ここまで来たら三部作にしちゃえよ『ブラック・スワン』

ブラック・スワン』鑑賞。いやぁ話題になってますねぇ。どんだけアロノフスキーが好きなんだ!まぁぼくもだけど。

白鳥の湖」の主演に抜擢され、純白な白鳥と挑発的な黒鳥の二つを演じることとなったバレリーナが、役のプレッシャーや母親からの過剰な愛情、ライバルの出現により徐々に精神を壊していくというのがあらすじ。

『レスラー』がミッキー・ロークの人生を生き写したように、見事に『ブラック・スワン』もナタリー・ポートマンの役者人生を生き映していく。一人称で彼女から視点が離れることはなく、オーディションから本番までの毎日を朝から晩まで執拗に追い続け、それはまるでナレーションとディレクターの質問がない「情熱大陸」のよう。あえてジャンプカットを数カ所使うことで、(カットによって)場面が変わってないことを観客に誇示させ、一人のバレリーナが精神を病んで行く様子に完全密着してまっす感を出すことに成功。彼女の鬼気迫る演技を刻み込むかのようにカメラはひたすら寄り添い、手持ちカメラで不安定に日常が揺れ続け、彼女の行く末を正面からではなく、あえて背中から撮り続ける。

パーフェクト・ブルー』を下敷きにしてるだけあって、リアリティの中にも過度な仰々しさがあり、そこに入り込むか入り込めないかで評価は別れるだろうが、個人的に狂気に陥っていくくだりは『レクイエム・フォー・ドリーム』を彷彿とさせ、さらに自傷行為のシーンは『π』にも似ていたので、現時点でのダーレン・アロノフスキーの総決算という風に感じた。

白鳥の湖」をテーマにしながらも映画のタイトルが『ブラック・スワン』なのは、ブラック・スワンをものに出来ないバレリーナブラック・スワンの役そのものに飲み込まれていくからだ。これは汚れ役に果敢に挑みながらも清純派を抜け出せなかったナタリー・ポートマンに対するダブルミーニングのようなもので、見事に彼女は今回女優として良い意味で役に飲み込まれた。そのナタリー・ポートマンの演技と映画の中の役の演技がリンクし……そしてラストで彼女は……とこれ以上はネタバレになるので言わないが――――まぁね……これ……『レスラー』じゃないか!!*1

ウィキペディアの情報だが、元々『ブラック・スワン』は『レスラー』の姉妹編だったようだ。レスリングとバレエというまったく異なるものの本質は実のところ一緒であると監督は考えており、一人のパフォーマーと実際の役者をリンクさせることで圧倒的なリアリティを出したのである。

というわけで、当然ながら今までのアロノフスキー作品を追っかけてきた人にとってはごちそうになる作品なのだが、もうここまで来たらアロノフスキーには三部作として、『レスラー』と『ブラック・スワン』のあとに思い切って『ザ・プレイヤー』のようなハリウッドの内幕を暴いた作品を撮りあげてほしい。誰が演じるかはさておいて、その役者の人生をレスラーやバレリーナに生き写すのではなく、ハリウッドスターそのものとして、するどくえぐってほしいと思った、あういぇ。

あ、あとすごく怖い映画です。バレエの華やかな舞台裏を期待すると絶対にやられますので、お気をつけ下さいませ。

*1:©ワッシュさん