リアルとバーチャルの境界を消し去る「Magic Leap One」とは――四角いディスプレイはいよいよ過去のものに

» 2018年02月17日 06時00分 公開
[行武温ITmedia]

 ソファに腰かけ、コーヒーを飲みながら空中に浮かぶ画面でYouTubeを見る。はたまた、自宅の棚の影に隠れたゾンビを『バイオハザード』のように倒す――こんなSF映画に出てきそうなワンシーンがあと数年で現実のものになるかもしれない。

 絶えずバズワードの生まれるテクノロジー界だが、2017年によく耳にしたワードとしてVR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augumented Reality:拡張現実)を挙げる人は多いだろう。それでは「MR」(Mixed Reality:複合現実)はどうだろうか?

 MRデバイスといえばMicrosoftの「Hololens」があるが、もう1つ注目すべきプロダクトがある。

 GoogleやAlibaba、Andreessen Horowitz、Qualcommといった有名企業・投資家から合計約19億ドル(約2100億円)もの資金を調達しながらも、その全貌をベールに包んだ状態を続けていたMagic Leapが、第1号となるプロダクト「Magic Leap One」を発表したのだ。

 本記事ではMagic Leapの成り立ちや、発表されたプロダクトの概要、有用性に迫っていく。

数年間の「ステルスモード」を経てついに最初のプロダクトを発表したMagic Leap

サイエンス・フィクションと現実の境目

 Magic Leapは、Oculust Riftの販売開始よりも前の2011年、ロニー・アボビッツ氏によって設立された。大学で医用生体工学を学んだ彼がまず取り組んだのは、外科手術用のロボットアームの開発だった。

 幼少期からサイエンス・フィクションの虜になっていたアボビッツ氏は、医療現場ではあまりに原始的な手法で手術が行われているのを見て驚がくし、Mako Surgical Cropを創業。この会社は、大手医療機器メーカーのStrykerに買収された。

 そして神経外科に興味を持っていたアボビッツ氏が次に目をつけたのは、視覚領域だった。

 Rolling Stone誌でのインタビューで「自分が見たいものを脳に伝えることで、映画『マトリックス』のように現実とバーチャルの世界を融合できるのではと考えていた」と話すアボビッツ氏。

 そんな彼が最終的に思い付いたのは、人間の目が外界から取り込む光の信号をデジタルで再現することで、現実と「作られた現実」の境目が分からないようにするというアイデア。Magic Leapが「Digital Lightfield」と呼ぶこのテクノロジーこそが、Magic Leap Oneの根底にある。

動画が取得できませんでした
2016年に公開されたコンセプト動画

 VRやARが世間に知られ始めたころということもあり、冒頭の通りさまざまな有名企業から多額の資金を調達したMagic Leap。

 資金面以外でも、2016年には『ロード・オブ・ザ・リング』をはじめとする数々の映画でコンセプトデザインやCG制作を行ってきたニュージランド企業、Weta Workshopとコンテンツ面で提携を結んでいる。

 こうして見ると、プロジェクトは極めて順調に進んでいったように見える。当然Magic Leapには、テクノロジー界のみならず、エンターテインメントやゲーム業界からも注目が集まっていた。しかし肝心のプロダクトについては、いくつかのデモ動画が公開された程度で、それ以外の情報が公になることはなかったのだ。

ついにベールを脱いだ「Magic Leap One」

ついにベールを脱いだ「Magic Leap One」

 そして17年12月20日、突然登場したMagic Leap Oneはネット上に大きな衝撃を与えた。ゴーグルと円盤型のコンピュータ、コントローラーからなるこのプロダクトには、以下の5つの特徴がある。

空間把握機能

 ゴーグルに取り付けられた8つのセンサーによって、周囲の環境を把握できるため、例えばPCの横に追加でもう1つバーチャルディスプレイを置いたり、車が机の上の障害物を避けながら走りまわる様子を再現できたりする。

デジタルイメージの固定化

 上記の空間把握機能によって周囲の環境のレプリカを作りだせるため、一度生成されたイメージと逆の方向を向き、再度振り返っても同じ位置に同じイメージが存在し続ける。

空間音響

 空間把握機能と音声技術を組み合わせることで、ユーザーから見た方角やデジタルイメージとの距離に応じて現実世界のように音が聞こえてくる。

多様なインタフェース

 音声やジェスチャー、頭の位置や目の動きなど、さまざまな入力チャンネルを備えているため、直感的な操作が可能。

高速処理能力

 上の写真でモデルの腰に固定されているコンピュータには、Macbook Proにも劣らないとうたう高速チップが搭載されており、解像度が高く、反応スピードの早いデジタルイメージを生成できる。

ゲームやエンタメにとどまらないMagic Leap Oneの可能性

 では、Magic Leapにはどんなユースケースがありえるだろうか。

 ゲームやエンターテインメントへの活用は、数々の3Dゲームの制作に関わってきたWeta Workshopがパートナーであることからも明白だ。冒頭のシーンのようにゲームの世界を自宅で再現したり、部屋が狭くても映画館のような大スクリーンで映画を楽しんだりといったことはすでに十分実現できる。

 さらに教育やトレーニングへの活用もありえるだろう。医学生であれば、人間の内臓や体の部位を3Dかつ精細なイメージ上で確認できるし、製造業に携わっている人であれば現場で実物を触りながらトレーニングを受けられる。

 その他にも「体験できる広告」や都市計画、店舗レイアウトのデモなど、物理空間とデジタルイメージという二つのコンセプトを組み合わせるだけで、その可能性は無限大に広がる。Microsoftの「Hololens」のようなモーションキャプチャーカメラと組み合わせれば、遠くにいる友人と同じ部屋の中にいるかのように話ができるようにさえなるだろう。

 ブラウン管テレビの発明から100年以上がたった今、ついに人びとはディスプレイから解放され、新たなインタフェースを手にしようとしているのかもしれない。

ライター

文:行武温

編集:岡徳之(Livit)


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