔を曇らせるものばかりだったからだ。
私は挫折していた。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:22:20.74 ID:CO85kKIh0
集積所にはたくさんのゴミが山積みになっていた。どうやらまだ収集車は来ていないようだ。
全てのゴミを出し終わり、部屋に戻ると、母が緑茶を淹れてくれた。
「これで全部出せたのね。」
「ううん。これから本を買い取って貰ってくる。」
「あんたが本を手離すなんてねぇ。売ってから後悔しないでよ。」
「しないよ。ライトノベルなんて大人になって持っていても仕方ないし。」
私はお茶を一気に飲み干し、自分の部屋に戻った。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:24:14.09 ID:CO85kKIh0
物が無くなった自室はがらんとしていた。
ごちゃごちゃしていた机周りも今はすっきりしている。
ふと棚の上に目をやると、古い段ボール箱が置かれているのが目に付いた。
(ゴミに出し忘れてしまったのか…)
ほこりを適当に払って箱を開けた。


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:25:48.35 ID:CO85kKIh0
箱の中には、昔に書いた小説が入っていた。
(まだ捨ててなかったんだ…)
小説を書き始めた頃のたどたどしい文章で、それは書かれていた。
(昔は書きたいものを書けていたんだ)
10ページもめくらないうちに私は原稿の束を閉じた。
ここ数年で私は小説を読むことに苦痛に似た感覚を感じるようになっていた。
箱に紙の束を押し込もうとすると、手の甲に何かごつごつしたものがあるのを感じた。
取り出してみると、それは昔聖司のおじいさんに貰った原石だと分かった。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:27:20.94 ID:ZP3gD4oQO
wktk

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:32:39.22 ID:CO85kKIh0
彼も私を応援してくれた人の一人だった。
高校に入ってからも彼は迷惑がらずに私の書いた話を読み、
最初に私の話を読めることを喜んでくれた。
何度も彼に作品を見せることで、私は自信を付けていった。いや、天狗になっていった


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:33:47.70 ID:XaRLJd9sO
雫は猫の恩返し書いてるころだろ

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:35:22.86 ID:CO85kKIh0
その鼻がへし折られたのは大学に入った頃だった。
この頃になると、秀才と、凡人との差は大きくなってゆく。
自分より先に見初められた友人が文壇に上がっていくのを何度も見た。
自分が価値の無い原石しか持っていないことを自覚し始めた頃には、地球屋に通わなくなっていた。


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:38:33.40 ID:CO85kKIh0
原石を箱にしまうと私は箱を元の場所に戻した。
なぜか捨てようとは思えなかった。
才能が無い事を受け入れきれないでいる自分に気がついた。
「中途半端でイライラするよね」
私は自分に向かってつぶやいた。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:40:11.88 ID:01Gks/oPO
ハッピーエンド期待してもいいんだよな

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:42:09.93 ID:CO85kKIh0
母から車を借りて古本屋に向かう。
ゆっくり車を走らせもうすぐ離れる町の景色を目に焼きつけておく。
町並みが昔のそれとは変わってしまっていることを改めて実感した。
友子と一緒に通った喫茶店も今ではスーパーの駐車場だ。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:46:21.48 ID:CO85kKIh0
あれから10年も経ってしまったのだ。
古本屋の駐車場に車を停める。
まだ午前中なせいか駐車場は空いていた。
店の中に入ると本の束を一気に買い取りカウンターに置いた。
昔の私なら立ち読みをしていくのだろうな、と頭の隅っこで思った。


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:50:21.34 ID:CO85kKIh0
バイトが面倒くさそうに本の状態を調べている。
「買い取り価格は753円になりまーす。」
私は取引を承諾し小銭を受け取った。
私の選んだ本はお札にもなれないのだ。


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:54:04.97 ID:CO85kKIh0
店を出ると友子が手を振っているのに気がついた。
お嬢様なせいか、手を振る動作ひとつとっても気品がある。
「友子じゃない。久し振り」
「雫ったら全然気付かないんだもん。まったく鈍いんだから」
友子はそう言うと笑った。


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 07:59:01.07 ID:CO85kKIh0
大学卒業後友子は杉村と別れて、違う男の人と結ばれていた。
「いままで何度もすれ違ってたのに、そのときも気付いてなかったでしょ」
「ごめんごめん」私は平謝りした。
本当は友子と何度もすれ違っていた事には気付いていた。
杉村と別れた友子が幸せそうにしているのを、まだ私は認めたくなかったのかもしれない。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:02:20.32 ID:qiTNFQ+vO
wktk

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/02/27(水) 08:02:52.23 ID:QjrvLzPb0
杉村・・・やけにリアルだな

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:03:33.71 ID:CO85kKIh0
初恋の人と結ばれるなんて夢なんて、馬鹿げてるのかな。
何時まで経っても子供な自分に嫌気がさした。
聖司と私もいつか友子と杉村みたいに別れる日が来るのだろうか。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:08:53.51 ID:CO85kKIh0
「幸せそうだね」
「うん。雫も元気そうで何よりだよ。あ、そろそろお稽古の時間だ。行かなきゃ。」
「送っていこうか」
「近いからいい。ありがとう。またね。」
友子はそう言って手を振ると、早足で駅のほうへ歩いていった。
車に乗り込んでから、転勤の事を言いそびれたことに気がついた。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:15:43.30 ID:CO85kKIh0
帰り道、私は聖司のことを思い出していた。
彼と離れ離れになってからは文通で連絡を取っている。
彼は私と違って順調に自分の夢をかなえつつあった。
その証拠に彼からの手紙にはいつも前向きな言葉が綴られていた。


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:18:22.33 ID:4v4gjChEO
雫「ねえ、バイオリン弾いて見せてよ」
聖司「え…じゃ、じゃあ、お前は歌えよ」
雫「えぇ!?」
聖司「し、知ってる曲だから、歌えよな!」
照れながらバイオリンで流麗なメロディーを奏で始める聖司。ああ…この曲は…確かに知っている…。
雫はそっと歌い始めた。


雫「KURENAIだーー!!!!」

その後帰宅した聖司の祖父が見せたエックスジャンプは数十回に及んだという。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:38:23.40 ID:mjxBJlo30
>>52
ちとワロタwww

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:19:30.82 ID:CO85kKIh0
そしていつも最後には『頑張れ』の一言が添えられているのだ。
高校の頃はそれを励みに出来ていたけれど、今ではその言葉を素直に受け入れる事が出来なくなっていた。
むしろ最近は彼に嫉妬に似た感情を抱くようになっていた。


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:22:17.82 ID:CO85kKIh0
噂をすれば何とやら、家に帰ると聖司から葉書が届いていた。
いつもは便箋5枚は書くのにと思いながら裏をめくる。
そこには一言「25日に日本に帰ります。10時に成田に来てください。」と書かれていた。
(明後日だ…)
私は胸の鼓動が高鳴っているのを感じた。


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:25:36.25 ID:CO85kKIh0
(彼は今どんな姿をしているんだろう…)
ごつごつした男らしい手、広い背中、背は伸びただろうか。私は想像した。
それと同時に、変わってしまった自分に聖司は失望するだろうかと思うと怖くなった。
部屋に戻ると、布団を被ってちょっと泣いた。


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:37:26.80 ID:+1aIL3qGO
この胸の高鳴りは何なんだろう?
仕事が手に着かないぜ

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:51:04.06 ID:sy2wSOa7O
気がつくともう夕方の6時をまわっていた。
どうやら眠っていたみたいだ。洗面所の電気を付け姿見を見る。
目元はまだ赤く腫れていた。
「まったくもってひどい顔だよね。嫌になっちゃう」
「せっかく大人になって泣き虫の癖が治ったと思ったのに。また泣いたね」
振り返ると姉が後ろから姿見を覗き込んでいるのに気が付いた。


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 08:57:45.03 ID:sy2wSOa7O
「どうして?」
「近くに来たから寄ってみたのよ。明後日は久しぶりに天沢くんとデートかぁ。ラブラブだねぇ」
こうやって人をからかう癖は昔と変わらない。
「さてはお姉ちゃん見たな!」
自分の顔が赤くなるのがはっきりわかった。
「恋文を机の上に置いとく何て不覚だったわね」
本当に不覚だった。けれど見られてしまったことで少し気が楽になっている自分がいた。


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 09:05:23.54 ID:YzXj+7f9O
ヤバい…鬱になってきた………

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 09:06:26.04 ID:sy2wSOa7O
夕飯はもちろん姉の好きなハヤシライスになった。
嬉しそうな姉に母はたまたまよ、と照れ隠しをした。
本当はカレーの予定だったことを私は知っている。
夕飯を済ませると姉にコンビニに行こうと言われた。


98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 09:13:28.64 ID:sy2wSOa7O
公営団地の前の公園を抜ける。昔から近道をする癖は治らないのだ。
「会おうかどうか迷ってるんでしょ。」
「え?」思わず立ち止まった。
「だって雫辛そうだもの」
姉にはすべてお見通しだった。


104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 09:19:31.54 ID:jv4dFmAmO
そういえばお姉さんってまだ独身なのか?

案外子持ちバツイチっぽいなww

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 09:21:55.21 ID:YzXj+7f9O
姉ちゃんは老けるの早そうだwwww

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/02/27(水) 09:22:10.86 ID:0g1oRuTFO
雫が小説家になってくれないと猫の恩返しに繋がらない

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 09:23:18.74 ID:sy2wSOa7O
近くにあったブランコに二人腰掛けた。
「全部話してごらん」私は頷いた。
冷静に話すつもりが、思い出すといろんな気持ちがわっと湧き出してきて、涙になって溢れ出した。
最後には嗚咽混じりになった。
背中に姉の温かい手のひらを感じた。


109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 09:24:05.97 ID:7oiIIPOmO
俺はムーンが一番気になる
10年はさすがに寿命的に考えると……(´;ω;`)

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 09:27:32.03 ID:YHf3BtoBO
聖司のおじいちゃんはまだ存命?

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 09:30:46.66 ID:d7WBVqEOO
>>112
介護施設で寝たきりと予想。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/02/27(水) 09:31:23.92 ID:0g1oRuTFO
猫の恩返しは雫が書いたって設定

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 09:36:48.24 ID:sy2wSOa7O
「今までどうして言わなかったのよ。バカねぇ」
背中をさすりながら姉は優しく言った。
「雫はずっと苦しい思いをして頑張って来たじゃない。小説家ではないけれど、ちゃんとした出版社に就職したし。
私はあんたのこと自慢だったのよ。聖司君はあんたのこと絶対バカにはできないよ。」
今度は姉の優しさに涙が出た。
「本当に泣き虫なんだから」


129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 09:45:44.75 ID:sy2wSOa7O
家に帰ると、母が心配そうに終電に間に合わないんじゃないの、と言ってきた。
姉は「明日は仕事ないんだ」と笑顔で言った。
どうやら今夜はうちに泊まるみたいだ。
父がそれを聞いて嬉しそうにふすまから羽毛ふとんを取り出し二階ベッドへ運ぼうとする。
「いいの。床にしくわ」
「わかった」
父はふとんを降ろすと黙って部屋から出た。


139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:00:11.07 ID:sqUWeHKV0
ガッシボカ、雫は死んだ、スイーツ(笑)

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:06:08.39 ID:80yZeueiO
実は>>1が雫で、自分の半生を振り返ったエッセイ本をテストしてるんだ。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:06:57.09 ID:sy2wSOa7O
二人で並んで寝るなんて幼稚園以来だろうか。
「義兄さん困るんじゃないの?」
「いいのいいの。夕飯も作ってあるし。たまには一人でのんびりするのが円満の秘訣なんだよ」
「そんなもんかなぁ」
私はベッドに横になった。


147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:13:15.13 ID:1OKpa2ks0
このスレを読んでるお前らの顔 (  ´∀`)ホクホク

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:14:37.11 ID:dzBqVN580
>>147
するわけねーだろ、見れば見るで鬱になるけどバッドエンドストーリーの見ても鬱になるんだよ
わがまま体質なのいやよいやよ見つめちゃいやーん

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:20:27.33 ID:sy2wSOa7O
「ねぇ」今度は姉から話しかけた。
私は姉の方を向いた。
「私妊娠したの」
私は思わずベッドから飛び上がってしまった。
二度目の不意打ちにまたもや私は混乱した。
でも言われてみれば珍しくスニーカーを履いていたのも、床にふとんを敷いたのも納得がいく。
「お父さんとお母さんには言ったの?」
「明日言う。なんとなく照れくさくて。」
本当はびっくりさせたい意図が見え見えだ。
「お姉ちゃんもおめでたかぁ。おめでとう」
「雫ももうすぐおばさんになるんだからしっかりしなきゃダメだよ」
すぐ説教する癖も昔と変わらない。


153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:22:39.00 ID:HIbaLCyoO
この姉ちゃん嫌い

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:24:33.38 ID:Q0/OqpIgO
>>153
姉ちゃんこんな感じだろ

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:30:25.43 ID:7Tnnqzn60
この前耳をすませば見た後秒速5センチメートル見たらいい感じだった

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:31:27.29 ID:f1ze/l/CO
面白すぎる

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:33:01.29 ID:oeVG/JrG0
100年後かと思った

166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:35:47.61 ID:sy2wSOa7O
気が付けばもう夜中の1時だ。
「電気消すね」
「うん、そうして~」姉が眠そうに返事した。
立ちあがって電球の明かりを消すとベッドに潜り込んだ。
「お姉ちゃん、今日はありがと。私聖司に会いに行くね。」
「うん。それでこそ雫だよ。」暗闇の中で姉の顔は笑っているように見えた。
私は目を閉じて、私は聖司の事を考えた。


182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 10:55:06.99 ID:sy2wSOa7O
目が覚めるとちょうど母が姉を送り出す所だった。
「あんたはいつも寝坊してばっかりなんだから。今朝はお姉ちゃんから大事な話があったのよ」母が興奮気味に話しかけてくる。
「もう知ってるよ。ねぇ雫」姉が笑って言った。
「嘘~最初に聞きたかったのに」母が少し悔しそうにした。
「それじゃ、もう行くね。雫、頑張ってね」照れくさそうに話の流れを断ち切ると、姉は階段を降りていった。
「あたしもおばあちゃんかぁ」母がぽつりとつぶやいた。
下から父の車のエンジンをふかす音が聞こえた。


195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 11:07:33.28 ID:sy2wSOa7O
やっと頭が冴えて来たので、電話で上司に明日臨時の休みを取る意を伝えた。
明らかに嫌そうな声。いきなりでは仕方ないだろう。予想は出来ていた。
なんとか説得し受話器を置くと、自然とため息が出た。
聖司は今頃飛行機の中だろうか。


215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 11:34:15.95 ID:sy2wSOa7O
10時を過ぎたころだろうか。
居間のテーブルの上に青い包みが乗っているのを見つけた。
父が弁当を忘れたのだ。
母は食堂があるからいいと言うのだが、私は暇だからと理由を付けて持っていくことにした。
本当はある場所に行くきっかけがほしかったのだ。
急勾配の坂をいつかのように登って行く。
車に慣れていたせいか、年を取ったせいか、図書館につくまででかなりばててしまった。
図書館に入ると、歴史の棚を整えている父の背中が見えた。
声をかけると、
父は適当な返事をして包みを受け取り、奥の部屋に入ってしまった。


272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 12:50:06.01 ID:sy2wSOa7O
もう少し感謝してくれてもいいのに。
ふてくされて図書館を出ようとした私の足を生暖かいものがするりと撫でた。
足元を猫が通ったのだ。
図書館に猫がいるのは場違いだと思ったが、以前電車に乗る猫を見たことがあるのでさほど驚かなかった。
そのまま立ち去ろうとすると、猫はぽっちゃりした体を器用に動かして、私についてくる。
見た目はムーンそっくりだが、性格は正反対みたいだ。


304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 13:30:57.52 ID:sy2wSOa7O
私は地球屋へ向かって歩いていた。
猫も一緒についてくる。
10年前は私が猫を追いかけてたんだっけ。
坂を登りきると、昔と変わらない地球屋の看板が見えた。
地球屋のドアは開かれていた。
数年ぶりに会いに行くことにためらいを感じたが、おじいさんに会って話をしたいと思う気持ちの方が強かった。
入り口をくぐると大きなロッキングチェアが揺れているのが見えた。
「西…おじいさん…ですか?」
尋ねると椅子に座っていた老人がゆっくり立ち上がった。
「雫さん、お久しぶりですね。お元気ですか?」
おじいさんは昔と変わらない優しい声で応えた。


321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 13:52:02.65 ID:sy2wSOa7O
数年間の穴を埋めようとするかのようにおじいさんは私にたくさんのことを聞いた。
けれどおじいさんは私が数年間全く訪ねてこなかった訳を聞かなかったし、昔のように小説を見せて欲しいとも言わなかった。
話が一段落すると、おじいさんは私に再び椅子に腰掛けてもいいかと尋ねた。
私が頷くと、「少し年を取りすぎてしまってね。長い間立っていると疲れてしまうんだ。」と言ってゆっくり腰を下ろした。
そこで初めておじいさんも年を取っていることを実感した。
おじいさんの体がさっきより小さく見えた。
私はおじいさんから目を逸らし、周りに飾られた骨董品に顔を向けた。


364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 14:14:09.73 ID:sy2wSOa7O
棚や壁に飾られた骨董品たちは少し埃をかぶっているものの、昔と変わらないきれいな表情をしていた。
私のよく知っている一体の猫の人形はおじいさんのそばにあった。
「男爵を手にとってもいいですか?」
「ああ、いいとも」
私は男爵を手にとると光の当たる角度に向きを変えた。
男爵の瞳が万華鏡のように輝いた。
『いいもの見せてやるよ』
そう言って聖司が見せてくれたのをよく覚えている。


380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 14:38:49.04 ID:sy2wSOa7O
思わず胸が熱くなる。
男爵の瞳はあのころの気持ちを思い起こしてくれた。
「雫さんも知っていたのですか。聖司に教えてもらったのかな」
「はい」
「そうか、聖司に初めて見せた時も、食い入るように見ていたなぁ」
おじいさんは懐かしそうに目を細めた。
ゆっくりと時間は流れた。
「明日は楽しみですね」日も暮れかかったころ、私は言った。
「ああ。」
「それでは、また来ますね」
「雫さん」立ち去ろうとする私をおじいさんが呼び止めた。
「わたしはまだ雫さんの原石は宝石になれると思っていますよ」
私は答えることができなかった。


405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 15:07:29.94 ID:sy2wSOa7O
店を出ると、先ほどのぽっちゃり猫が道路の真ん中でマットレスのように寝そべっていた。
「あなたまだいたの?」
猫は私が出てきたのがわかると立ち上がってニャアと鳴いた。
しかし私が泣きそうな顔をしているのがわかったのかもうついては来なかった。
(おじいさんはずっと私に期待してくれていたんだわ)
おじいさんの期待に応えられない自分に腹が立って帰り道なのに涙が出た。


426 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 15:48:29.69 ID:sy2wSOa7O
家に帰ってシャワーを浴びる。
お湯の雨に頭を突っ込みながら考えた。
あきらめる事が大人になると言う事なのだ。必死に自分を説得している私がいた。
髪の毛をタオルで軽く拭くと私は台所で麦茶を飲んだ。
「コップを使いなさい」母に叱られた。
部屋に戻り、いつもより早く布団に入る。夕飯は食べなかった。


435 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 16:04:19.21 ID:sy2wSOa7O
いつか見た夢の世界の中に私たちはいた。
「本物の石を探すんだ。」バロンが言った。
「まだ探せと言うの?私にはきっと見つけられっこないわ」
たくさんの石のちりばめられた洞窟に私たちは立っていた。
「君は本物の石の輝きを見たいとは思わないのかい?」残念そうにバロンはうつむいた。
「私は…」私は答えられなかった。
洞窟が光を失ってゆく。
「待って!私やっぱり…」
言いかけた所で目が覚めた。


455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 16:46:02.86 ID:sy2wSOa7O
(バロン…あなたは何を伝えたかったの?)
私はぼんやりとした意識の中で思った。

窓からはすでに朝の光が差し込んでいる。
私は急いで身支度を整え家を飛び出した。
ラッシュアワーをこえたとはいえ都心の駅はかなり混雑していた。
ごみごみした人ごみを抜けて何とか予定のモノレールに飛び乗り、空港へ向かう。
海外旅行の経験がない私にとって、空港は修学旅行で利用したくらいの縁の薄いものだった。
空港についた私はほぼ手探りで聖司の出てくる出口の番号を探す。


466 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 17:06:29.99 ID:sy2wSOa7O
窓を見ると、空からたくさんの飛行機が降りてくるのがわかった。
聖司はどの飛行機に乗っているのだろう。
そんなことを考えながら私はロビーの椅子に腰掛けた。

約束の時刻までの時間は長かった。
緊張で胸は高鳴り、喉がカラカラになった。
(ジュースでも買おう)
私は自販機に小銭を入れた。いっせいにボタンのランプが赤く光る。
喉を潤すにはスポーツ飲料だと私は思った。
私はボタンに手を伸ばした。
すると突然私がボタンを押すより先に誰かが緑茶のボタンを押した。


475 名前:1 ◆godS0YEkMA [] 投稿日:2008/02/27(水) 17:18:14.57 ID:sy2wSOa7O
酉できてるかな?


こんな風にちょっかいを出してくるのは一人しかいない。
「出迎えがいないと寂しいじゃないか」
「聖司!?」声が震えた。
「ちゃんと帰って来たぞ」
聖司はそう言うと照れくさそうに笑った。


480 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 17:21:05.97 ID:ntxn2Cv9O
>>475
神wwwwww


513 名前:1 ◆godS0YEkMA [すごい酉になってしまった…] 投稿日:2008/02/27(水) 17:44:44.72 ID:sy2wSOa7O
聖司は色白ではあるものの10年前よりすっかり大人らしい体つきになっていた。
「大人になったね」
「10年たったからな」
私たちは沈黙した。会話が途切れる。
しばらく黙り込んだ後、頭を掻きながら彼は話しかけた。
「今から俺の家に遊びにこないか?」
私は黙って頷いた。


518 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 17:48:37.47 ID:h8iObxZLO
追いついた!聖司かこいいww
フラグwktk

523 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 17:50:37.22 ID:0szK27w70
                             / ̄\
                            |    .|
                            \_/
                              |              好
                            / ̄  ̄ \          き
          ___           /  \ /  \        な
         /   |  \   ,, - '"r' ~:/   ⌒   ⌒   \ヽ、      ゲ
       / |\_|_/| ../   /   {     (__人__)     | l ..     |
     ./   |    |   /-、   i    |\    ` ⌒´    /i !      ム
     |.   ぃ\__|_'/   ヽ  |_  \        /  //   で  が
     \   ヾミllll田     /"   ̄ ヽ\       /   //    き
      _,.>-:、: ノ ̄ ̄ '''    l       \__/-、 /  / /      ま
     /: : :/          |        "~   `´ / ' >.      し
      {: :/  = 、         !               /_ -‐<-,     た
    /` {     ニ\  /、 ヽ-           //     {
   /i : _ヽ_, -'" ̄   ` ´} _   _,-‐-=ゥ‐- イ >  r '  ̄ ト
  / : i / <_     _,, ィコ   ̄    、 -ノ_, /  \/\    l,-、,,-、_
  / :  \ _ヽ_ ヶ、'~   \,_, -,‐_T`‐--イ/ 、   _,, - +‐ti;;;;,、 ヽ , `、
  l : : : : ̄: :`''t‐t\  r ' '  i  >;}~ )ニ-i─ t'", -─| |-'┴/_l_/ノ
  \ : ヽ: : _ : ||/::::::::`{;;;i  i i__i__/''ヽ |:: ̄:l ̄l~:::ヽ   |_ ===--、__
   \ : : : : :{|:、:::::::::::::::`イ‐i=-_‐, -ー!:::::::::| |:::::::::::ヽ        `

537 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 18:06:34.97 ID:eHM6bD1RO
ただいま~追い付いたお(^ω^)
>>1よ、気長にがんばれ!!
引き続き支援

548 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/27(水) 18:13:10.39 ID:sy2wSOa7O
地球屋には何度も行ったことがあるけれど、聖司の実家に行くのは初めてだった。
案内された場所には立派な洋風の建物が建っていた。
医院をやっているとは聞いていたけれど、ここまで大きいとは思わなかった。
さあ、入って、と聖司は門を開けて促した。
玄関を開けると、聖司のお母さんがびっくりした顔で固まってるのが見えた。
「おかえり…」
「ただいま」
聖司は平然として返事をして私に二階に上がるように言った。


552 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 18:16:35.87 ID:GyvHRi1MO
引き込まれるように読んでしまいました。がんばって!

578 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/27(水) 18:38:40.74 ID:sy2wSOa7O
「お母さん聖司のこと待ってたんじゃないの?迷惑じゃない?」
後ろからお菓子を持って階段を上がってくる聖司に向かって言った。
「大丈夫だよ。それに俺、日本に帰ったら最初に雫といるって決めたんだ。」
「聖司ったら」
聖司はストレートに愛情表現をする。
言われる方が恥ずかしくなるくらいだ。
「ここが俺の部屋」
聖司がドアを開けた。


580 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 18:41:16.53 ID:P/FVyy6FO
25歳より若く見えるな二人とも

581 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 18:41:38.98 ID:cR4E7y5A0
イタリアナイズされてやがるwww

584 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 18:44:19.31 ID:aoglxGqvO
階段聖司が下から上ったらパンツ見えちゃうじゃん

588 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 18:48:06.10 ID:LXrMuPPgO
>>584
最初に地下工房に呼んだ時も絶対見ただろうから、聖司君はそういう趣味なんだろ。

586 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 18:45:36.22 ID:gsc76rDG0
聖司の母「せっかく聖ちゃんが帰ってきたのに、なによあの女!!この泥棒猫!!」

608 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/27(水) 19:10:16.14 ID:sy2wSOa7O
男の子の部屋はむさ苦しいイメージがあったのだが、聖司のはそれと違った。
今まで海外にいてのもあるかもしれないが、きちんと整理整頓されていて、まるでモデルルームのようだった。
ふと本棚を見ると、有名私立高校の過去問集がずらりと並んでいる。
私は聖司との差は昔からだったと言うことを痛感した。
「ちょっとトイレ借りるね」私は席を立った。


638 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/27(水) 19:45:18.96 ID:sy2wSOa7O
「場所わかるか?」
「大丈夫」
私は階段を降りる。
本当はトイレに行きたいわけじゃない。これ以上彼に対して劣等感を抱きたくないからだ。
どうしてだろう。彼に近づくたび彼との距離を感じる。
一階に降りると聖司の両親が話している声が聞こえた。


656 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/27(水) 20:15:33.94 ID:sy2wSOa7O
「やっぱりダメよ。後で聖司にも話をしましょう」
「いいじゃないか、聖司にも自由に恋愛する経験も必要だろう」
耳をふさぎたくなった。
「でも…さんとのお見合いも前向きに話を進めてるのよ」
耐えきれなくなった私はそのまま家を飛び出した。


660 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 20:18:02.26 ID:gsc76rDG0
この雫は逃げてばっかだなww

661 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 20:18:22.37 ID:P/FVyy6FO
そりゃあ不安だよな
恋人は海外にずっといたし

695 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 21:02:48.41 ID:sy2wSOa7O
やっぱり私と聖司は違う。
「雫」
後ろから私を呼ぶ声。
聖司が追いかけてきのだ。
「いったいどうしたんだよ、何があったんだよ」
聖司は何もわかっていない。私がいくら頑張っても追いつけないくらいの才能を持っていることも、私がそれを妬んでいることも。
「もう無理なのよ」
「聖司にはもっとふさわしい相手がいるよ。私なんかより」
「いきなり何言ってんだよ…俺は今でも雫のこと愛してるよ」
「じゃあ聖司は今の私といて何かいいことあるの?私の魅力って何?」
「それは…」聖司が完全に困惑しているのがわかった。馬鹿げた事を言ったと後悔した。
私は「もう帰るから」とだけ告げて私は聖司に背を向けた。


708 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/27(水) 21:30:08.47 ID:sy2wSOa7O
これ以上聖司といるともっと醜い姿を晒してしまいそうだった。
私はまっすぐ坂道を降りていった。
聖司はもう追いかけては来なかった。

夜の風はまだ冬みたいに冷たい。私は鼻をすすった。

家の近くの公園を通りかかると、チラチラと赤い点が光るのが見えた。
タバコの火だ、と思った。
赤い点が消えたと思うと、ライターの炎が喫煙者の顔を照らした。
見覚えのある顔立ち。

「杉村?」

「月島…なのか?」


709 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 21:31:29.29 ID:NRNQatXwO
杉村あああああああああ

724 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/27(水) 21:49:46.85 ID:sy2wSOa7O
普通は再会を喜ぶべきなのだろうが、正直今はそういう気分ではなかった。
「元気にしてたか?」
「うん。タバコ吸うようになったんだ」
「軽いのだけどね」
杉村は私と同じ出版関係の仕事をしていた。
「ふぅん、来月には転勤か。寂しくなるな。」
「大学出てからろくに会ってないんだから大丈夫でしょ」
「そういえばそうだったな」
彼は新しいタバコに火をつけた。
煙を思いきり吸ってから、杉村は私に話しかけた。
「お前ってたしか物語書いてたよな」


732 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/27(水) 22:19:24.32 ID:sy2wSOa7O
「作品って言えるものじゃないけどね」私は目線を落として言った。
「謙遜するなよ。実はさ、この前編集長に雫の事を話したんだ。そしたらさ、ぜひ会いたいって言うんだよ!すごいだろ」
杉村のことだ。きっと大きな尾鰭をつけた話に違いない。
「またまた冗談ばっかり」私はたしなめるように言った。
「冗談じゃねぇよ」
そう言うと、杉村は鞄からおもむろに紙とペンを取り出すと、数字の列を書き始めた。
「これ、電話番号」
そう言って紙を渡すと、
「休日と夜中はつながらないからな。早めにかけろよ。」と付け足した。


739 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 22:33:43.40 ID:qg6au23x0
てっきり聖司と再開して終わりだと思ってたぜw

745 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 22:40:17.69 ID:r8uwSmNw0
杉村すげぇかっこいい、、、、

756 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 22:50:03.79 ID:zTwH3ACV0
みんなさ、耳をすませば見たあと図書館行きたくなるだろ?
おれもさ。

758 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/27(水) 22:56:03.68 ID:9E5z7/GF0
>>756
俺なんか大学の図書館のバイト申しこもうとしたわww

832 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 01:08:13.57 ID:LWkQDY6uO
「じゃ、俺はそろそろ行くわ、じゃあな」
杉村はスーツを軽くはたいて立ち上がると、私が来た道を歩いていった。
私はあいさつの代わりに手を振った。

家に帰り、机の上にメモを広げた。
ゴツゴツした字でおおきく番号が綴られている。
「今更何を試そうっていうの」
そういうと私は布団に潜った。
私はまだ番号に電話する気分にはなれなかった。


私が腐ってる間にも時間は過ぎる。
きがつけばもうすでに朝の7時過ぎていた
「まずい、遅刻だ!」
私はベッドから飛び起き身支度をした。


837 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 01:20:59.39 ID:LWkQDY6uO
ギリギリの電車に無理やり押し込められ、雫は会社に向かう。
再び慌ただしい日常が始まることを雫はぼんやりと考えていた。
目的の駅で、詰まっている人を押しのけるようにして、雫は下車した。
嫌いだった満員電車にもすっかり慣れてしまった。
オフィスは駅から歩いて5分くらいの大ビルの中にある。
「おはよう月島君、ギリギリだねぇ」嫌みっぽい口調にもすっかり慣れていた。
私は鞄を机の脇に掛けると、先週の書類の続きを読み始めた。


846 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 01:36:32.94 ID:LWkQDY6uO
特に読みたいわけではない、内容を把握するためだけに作られた文章。
私にはそうした仕事で用いる書類がどうしても無機質なものに感じられた。
こんなものから話なんてできっこないと、私は頭の隅でいつも考えていた。
可愛くないよね、昼休み、鏡の前の自分にそっと呟いた。

無味乾燥な時間は過ぎ、とうとう時計の針が定時の時刻を指した。
私は特に残業もすることなく、席を立った。転勤前の人間にはもう大した仕事はないのだ。
「お疲れ様です」そんな言葉を数人と交わして私はオフィスを出た。


848 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 01:38:28.71 ID:FiZFDSO2O
♪心なしか歩調が速くなってゆく
思い出~消すため

やっぱ別れんかな


855 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 02:05:28.35 ID:LWkQDY6uO
聖蹟桜ヶ丘に着くころには日も落ちてあたりは暗くなっていた。
「雫」誰かが私を呼んだ。
声の方を振り向くと、そこには自転車を押しながらやってくる聖司の姿があった。
「雫…昨日はごめんな」ひどく申し訳なさそうな顔をする。
「別にいいよ…」私はぶっきらぼうに答えた。
適当なことを言って聖司から距離を置こうとする私に対して、聖司は
「送って行く」と言って私のそばを離れようとしなかった。
私たちは沈黙した。


858 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 02:07:57.10 ID:RRhjIoWo0
自転車懐かしい

863 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 02:25:51.98 ID:LWkQDY6uO
自宅から近い所まで来たのを私は確認して、私はもう自分で帰れるよ。と言った。
「雫…」聖司が悲しそうな顔で言う。
「どうして俺を避けるんた?」
私は黙り込んでしまった。
「俺のことが嫌いなのか?」
「今はわからない。頭の中がグチャグチャしてるの」
「そうか…わかった」聖司は踵を返すととぼとぼと帰って言った。


869 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 02:39:03.74 ID:Tsl/Z/+iO
聖司君と付き合いてええええ






私男だけど

871 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 02:44:57.89 ID:LWkQDY6uO
私は聖司を傷つけた。
あんな聖司の悲しそうな顔を私は初めて見た。
聖司は全く悪くない。私は自分の卑屈な性格がとことん嫌になった。

私は部屋のベッドに私は突っ伏していた。
窓から風が入り、一枚の紙切れが私のそばに落ちて来た。
(杉村のくれたメモ…)
私は携帯の画面を開いた。
時刻はまだ6時半。私は番号のボタンを丁寧に押した。


881 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 03:07:34.85 ID:LWkQDY6uO
正直杉村の言ったことが本当だったとは思わなかった。
プルプルという呼び出し音が私の体を強ばらせた。しばらくして、誰かが電話に出た。すっきりよく通る女性の声だ。
「どちら様ですか」
「月島雫と申します。杉村の紹介でお電話させていただきました」
「月島さんですか。ぜひお話したいと思っていたのですよ」
向こうの相手は嬉しそうに言った。
それから先の話は緊張してよく覚えていない。
最後に明日会う約束を取りつけて、私は電話を切った。


895 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 03:45:36.92 ID:LWkQDY6uO
まだ小説家になれる決まったわけではないが、その電話は私を舞い上がらせるのに十分だった。
ベストセラー作家になった自分を何度も想像した。
私はダンボールの中の作品と、原石を大きな鞄に詰めてから布団に入った。

早朝に自然と目が覚める。目覚ましの時間まではまだまだ時間があるが、私は早めに支度を整えることにした。
いつもなら仕事に行っている時間だが、今日は欠勤だ。
いつもは見られない星占いをみてから私は家を出た。


903 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 04:02:55.64 ID:MYJfWany0
日本でバイオリン職人なんて儲からないだろうな……聖司どうなってるんだろ

983 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 10:53:05.89 ID:4vRy3ylK0
        まもなくここは 乂1000取り合戦場乂 となります。

      \∧_ヘ     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ,,、,、,,, / \〇ノゝ∩ < じゃあ埋めちゃうよ! 1000取り合戦、いくぞゴルァ!!       ,,、,、,,,
    /三√ ゚Д゚) /   \____________  ,,、,、,,,
     /三/| ゚U゚|\      ,,、,、,,,                       ,,、,、,,,
 ,,、,、,,, U (:::::::::::)  ,,、,、,,,         \オーーーーーーーッ!!/
      //三/|三|\     ∧_∧∧_∧ ∧_∧∧_∧∧_∧∧_∧
      ∪  ∪       (    )    (     )   (    )    )
 ,,、,、,,,       ,,、,、,,,  ∧_∧∧_∧∧_∧ ∧_∧∧_∧∧_∧∧_∧
      ,,、,、,,,       (    )    (    )    (    )    (    )

984 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 10:53:43.51 ID:dg/nhkHZ0
        /つ⌒ヽ
  /つ⌒ヽ〈(;^ω^)
  |(;^ω^) ヽ ⊂ニ) ま、 まじっすか!
  ヽ__と/ ̄ ̄ ̄/ |
   ̄\/___/ ̄ ̄

1000 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 10:59:15.68 ID:DYa4VP3S0
1000なら宗一さん×雫




13 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 11:08:21.90 ID:LWkQDY6uO
予定を数分過ぎたころだろうか。杉村が年配の女性を連れて現れた。
すべてを見透かしているのではないかと思わせりほど澄んだ瞳を彼女は持っていた。
お互い会釈して席につく。

お互いの紹介が一段落した後、
杉村が私の原稿を見せるように言った。
私は原稿の束を取り出す。
「すごい量だな」杉村が言う。
「拝見させてもらっていいかしら」
女性は眼鏡を取り出すと杉村の手から原稿を受け取ると原稿にかじりついた。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 11:09:45.45 ID:NwFtLYJV0
>>1キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 11:18:46.82 ID:8j/MG/+iO
前スレの1000、自重!

33 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 11:51:54.30 ID:LWkQDY6uO
彼女は他の編集者のように数ページで作品を判断することはしなかった。
杉村は「長くなるけど我慢してくれよ」と私に耳打ちした。
頭の中で作品を読んでいる女性の姿となぜかおじいさんの姿とが重ね合わせられた。
私は初めておじいさんに作品を見せた時のことを思い出していた。


どれくらい経っただろうか。窓の外の景色はもう暗い色に染まっている。
灰皿にはたくさんの燃えさしが溜まっていた。
灰皿の主の杉村はそわそわして落ち着きがない。
そっと女性は原稿を机の上に置くと
「どれも面白いお話でした」と言った。


41 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 12:09:14.25 ID:LWkQDY6uO
「文章はまだ未熟ですけど、私にはとても魅力的な物語に感じられましたよ」
「そんな…」私はまだ素直に評価を受け入れられずにいた。
「特にこの猫の話、私は好きですね」
女性は原稿を指さした。
「耳をすませば…私が最初に書いた」
「そうなんですか。この年でこんなに長い話がかけるなんて驚きです。実は、児童向けの文学雑誌を創刊しようと思っているんです。
もしよろしければ、あなたに子供も読めるような文章で物語を書き起こして欲しいのですが」
そう言うと女性は目を細めて笑った。
「やった」
杉村が隣で嬉しそうにガッツポーズをした。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 12:13:40.97 ID:1f6KV4DiO
>「特にこの猫の話、私は好きですね」
これは・・・

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 12:18:49.93 ID:4zV8+CUTO
どんな続きが来ても鬱展開を想像する俺を見てくれ、こいつをどう思う?

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 12:20:44.94 ID:ho8unB4zO
>>47
すごく……ネガティブです……

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 12:24:24.05 ID:NelVt24WO
杉村いいやつすぎる

55 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 12:38:00.66 ID:LWkQDY6uO
その後、この仕事を引き受けるとしたら、今の仕事を辞めることになるだろうということ、
もし人気が出れば連載も可能だということを彼女は説明した。
最後に、「決心がついたらいつでもまた連絡してくださいね」と言って彼女は席
を立った。
私は心を決めた。
『あなたの原石はきっと宝石になれますよ』誰かが私の背中を押してくれた気がした。

もう迷いはない。

私はその場で彼女を引き止めた。
「今すぐお引き受けさせていただきます」
私は再び夢へ向かって歩き始めた。


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 12:39:26.45 ID:DYa4VP3S0
急展開

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 12:39:42.11 ID:3xx2s6QJO
杉はいい人止まりだな
でも美人ではないけど、可愛い奥さんもらって幸せに暮らすんだぜ

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 12:57:05.89 ID:s1+wMCL60
そういや猫の恩返しってあの二人が大人になって雫が書いた
物語って設定なんだよな。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 13:40:46.67 ID:LWkQDY6uO
その日から、私の創作活動が始まった。
自室にこもり、ノートパソコンと向き合う。
会社にはすぐに退職届を出した。
もう私のするべきことは一つだけだ。
物語が頭の中から話しかけてくるのを私は漏らさず書き起こしていく。
想像の世界から抽出した文章を何度も推敲を重ね、書き直す作業ははっきり言って楽ではない。
けれどもこの仕事は私を突き動かす不思議な魅力を持っていた。


98 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 13:54:43.99 ID:LWkQDY6uO
何日かかっただろう。原稿を書き上げたころにはカレンダーの数字が変わっていた。
私はパソコンを鞄に入れて家を出た。
昔からの習慣のせいか、作品は最初におじいさんに見て欲しいと思ったからだ。
図書館のそばの急勾配の坂を上りきり、私は地球屋のドアをノックした。
何回かドアを叩いたけれど、中からは返事がなかった。
どうやら留守中らしい。
私はあきらめてそのまま原稿の入ったCDを出版社へ郵送した。


108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 14:22:36.49 ID:LWkQDY6uO
郵便局からの帰り道、私は見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「聖司!?」私は思わず名前を呼んだ。
聖司は涙ぐんでいた。
「いったいどうしたの?」私は訳を聞いた。
すこしためらってから聖司は言った。
「じいさんが倒れたんだ」
私は頭の中が真っ白になった。
「朝バイオリン工房の準備をしに行ったら倒れてたんだ…今朝は珍しく冷え込んだから」
聖司は言った。
「大変だったね…」当たり障りのないことしか言えない自分にいらいらした。


111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 14:30:54.20 ID:1f6KV4DiO
じいさん・・・(´;ω;`)

114 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 14:39:34.83 ID:LWkQDY6uO
おじいさんは集中治療室に入っているらしい。
病院に行くと、聖司のお兄さんが説明してくれた。
「正直に言うと、あんまり良い状態じゃないんだ。
命を取り留めたとしても、意識はほとんど戻らないと思う」
聖司は肩を落としていた。
私は聖司にかける言葉が見つからなかった。


122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 14:48:02.99 ID:U+KlAgf0O
誠二の兄ちゃんは漫画に出てきてたな

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 15:21:37.21 ID:LWkQDY6uO
黙って二人ベンチに腰掛けた。
「俺が一人前の職人になって、ここで一緒に暮らすの楽しみにしてたみたいなんだ」聖司がぽつりと言った。
「私も、一人前の小説書きになって、成長した姿を見せてあげられなかった」
聖司が鼻をすすった後、ゆっくり立ち上がった。
「今日はもう遅いし、帰れよ」
私は頷いた。
病院の重苦しい空気に耐えられなかったからだ。


家に帰るとすぐそのまま布団に潜り込んだ。
今日の出来事をそのまま夢にしてしまいたかった。
枕が涙を吸い込むのがわかった。


昼過ぎくらいだろうか。メールの着信音で目が覚めた。
送り主は杉村だった。

『原稿ちゃんと貰いました。
好評みたいだぞ!やったな!
ちなみに発売日は来月の3日です』


仕事関係のメールでも話し言葉なのが杉村らしい。
仕事が上手くいっていることがわかって少し気持ちが楽になった。


142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 15:41:59.11 ID:LWkQDY6uO
遅い昼食を食べていると、家の電話が鳴った。
受話器を耳にあてると、聖司の声だとわかった。
「じいさんがなんとか息を取り留めたみたいなんだ。見舞いに行く前に雫にも連絡しようと思って」
「私も行っていい?」
「もちろんいいよ。×××号室にいるからな」
「わかった」
私は急いで服を着替えて家を出た。
途中駅前の花屋で黄色いカーネーションの束を買う。
ショーウィンドウに寝癖のついた髪が映って後悔したが、そのまま病院に向かった。


146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 15:46:22.67 ID:1f6KV4DiO
じいさん生きろ!!(´・ω・`)

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 15:47:18.66 ID:DYa4VP3S0
じいさん「生きる!」

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 15:54:56.57 ID:IcwiZLZ10
|・ω・`)つ仙豆

159 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 16:26:42.61 ID:LWkQDY6uO
×××号室のドアを開ける。
病室の中には聖司の親戚が勢揃いしていた。
その真ん中におじいさんは横たわっている。
体のいたるところにつけられたチューブが痛々しかった。
私の存在に気付いた聖司が手を振り、中庭に行こうと誘った。


中庭には色とりどりの花や木が植わっていて、病院の中とは違って華やかだった。
「ジュース飲むだろ」
ドアのそばの自販機の前に立って聖司は言った。
「何がいい?」
「聖司と同じでいい」
聖司は烏龍茶を二本持ってきた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
聖司は缶を渡すと、残念そうな顔で言った。
「やっぱり意識は戻らないみたいなんだ」
「そっか…」
「心配かけちゃってごめんな」申し訳なさそうに言った。
「私こそ、大変だったのに何もできなくてごめん」
「俺も何もできなかったよ」辛そうな表情を見せる。
「俺、じいさんが倒れた時、救急車が来るまで何もできなかった。何回も唸って苦しそうだったのに…」
「聖司は悪くないよ。それに聖司が救急車を呼んだから助かったんだよ」
私は思いつく限り多くの言葉で彼を慰めた。


166 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 16:53:19.62 ID:LWkQDY6uO
「俺疲れちゃったよ」聖司は呟いた。
「ずっと大変だったもんね」帰国してからずっと休めなかったのだから当たり前だ。
「雫…肩借りてもいい?」
突然聖司はそう言うと私の肩に頭を乗せた。
聖司に直接触れるなんて10年振りだ。
急に鼓動が速くなる。
全身の血が駆け巡っているのがわかる
聖司を愛おしく思う気持ちが私にまだちゃんとあることを強く感じた。
私は聖司の頭をなでた。
「雫…」聖司が囁いた。
「どうしたの?」
「何でもない」聖司は目を閉じて微笑んだ。


168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 16:57:45.58 ID:1f6KV4DiO
うわぁぁぁぁあぁぁいいなぁぁあぁぁぁ
俺もこんなシチュエーションに遭遇してえぇぇぇぇえぇ


182 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 17:26:04.25 ID:LWkQDY6uO
30分は経っただろうか。すっかり日が傾いていることに気が付いた。
「ご両親の所に行かなくていいの?」私は言った。
「いいよ。近い所に住んでるからいつでも会えるし。」
聖司は 起き上がると背伸びした。
「今日は親戚ばっかりで息苦しいだろうし帰れよ。送ってく」
私は頷いた。
「後ろ乗れよ」駐輪場から自転車を出すと聖司が言った。
よく見ると前かごに天沢医院とかかれた札が下がっている。
「持ってっちゃっていいの?」
「いいのいいの」聖司はイタズラっぽく笑った。
「しっかり捕まってろよ。」聖司は私が後ろにいる事を確認してペダルを大きく前に漕ぎ出した。


183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 17:30:27.73 ID:6osavBetO
うおおおおおおおおおお名シーンKTKR

193 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 17:54:32.71 ID:LWkQDY6uO
涼しい風が頬を撫でる。
中学の頃より逞しくなった聖司はどんどん坂道を登って行く。
「雫、ちょっと時間あるか」息を切らしながら聖司は言った
「うん!」返事をすると自転車は家の方とは違う方の角を曲がった。
景色が少しずつ変わって行く。
どこか懐かしく、見覚えのある景色。
聖司はぐんぐん速度を上げる。
「もうすぐだぞ」
住宅街を抜けて、私はやっと聖司が向かっている場所がわかった。
やがて急勾配の坂に差し掛かる。
私は荷台を降りると聖司の自転車を押した。「もう一人でも大丈夫なんだぞ」照れくさそうに聖司は言う。
「こっちの他が懐かしいでしょ」私も照れくさくなってはにかんだ。


197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 17:57:38.33 ID:6osavBetO
いいねぇ

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 17:58:43.96 ID:WQ685AHtO
鬱になった

211 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [自分で書いてて鬱になった('A`)] 投稿日:2008/02/28(木) 18:40:32.68 ID:LWkQDY6uO
自転車を上まで押し込むと、そこには10年前にみた街並みが広がっていた。
「すっかり暗くなっちゃったな…」聖司が呟く。
日は完全に沈み、曇って星が見えない夜空の代わりに丘の下の家々の灯りが天の川のように輝き始めていた。

聖司が話しかける。
「雫、約束覚えてるか」
私は頷いた。
聖司は真剣な表情で言った。
「俺は雫にとって頼りない男かもしれない。でも俺は雫の事を世界で一番愛してる。
俺の手で雫を幸せにしてやりたいと思ってる。」
私は思わず目頭が熱くなった。

聖司は一息深呼吸をしてから言った。

「雫、俺と結婚してくれ」

もう答えは決まっている。

「はい」

私は迷わず返事をした。
緊張していた彼の顔がほころぶ。
「よかった。ありがとう雫」
聖司は私を抱き寄せた。
「愛してるよ」
「私も…」涙があふれた。
お互いの額が近づき、唇が重なった。
その日、私は初めてキスを経験した。


213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 18:46:22.91 ID:0Pu55/Ya0
卯ぎゃあアアアアああアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああ

219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 18:48:16.13 ID:tbnFKOMzO
あうあああああ
これはwwwくるww

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 18:54:52.89 ID:4zV8+CUTO
至って普通の恋愛モノのパターンなのに
こんなにも悲しくなるのは何故だ・・・

229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 18:59:36.30 ID:cS+RE4xfO
決めた……

俺、耳すまのDVD買うよ!


230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 19:00:47.01 ID:jdRYTi5M0
>>229
何を馬鹿な事を!早まるな!!


232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 19:03:32.02 ID:GtM4K3/bO
>>229秒速5センチメートルにしとけ

231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 19:02:29.36 ID:Ihfj5zeYO
名シーンだな
感動した

237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 19:07:06.45 ID:NelVt24WO
皆強くなった-

286 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 20:28:05.56 ID:LWkQDY6uO
あれからしばらくして、私たちは夫婦として共に生活を始めた。

お互い趣味も食べ物の好みも違う二人だから喧嘩もたくさんしたけれど、どの喧嘩も3日以上続かなかった。

私は聖司と結ばれてから妻としての幸せを噛み締めていた。

私の書いた小説は目立つ賞をとったりする事はなかったものの、順調に連載回数を伸ばし、春には単行本化されるようになった。


291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 20:35:43.75 ID:KmlWSanV0
杉村は杉村でしかなかったか・・・

296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/02/28(木) 20:48:20.29 ID:OIT7YwNd0
杉村 。・゚・(ノД`)・゚・。

314 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 21:37:27.56 ID:LWkQDY6uO
「もうかなり昔になるね」
私はバロンの瞳を見つめていた。
この人形には私の思い出がいっぱい詰まっている。

地球屋だった部屋を出て、私は大きくなったお腹を抱えてバイオリン工房へ続く階段を降りる。
「おいおい、無理するなよ」聖司が心配そうに言った。
「大丈夫~」
私はゆっくり階段を降りると近くにある椅子に腰掛けた。
「おいで、ムタ」
私は聖司の足元にいる猫に声をかけた。
猫は重たい体を揺らして私の足元にうずくまった。
「私、新作にこの子を登場させてみたんだ」
「お前猫好きだもんな。もう書き上がったのか?」聖司はバイオリンの材木を削りながら言った。
横顔が凛々しい。
「もうすぐおしまい、完成したら見せてあげるね」
そう言って私は二階に上がり、ノートパソコンを立ち上げた。
少し古めの電子音とともに、ウィンドウ2000が起動する。
新着一件の文字が、担当から催促のメールが来たことを知らせていた。
「相変わらずせっかちね」

私は『猫の恩返し』と書かれたファイルを開き、小説の仕上げに取りかかった。


【完】


316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 21:39:03.13 ID:V3ePQNGv0
>>1乙
面白かった!!


321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 21:40:10.29 ID:3YEgVFpr0
>>1
お疲れ様でした。
面白かったです。


327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 21:43:21.29 ID:KmlWSanV0
担当ってのは杉村か!!

338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 21:49:49.06 ID:Ihfj5zeYO
すげーよ
本当に感動した
これスタジオジブリに送ろうぜ

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/02/28(木) 22:05:31.14 ID:NVpkJago0

                       ,'⌒,ー、           _ ,,..  X
                     〈∨⌒ /\__,,..  -‐ '' " _,,. ‐''´
              〈\   _,,r'" 〉 // //     . ‐''"
               ,ゝ `     - - - -_,,.. ‐''" _,.〉 / /  . {'⌒) ∠二二> -  - - - - - -
      _,.. ‐''"  _,,,.. -{(⌒)、  r'`ー''‐‐^‐'ヾ{} +
     '-‐ '' "  _,,. ‐''"`ー‐ヘj^‐'   ;;    ‐ -‐   _- ちょっくら聖蹟桜ヶ丘行ってくる
     - ‐_+      ;'"  ,;'' ,''   ,;゙ ‐-  ー_- ‐
    ______,''___,;;"_;;__,,___________
    ///////////////////////

360 名前:1 ◆OqbkKRTsBo [] 投稿日:2008/02/28(木) 22:10:09.85 ID:LWkQDY6uO
拙い文章でしたが読んでいただきありがとうございした。

いままで頭の中では何度となくファンタジー(厨二病設定)な話を妄想していたのですが、実際に文章化したのはこれが初めての作品でした。

途中どうしても続きが浮かばない時が何度もあって、雫含め物書きの方の凄さを改めて実感ました。
あと偽物の才能に嫉妬してましたw


遅い、日本語変、酉忘れると短所を挙げたらきりがない1でしたが、皆さん暖かく見守ってくださり、感情しております。

まとめてくださった方、保守してくださった方、書き込んでくださった方、このスレに関わった方全員にお礼申し上げます

一応言って置きますが酉のgodは偶然ですからねw


本当にありがとうございました。
では名無しに戻りますね。


362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 22:13:16.60 ID:6osavBetO
>>360
こちらこそありがとうだぜ!


363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/28(木) 22:13:53.51 ID:Ihfj5zeYO
>>360
本当にいい話だった。
おまえ才能あるぜ、きっと。
またいろんな話かいてくれ!


413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/29(金) 00:13:23.00 ID:abhErcmR0
寂しくなるな…






                                            糸冬
                                         ---------------
                                         制作・著作 NHK

432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/02/29(金) 01:22:50.77 ID:V6saZ2/O0
vestri23678

>>1乙!!ほんとおもしろかった


耳をすませば [DVD]
耳をすませば [DVD]

懐かしくなってつい昔のスレッドを更新してしまいました。
既出過ぎて申し訳ないです。



殺人犯の発言って面白くね?
J( 'ー`)し おかあさんに言えない事を書くスレJ( 'ー`)し
軽く泣きたくなったコピペ
じわじわとくる怖い話
何度見ても笑えるAA大図鑑
「これはかわいい」と思ったAA貼ってみろ
テツ「あれ…? ハイド、お前身長伸びてないか?」
狩野英孝「レッドカーペットのレッドは血の色ってことか…!」
かがみ「みんな、紹介するわね。私の彼氏の春日君よ」
コナン(27歳)「事件も解決したし一発ヌイとくかwwwwwww」
そろそろ最強の笑えるコピペを決めようじゃないか
春日「うぃ」 ハルヒ「なによ、こいつ……」
鋼の錬金術師、グラトニーのAAつくったwwwww
意味が分かると怖いコピペを貼っていけ
有名なコピペを貼ってってください
名作コピペを貼るスレ
初見は100%吹くAA
たまには和むコピペでも
日本SUGEEEEEEEEEEEEEってなるコピペを張ってくれ
たまに見たくなるコピペ
たまには感動するコピペを貼らないか?
麻呂の通夜会場はこちら
イブラヒモビッチ「…桜ヶ丘高校?」
タラヲ「はなまるな幼稚園デースwww」
J( '-`)し
懐かしいコピペ
リングディントン♪リングディントン♪ ←これに合うAA下さい