日本テレビ日曜夜8時からの『西遊記』は、1978年10月から同枠で放送されていたドラマで、大ヒット以上に一大ブームを巻き起こす。そして1979年4月1日が最終回で、翌週が2時間枠に拡大しての総集編で締めくくった。同時間帯の民放番組では一番の人気であり、NHK大河ドラマとも互角に戦っていたことで、放送中に続編(『西遊記Ⅱ』)の制作が決定されるに至った。

 

総集編の翌週4月15日から始まった『俺たちは天使だ!』は、いわば〝つなぎ番組〟だったのである。

 

その『俺たちは天使だ!』、『TVガイド』1979年4月6日号の新番組紹介には半年間と全26回の放送予定が記されていた。全26回とは、2クール(1クール3ヶ月間×2)いっぱいの回数であるし、すでに夏場から秋に掛けてのナイター中継のスケジュールも確定されていたことから、これは当座としての回数だったかと思う。裏付けとして、同号の『西遊記』関連記事には「10月に戻ってくる」と書かれてあったし、8月発行のものまでは『西遊記II』の情報に関しては「10月放送開始」と書かれてあった。

 

前回の記事で示したとおり、『俺たちは天使だ!』は七ヶ月近くの放送期間中に十回もの放送休止に見舞われた。その内訳は、九回がナイター中継で、あとの一回は秋改編期の期首特番。もしも、ナイター中継が九回とも雨天中止になって『俺たちは天使だ!』が放送されていたら8月26日に終了していた計算になる。が、8月の末まで撮影していたというし、ナイター中継による休止を考慮しながらの制作スケジュールで進行していたことは間違いない。

 

では、なぜ筆者・茶屋町吾郎は放送スケジュールにこだわるのか?、そのことが原因で後番組の『西遊記Ⅱ』がスタートに失敗した他ならない。

 

一大ブームを巻き起こした『西遊記』の続編だけに期待されたにもかかわらず、第1シリーズである『西遊記』ほど話題にならなくて、平均視聴率も落ちてしまった。内容云々の前に、これには明確な理由がある。

 

テレビ朝日で1979年10月14日からの日曜夜8時に『西部警察』が始まってしまうのだ。

 

当ブログの読者に一々説明は不要かと存じるが、『西部警察』のあらましをいま一度説明すると、1976年から1979年にかけて石原プロの制作により日本テレビで放送していた刑事ドラマ『大都会』シリーズが、制作スタッフ、渡哲也・石原裕次郎以下主要出演者、そしてドラマの設定そのものまで丸ごとテレ朝に移籍したものである。ちなみに、『西部警察』以前のテレ朝日曜8時は視聴率10%も獲れない死に枠であった。

 

当ブログ記事 1979年「西部警察」とモスクワオリンピックと、その時代

http://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11560819051.html

 

日本テレビにとって『大都会』シリーズは毎回20%以上の高視聴率を稼ぐ虎の子であったのが、無くなるのはまだしも、長期的なシリーズを形成しようかと画策していた『西遊記Ⅱ』の裏番組として撃ち込まれてくるのだから、たまったものではない。1979年の時事ネタで喩えれば、「空白の一日」で新人・江川卓のためにエース・小林繁をトレードで阪神に手放してしまった巨人がそのエース・小林繁と毎回対戦しなきゃならない状態になったのと同じである。日本テレビ自身がもっとも『大都会』シリーズ=後継作の『西部警察』の凄さを知っていたのだ。

 

それで日本テレビ編成部の判断は、〝『西遊記Ⅱ』のスタートをズラす〟というものであった。『西部警察』第1話・第2話の前後編「無防備都市」は、戦車のような装甲車が東京都内中心部に蹂躙しているのを城西署の黒岩軍団改め西部署の大門軍団が迎え撃つという、いままでのテレビドラマのスケールを凌駕した一大サスペンスアクション巨編。制作発表から撮影中も常に話題で、この前宣伝のおかげもあって1979年秋改編期最大の話題作であったのは言うまでもない。

 

日本テレビは、その前後編の日は、『俺たちは天使だ!』第17話「運が悪けりゃ誘拐犯」と第18回「運が良ければ次期社長」を放送。すでに撮影も制作も終了していて、最終回待つばかりの作品に改編期特番があった後(10月07日 特番『石森章太郎のスーパーアニメ 大恐竜時代 大恐竜総登場』)でも〝つなぎ番組〟を任せてしまって、あえて勝負に出なかった。

 

『西部警察』はド派手な第1話・第2話の後は尻すぼみするのだと日本テレビは判断。そこで〝真打ち〟『西遊記』の続編を登場させればスムーズに挽回出来るものだと思ったのだろう。しかし、嵐が過ぎ去った直後の第3話にぶつけるのではなく、二話も後の第5話からと慎重になりすぎた。

 

前回の記事で示した〝おかしさ、というか、歪さ〟はそこにあったのだ。前年1978年の春から秋に掛けてのナイターシーズンに同枠で放送されていた『青春ド真中!』は制作していたのにもかかわらず一話短縮させて9月中に終了し、10月1日からどうどうと後番組であり日本テレビ開局25周年記念番組の『西遊記』をスタートさせている。『俺たちは天使だ!』が好評だったこともあるが、やはりそれ以上に『西部警察』の脅威に対して、日本テレビは大事な『西遊記Ⅱ』を真正面からぶつけたくなかったというのが本音ではあるまいか?

 

しかし、日本テレビのヨミとは裏腹に、『西部警察』第3話「白昼の誘拐」は、『西部警察』がテレビドラマ初出演となった舘ひろしの華やかな主演エピソード、第4話「マシンガン狂詩曲」はサブタイトルどおり(笑)と突っ走る。第5話「爆殺5秒前」の裏で、ようやく日本テレビは『西遊記Ⅱ』を始めたのだが、結果的にはこれが裏目に出る。もうその頃には話題がすっかり『西部警察』に持って行かれた後だった。


それでも、『西遊記Ⅱ』はネームバリューのある作品だし、新参の『西部警察』に全部持って行かれることはなくて、視聴率的には互角かやや優勢を保った。しかし、『西部警察』をねじ伏せられなかったことは、半年間の放送を終えた『西遊記Ⅱ』のその後に響くことになっていく。

 

『西遊記Ⅱ』の後番組は、同じ国際放映のスタッフらの制作による忍者アクションドラマ『猿飛佐助』(1980年5月~10月)。主演は、奇しくもいま再ブレイクしている太川陽介。このドラマが見事にコケてしまう。太川陽介のほかにも川崎麻世ら当時の男性アイドルを配したのだが、1980年に入ると男性アイドルはすでにたのきんトリオの時代。1970年代にデビューしていた人たちを一気に過去に追いやっていた。一方の『西部警察』は人気者だった舘ひろしの殉職降板があったものの、番組人気そのものは持続。8月には出演俳優と同じくらい人気者となる劇中車・スーパーマシン第1号のマシンX(スカイライン・ジャパン・ターボ)が登場するなど常に話題を振りまいていく。ここで日曜8時の雌雄は決してしまうのだった。

 

猿飛佐助 -The Jumping Monkey- [DVD]/エムスリイエンタテインメント

¥19,440
Amazon.co.jp

時代劇専門チャンネル公式 『猿飛佐助』番組案内

http://www.jidaigeki.com/program/detail/jd11000506.html

最終回、佐助は宿敵・服部半蔵を倒すも直後に徳川の軍勢に滅多打ちに殺されるバッドエンド。

また、幸村は大阪夏の陣に真田十勇士を従えて向かうところで終わる尻切れトンボであった。


 

『猿飛佐助』は前年における同枠ドラマ『俺たちは天使だ!』と同様に巨人戦のナイター中継で度々休止しながら全17話を1980年10月5日に終了。秋の改編期、二週の特番入れて、10月26日からはやはり同じ国際放映のスタッフらの制作による伝奇ドラマ『黄土の嵐』を放送していく。主演は日テレ学園ドラマで人気者だった井上純一。しかし、『西部警察』の勢いは到底止められず、翌1981年1月にわずか1クール12回で打ち切りの憂き目にあう。ここから日テレ日曜8時枠の迷走が始まった。

 

後番組として始まったアメリカのSFドラマ『宇宙空母ギャラクティカ』が全10話三ヶ月で終了した後、1981年5月からは今度は三波伸介による公開バラエティ番組『日曜お笑い劇場』、その仕切り直し版『日曜ドパンチ!放送!!』が放送されるのだが、いずれも定着しなかった。ようやく1981年12月に石坂浩二主演『俺はご先祖さま』でドラマに回帰していくのだけど、もうこの頃には『西部警察』ははるか先の存在となっていった。


さて、最後に面白い話を一つ。日曜夜8時が迷走した時期の『日曜お笑い劇場』、それを手掛けることになった日本テレビの社員ディレクター&プロデューサーの白井荘也は、番組に〝懐かしの外人スター〟として、かつて日本のお茶の間で人気者だったジミー・オズモンドを起用する。番組は短命に終わってしまったのだが、後々の日本テレビにとって思いがけない幸運な出来事に繋がっていく。

 

日本テレビを苦しめた『西部警察』も終わっていた1986年、白井荘也は制作部から事業部に転籍していたところ、日本テレビにマイケル・ジャクソン日本公演招聘の話が舞い込む。その話を持ってきたのが、本国アメリカで芸能関係の会社を興していたジミー・オズモンド。ジミーは幼少の頃から同年代のマイケル・ジャクソンとマブダチだった関係で、マイケルを招きたい日本の他社よりも交渉を優位に勧めることが出来て、日本テレビが1987年の初来日公演を仕切ることが適ったのだった。

 

マイケル・ジャクソン日本公演独占契約手記

http://legend-of-mwfc.la.coocan.jp/shuki-nittere_shirai01.html