北朝鮮の金正恩第1書記の叔母で一昨年末に粛清された張成沢氏の妻、金敬姫氏について「昨年10月頃に病死した」との新たな死亡説が出ている。金敬姫氏についてはこれまで、スイス滞在説、植物状態説、心臓マヒ急死説、自殺説-などの情報が飛び交ってきた。故金正日総書記の妹として金ファミリーの要とみられてきただけに、その生死の影響は小さくない。金敬姫氏の影が急速に薄れるなかで金正恩氏の妹、金与正氏の登場が増えている。 (久保田るり子)
■すでに1年5カ月、動静報道のない金敬姫氏に「昨年10月死亡説」
「昨年10月病死説」の出所は北朝鮮発の内部情報だ。それによると、金敬姫氏は最後まで国政運営や張成沢氏処刑について金正恩氏を叱り、なじっていたとされる。病名などは不明。ただ叔母の死亡について金正恩氏が「然るべき時が来るまで公表するな」と命令したとされる。
金敬姫氏が最後に北朝鮮の公式報道で報じられたのは2013年9月、朝鮮人民内務軍協奏団の公演を金正恩氏とともに観覧した-との動静だ。夫の張成沢氏が処刑されたのは、その3カ月後だった。以来、金敬姫氏の消息はナゾとなった。昨年は諸説の消息情報が出ていた。
韓国紙「朝鮮日報」は韓国政府筋の話として「張成沢刑後に自殺か心臓マヒにより死去した可能性がある」と報じた。米CNNは、北朝鮮の姜成山前首相の娘婿で脱北者の康明道氏の話として「心臓マヒ死亡説」を伝えた。これによると金敬姫氏は張成沢氏処刑の数日後、「金正恩氏と電話でいい争いになり心臓マヒを起こした」という。
米ウォールストリート・ジャーナルは脱北者、金恒光氏が北朝鮮内部から聞いたの話として、「金敬姫氏は張成沢氏処刑の5日後に服毒自殺した」とし、その遺書で「夫の処刑した金正恩氏を罵倒する言葉を並べていた」と報じている。
ただ、金敬姫氏は「死亡説」のあとに本人が登場したことがある。また現在も「公式活動はしていないが中国で病気治療したあと平壌に戻った」との生存説もある。公式発表がない限り断定は難しい状況だ。
これだけ、注目されるのは金敬姫氏の過去の影響力ゆえだ。金敬姫氏は政治には興味が薄い半面、金ファミリーの要として君臨していたとされる。韓国の北朝鮮専門家によると、金敬姫氏は金正日氏の死後、金日成直系である「白頭血統」のトップとして一族の利害を差配してきたという。だが、張成沢氏の処刑後、金敬姫氏の公式報道は途絶え、死亡説が流れなかでその影は消えかかっている。