ハンス・アビング博士[芸術経済学] 日本講演「なぜアーティストは貧乏なのか?」〈第二会場:東京〉私的メモ

2009年10月23日[金] 17:30〜
会場:東京藝術大学 第1講義室(開演時には満員)

『金と芸術』翻訳者山本和弘氏による前フリ

・『金と芸術』を翻訳して出版したが、殆どアクションが無い。
・それ以前に読まれていない(売れていない?)
・新聞の書評には取り上げられるなど、アートワールドの外には響いた
・しかしアートワールドの内側の人には届いていない。

ハンス・アビング博士による講演

・アーティストが知っておくべき課題
・芸術と例外的経済

・アーティストを取り巻く環境は欧米もアジアもあまり関係が無い。
・欧米におけるアーティストの総収入(副業含)40〜60%が貧困ラインを下回っている。
・アートの収入だけにフォーカスすると、さらにその数は増える。

・芸術からの収入は低い。
・欧米における大多数のアーティストは芸術からの収入だけでは成りたたない。
・アーティストうち1%が例外的に非常に高い収入を得ている
・77%が社会保障が必要、44%が副収入よりアートの収入のほうが多い

・芸術からの収入はいつの時代でも低かったわけではない。
・19世紀迄はアーティストの収入は低くない。
・19世紀以降、アーティストの数が急激に増加した。(特に第2次大戦以降)

・西洋諸国ではアーティストの60%〜90%が副業を持っている。副業の内容は様々。

アーティストは供給過剰だろうか?
・収入が低いということは、アーティストが供給過剰ということを示唆している。
・しかし他の職業と異なり収入が低いから、アートという職業を離れたい、アーティストになりたい人が減ることは無い。
→例外的経済
なぜ低い収入の職業を選ぶのか?

収入が低い理由
  (欧米では)アーティストは尊敬を集める存在として位置づけられている
  →芸術の神話性
  極端に高い収入のアーティストが、目指す人の心を惹きつける?
  名声と注目を求めている?
  ステイタスや仲間からの認知度を求めているから?
  制作することを好むから?
  創造的な仕事を好むから?
 以上の説明はアーティストの低い収入を説明するのに有効だが、十分な説明ではない。

最も基本的な説明
・芸術は特別である
 アーティストには芸術を生み出す衝動とで責務がある
 アーティストには特殊なセカイに隷属する喜びがある
欧米ではアートは神聖なものであるといわれる
 19世紀以降、アートは個人であろうとする歴史と結びついた。
 殆どの欧米人はアーティストは本物であると尊敬している

低い収入は何で埋め合わせられるのだろうか?
・アーティストは耐える存在という考えも成立する。

アーティストは臨時収入があると制作のための時間や設備にお金を使う。
(労働選好)

3種類のアーティストがいる
 貧乏ではないアーティスト(少数)
 傍から見るとそれほど貧乏ではないアーティスト(多数)
 本当に貧乏なアーティスト

アーティストへの助成・支援
・支援が必要な貧乏なアーティストは増加している
・アーティストへの直接の支援は、多くの芸術作品を生み出すことにはならない。
・寄付や助成の増加がアーティストの生活を向上させることはない
・貧乏なアーティストの人数を増やすだけ

アーティストの特殊性
・アーティストは比較的裕福な家庭が多い。

繁栄
・裕福な国々では貧乏なアーティストが比較的多い。

アートの成長は経済成長とリンクする

質疑応答関連の適当メモ

・オランダでもアートマーケットは小さい
・プロのアーティストは作品を作っているだけでは満足できないはず。
・問題は、買い手ではなく作り手にある。
・アーティストに作品を売る姿勢が無い。
・買い手との難しい相違。
・プロのアーティストの定義は?
 税務署と個人の意識の問題。
・必要なのは才能だけではない
・プロのアーティストは自分の作品を広く知らしめたいと思うはず。
・貧乏なアーティストを直接支援するのではなく、コミッションワークで支援すべき。
現代アートは決して売れるものではない。
 買いたいものと現代アートには差がある。
・プロフェッシャナリズムの高まりによってなにが変わるか?
 芸術が科学に向かう可能性
 芸術がエンターテイメントに向かう可能性
村上隆の[芸術企業論]は読んでいない。

講演の概要(私的なマトメ)※

アーティストは一部を除いてアートだけで生活するのは難しい(貧乏)
20世紀になってアーティストの数が増えている(供給過多)
欧米ではアートに神話性がある
欧米人はアーティストを本物として尊敬している
アート(アーティスト)の経済は一般的な市場経済では無い(例外的経済)
アートィストへの助成はアーティストを貧乏から救わない。

講演のレジュメ?はハンス・アビング博士のサイトに掲載されるとのこと。
http://www.hansabbing.nl/

金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか

金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか

※私の勝手なマトメです。


もし、上記メモに講演の内容とは異なる点がありましたらお知らせください。