このところ、twitterやメールを使って保育園に関する問題を考えてきました。


子ども・子育て新システムや都がうちだした面積基準緩和について、たくさんの保育園保護者の方や専門家と意見を交わして、少し手応えを感じ始めています。


しかし、いまだに多くの人は「保育園といえば働く女性の問題」と思っています。また「待機児童が減れば保育園は問題なし」と考えている人が、世の中の大半でしょう。私たち保育園保護者なら肌感覚で分かる「保育の質」「子どもを最優先に」という主張を、この社会で意思決定権を握っている、社会的地位の高い男性たちに分かってもらうのは簡単なことではありません。


でも、本当に子どもを取り巻く環境をよくしたいと思ったら、私たちは「彼ら」を味方につけなくてはいけない。ちょうど先日、元上司と飲み会をしました。彼はどこをどう取っても成功したビジネスマンであり、世論形成に与える力も大きいです。酒の席で保育園問題について話してみたものの、残念ながらあまり分かってもらえませんでした。帰宅して反省したのは、私が「パパママ語」で話してしまったことです。小さな子どもを毎日目にして、twitterでもリアルでも育児話で盛り上がる日々を続けているうちに、外の人に話すスキルが落ちたのかもしれません。


でも、彼には分かってほしいと思いました。約10年前、私がまだ「女子」だったころ、きちんと気合を入れて仕事をすることの意味を教えてくれた上司だからです。また、私が書いた本を家族以外でいちばん最初に評価してくれたのも、彼でした。今日は、ありがとうございました、というはずのメールは、いつの間にか、「経済語」を使った保育園問題の再説明になっていました。


翌朝届いた返信から、私の意図が伝わったこと、これが「女・子どもの問題」でないことを分かってもらえたことを知り、大変うれしかったです。よかったら、みなさんの周りにいる、分かってくれそうなビジネスマンに向けた説明にお使いください。原文から、個人が特定される部分のみ、削除しています。


それから、しつこくて申し訳ありませんが、保育園について、日経新聞でも耳慣れた観点から、もう少しお伝えさせてください。子持ち女性が育児について熱心に話すと「あっち側」に行ったように見えることは、覚悟の上です。これは「女・子どもの問題」でなく、日本の将来にかかわる問題だということを、日本の世論に大きな影響を与える○○さんに、ぜひ知っていただきたいです。


●待機児童について。
待機児童が生まれる原因は保育園が過小供給になっているためです。市場経済の理論に照らせば、供給を増やすに価格を上げる必要があります。その方法としては保育予算を増やすか、保護者が払う利用料を上げるしかありません。予算増額については、潜在需要40〜50万人(慶応大駒村教授)に応えるためには、現在の16〜20%ほど保育園のキャパシティーを増やす必要があります。つまり、詰め込みのような弥縫策では問題の根本的な解決にはならないのです。


●保育予算について
保育予算を増やす上での問題は、ご存じの通り、高齢者との綱引きです。これはまさに、最近の日経新聞が指摘している「シルバー民主主義」の問題であり「児童は財政的な虐待を受けている」という部分です。一般的に言って高齢者も子どもも「福祉」の対象ですが、子どもは将来の社会を支える存在ですから、そこにお金をかけることは「投資」の意味合いもあります。特に現在のように賦課方式の年金制度を続けるなら、政府が子どもにお金をかけるのは当然と言えるでしょう。保育園だけでなく初等教育予算も、もっと増やさなくてはなりません。


●保育料を上げる、という可能性
ただし予算獲得は政治対立を生み、長期化する可能性が高いです。今、保育園に入れず、仕事に復帰できずに困っている人を助けるためにどこからお金を捻出すればよいのか。考えてみますと、今、保育園を利用している人、特に低い費用で高い質の保育を受けている認可保育園保護者が、もっと多く払うのが一番、手っ取り早い上にフェアであると思います。都内の公立園は月額3万円(所得によって違いますが)、私立園(認証)は月額8万円(所得に関係なく一律)程度が平均的です。質の高い園を利用できる親が低所得者でないのに少ない料金しか払わない現状は、やはり、おかしいです。


先ほど、我が家の年収をお伝えした時、○○さんが保育料は「年間200万円くらい」と推測されました。××さんは、公立だからもっと安くて「100万円くらい」とおっしゃいました。いずれにせよ、月額10〜15万円程度が納得価格と思われたのではないでしょうか。私もまったく同じように考えていますし、実際にそういう考えに賛成する人は、意外にも少なくありません。


●詰め込みでは女性就労は減る
詰め込みの実態ですが、すでにいくつも事例があります。たとえば私が見学した私立で都の補助金を受けている保育園では、最低基準ぎりぎりで運営していました。7畳大の部屋で0〜2歳児・6人を2人の大人(保育士)が見ていました。まさにすし詰めです。場所は半地下。そんな園でも入園待ちがいました。私と夫はさすがにここは嫌だと思い、育児休業を延ばすか、保育園は諦めてベビーシッターにしようかと考えました。ちなみにベビーシッターだと、1日8時間、週5日利用でおよそ月額25万円かかります。米国の実態を知っていたので「仕方ない」と思いました。


つまり、このように最低基準ギリギリの保育園が増えると、ある程度稼ぎがある家庭は保育園を使わなくなることが考えられます。その結果、妻の収入が高ければベビーシッター利用で仕事復帰、収入が高くない場合は「良い保育サービスは高すぎる」という理由で仕事を辞めるでしょう。まさに米国と同じ状況です。そして、経済的に困窮していて、仕方なく働いている人たちが、詰め込み保育園を利用せざるをえません。


児童虐待防止の視点
最後に、別の視点を。理想的には保育園は主婦家庭でも利用できるくらい拡大したほうがよいと思っています。私自身は20代は長時間労働が当たり前で生理が止まったことさえありますが、それと比べても新生児の育児を都会のマンションで夫と2人きりでやるのは精神的に大変でした。夫が育児をしない家庭における、主婦のストレスたるや、大変なものでしょう。近年、問題になっている児童虐待は、密室で孤独な育児をしている母親が加害者になることが多いです。もし、母親の就業形態を問わず、必要ならいつでも短時間でも保育園を利用することができれば、虐待はずいぶん減るでしょう。公立保育園の質は非常に高く、ここが果たす育児支援の意味は大きいのです。


●最後に
昨年、川崎市の無認可保育園で11カ月の息子さんを亡くした方にお話を聞きました。川崎は全国でも上位に入る待機児童数。財政難から質の高い認可保育園が不足しており、市は民間の保育園に頼っている状況です。死亡事故の情報は保護者に知らされることなく、今もこの園は何事もなかったかのように運営を続けています。


長文になりました。