チャンスはいきなりやってくる

今は世界でも評判の高い日本車ですが、日本車が世界で売れ始めたのは 1970年代の“オイルショック”がきっかけです。

オイルショック前には日本車なんて、おもちゃみたいなモンだと思われてた。

ところが石油がいきなり高騰したため、車無しでは生活できないアメリカ人の多くが、燃費の悪いアメ車を “緊急避難的に” 手放し、日本車に買い換えたんです。


そして「石油が高いから仕方なく買い換えた日本車」が、「実は品質もアメリカ製より優れてるじゃん!」と気がついた。

オイルショックがなければ、日本車が世界で売れ始めるタイミングはもっとずっと遅かったでしょう。


とはいえ、「オイルショックがあったから日本車が今の地位を築いた」のではありません。

オイルショックは“突然訪れたチャンス”ではあったけど、それによって消費者に「たとえ石油が安くなっても、日本車のほうがいいかも!」と思わせたのは、日本車の実力です。

もし「やっぱり燃費以外には、いいところのない車」と思われていたら、石油価格が落ち着いた後、アメリカ人の多くは再びアメリカ車に戻ってしまったはず。


この話は大事なことを教えてくれます。

それは、「チャンスは突然やってくる。そして、突然のチャンスがやって来たとき、既に準備万端になっていなければ、アウトである」ということです。

もしオイルショックの時、日本車がダメダメで「やっぱダメじゃん!」と思われてしまっていたら・・・

当時アメリカ人が日本商品全般にもっていた「安かろう悪かろう」イメージは、より強固に、日本車のイメージとして定着してしまったでしょう。


★★★


これって芸能界や社会人生活でも同じことが起きます。

誰もが認めるトップ女優がキャスティングされていたのに、スキャンダルや病気で急遽降板。

突然の主役交代だと、他のトップ女優はスケジュール調整ができません。

だから格下のクラスの女優さん、すなわち「突然のオファーでもスケジュールが空いているくらい売れてない人」に話が回ってくるんです。


この時その突然の役目を元の女優以上に上手くこなせれば! 
一気にスターダムを上ることができる。

一方、「やっぱ二流は二流だね」と思われたら、二度とチャンスはやってこない。


メインの司会者がインフルエンザで休んだときに、番組の司会を臨時で任されたサブの人とかも同じ。

その 1回だけのチャンスにどんな司会ができるかで、近い将来、メインキャスターの話が舞い込むかどうかは決まってしまう。


スポーツチームの補欠も同じ。レギュラー選手が試合前日にケガをしてまわってきた突然のチャンス。

その 1回のチャンスがモノに出来なければ・・・次のチャンスは果てしなく遠くなる。


「チャンスさえ与えてもらえれば、ボクは死ぬ気で頑張ります!」とか言ってる人は、その時点でダメなんだよね。

チャンスなんて与えられてない段階で「いつでも完璧にできる」状態にしておかないとダメなの。


「チャンスももらえないのに、そこまで頑張ってもしゃーない」なんて言ってる時点で、一生成功できない。

成功してる人はみんな「チャンスがまわってくる前に、自分の役割を超えたコトができるようになってる」んです。

そうやって、1回しか存在しない突然のチャンスをきっちりモノにしてる。

だからこそ成功してるってことが理解できないようでは、いつまでたっても成功できない。


★★★


社会人も同じです。新人は何年たっても「なんもできないヤツ」だと思われてる。

その時、突然、数年上の先輩が転職してしまう。


会社は後任を雇おうとするけど、次の人が決まるまでの間、“仕方ないから”その仕事を新人にやらせる。

そしたら・・・「できるじゃん!?」と分かってもらえて・・・というのはよくある話。

若くから大きな仕事を任され、どんどん出世していく人はみんなこのパターンです。


そういう人に対して「あいつは運がいい」とか「たまたま上司に恵まれてただけ」みたいに言う人がいるけど、まったくそうじゃない。

本人が「準備万端」になってなければ、チャンスは決して活かせない。

同じようなチャンスが転がり込んだときに「あいつはやっぱダメだね」と確認されて終わちゃう人と、一発で成功できる人の差は「運」なんかじゃないんです。

★★★

問題は、「チャンスはいつ転がり込むかわからない」ということ。

それは突然やってくる。

だから下積みを続けている人は、機会が与えられてから「ええっと、何をやればいいんだっけ?」とか言ってたら、その時点でアウトです。

チャンスが転がり込んだ時に、完璧に準備ができていること
そして最初から「おおおっーーー!」と思わせるだけの仕事ができるかどうか
それが勝負。


チャンスを活かせなかった例を挙げときましょう。ひとつは日本の食肉業界。

ある日、狂牛病問題で米国からの牛肉輸入がいきなりストップした。結果、市場は極度の牛肉不足に。

これは、輸入肉におされていた国産肉にとって大きなチャンスだった。でも彼らは何もアピールできなかった。

だって準備が全然できてないんだもん。

輸入肉に勝てるなんてまったく思ってないから、最初から諦めててなんの準備もしてなかった。

かわりにそのチャンスをモノにしたのがオーストラリアの食肉業界。

米国産の牛肉じゃないとダメだと思ってたファストフード店が緊急避難的にオージービーフを使い、「あれ? オージービーフも悪くないじゃん」と気づいてしまった。


お米でも似たようなことが。

だいぶ前だけど、日本が米不足で困った年があったんだよね。あそこで一気にチャンスをモノにできていたら、カリフォルニア米は今ごろ日本でもっと市民権を得られていたはず。

でもそれは起こらなかった。

代わりに、日本のお米とは種類がまったく違うタイ米を輸入して「ほーら、海外のお米は美味しくないでしょ?」と、国民の洗脳に成功した農水省の圧勝だった。


★★★


最初にチャンスがころがりこんで来た時に巧くできないと「ああ、やっぱりあいつにはまだ無理だ」と、明示的に確認されてしまう。

そしたら次のチャンスはもうこない。

次に誰かが突然に降板しても(突然に転職してしまっても)、チャンスは他の誰かにもっていかれてしまう。


こういうこと書くと、「よし、チャンスが転がり込む日に備えて勉強しよう!」と言い出すマジメな人もいるんだけど、

勉強なんてどうでもいいんです。

大事なのは「自分は、明日から代役がこなせるか」ということ。


自分の職場の「ちょっと上の、すごくできる上司や先輩」を思い浮かべればいい。

ある朝、会社に行ったら、その上司や先輩が突然の緊急事態で職場から離脱することになっていた。

そのとき自分は“その日から”上司や先輩の代役を務められるか?

なにごともなかったように、先輩や上司のかわりに適切な判断をくだし、戸惑わずに振る舞い、滞りなく仕事を回していけるか。

それが突然、問われるわけ。


チャンスはいきなり目前に現れる。

なにも考えず、いつもと同じように出社したごく普通のある日に。

その時、「あんな上司がいなくても、こいつさえいれば十分なんだな」とか、
「あいつが辞めたら仕事が回らなくなるって思ってたけど、コイツがいれば大丈夫じゃん」
って思わせられるかどうか。


みんなそういう時、自分のほうが上手くできるっていう自信ある?

なにをしなくちゃいけないか。どうすれば上手くこなせるか。ちゃんと、頭の中でシュミレーションできてる?

それができてないと、あなたは一生、チャンスをモノにできない。

先輩や上司の愚痴なんて、いってる場合じゃないんです。



そんじゃーね。

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