2011.03.18
# 経済・財政

浜田宏一イェール大学教授
憂国のインタビュー第3回  聞き手:高橋洋一

日本の新聞が日銀批判を語らない理由
浜田宏一イェール大学教授

第1回はこちらをご覧ください。

第2回はこちらをご覧ください。

浜田: 私は昨年、イェールからハーバードに出向のような形で行っていまして、ハーバードの有名な人10人くらいにインタビューしたんです。ジョルゲンソン教授は、「日本経済は円高のショックに対応して一つはコストを下げるしかない。経済効率を上げるしかないという重荷を負っている。」と言っていました。

 日本の場合、円高などで企業所得は減るんだけれど、雇用が減らない。だから結局、各企業がかなり無駄な雇用まで抱えてしまっているということなんです。

高橋: 見かけの失業率は高くないんだけど、実質的な失業率はかなり高い状態ですね。

浜田: ええ。企業が人を雇っていて能率悪いことをやっているわけです。損失が出るわけですけど、それをぐっと我慢しているということなんですね。

 でも、それって大変ですよ。どうして経団連なり同友会が出てきて政府に強硬に注文をつけないのか。一つには相手が民主党だからどうやっていいか分からないというのがあるのかも知れない。それから、あるいは経済界が国民経済のことを考えようという気風が薄れてきたということなんでしょうか。

高橋: 私の印象としては、今の経営トップにいる方々というのはある年代以上の方なんですよね。その人たちの体験というのは基本的には1990年よりも前の世界なんです。

 変動相場制が完璧じゃなかったり金利の自由化が行われていなかったりした時代ですから、当時の経済政策って財政政策しかないんです。ですから、それしか頭にない。

 それに90年代以降、マクロ経済政策っていうのはほとんどやっていない。だから金融政策が効くっていうことの理解がまったくできていないんです。

 要するに、固定相場制の時代の頭だけで政治家も考えて、マスコミや経営者も考えていると私は思いますね。

浜田: だから日本についていうと、これだけ迷惑を被る患者がいるのに、、医者がヤブ医者だろうとなんだろうと、誰も医者の腕前に抗議をしないような状態です。

 学者のほうも、日本銀行の世論操作がうまくいっているのかどうか、実物的景気循環論というのかな、それを唱えて、日銀の責任を追及しない人が多い。でも実物的景気循環論は物価が金融政策に即座に反応するから実物が動かないという結論が出てくるのに、日本の結構優れた若手学者は、貨幣は実物に聞かないということと、物価にも効かないことを両方主張する。日本銀行の歓心を買っているとしか思えない。

為替相場を利権にする人たち

高橋: ただ経営者は実は為替にすごく関心があるんです。しかし、「為替は介入で変わる、その権限が財務省が持っている」と思い込んでしまっているんですね。

 「為替は金融政策によって変わる」というマネタリーアプローチがほとんど知られていない。それは私は非常に不思議ですね。

浜田: 当時の日本では、白川さんがシカゴから持ってきた新理論だったんですね。

高橋: ええ。ただ、今はマネタリーアプローチはかなり一般的な理論になっていますよね。現に、ソロスだってマネタリーアプローチを投資に利用しているわけですから。

浜田: そうです。ポートフォリオアプローチも基本的には同じ考え方です。

高橋: 世界中で、誰もが使っている理論なんだけれど、為替相場に金融政策が効くということは知識人や有識者も言わないし、ましてや財務省は絶対に言わない。もちろん財務省の中にもこの理論を知っている人はいるんですけど、絶対に言わないんです。

 というのも、介入以外に為替調節の手段があるということが公になると、財務省の権限を失っちゃうんじゃないかと思っているからなんです。さらに、その権限を背景にして、天下りもあるわけです。

浜田: 財務省による為替介入はもちろん為替市場にある程度の影響を与えるわけですが、高橋さんが書かれたものを読むと、そのときに何%か稼ぐ人がたくさんいるらしいですね。そこにすごい利権があると・・・。

高橋: ええ、財務省が持つ外為特会自体が言ってみれば一つの大きなファンドで、それを各金融機関の人が運用しているわけです。そこで財務省が外為特会を利用して為替相場に介入すると、運用している金融機関に手数料のような形で利益が生まれるわけです。しかもこれが100兆円×数%というレベルですから、かなり巨額の利益になります。

 変動相場制を採用している先進国でこんな大きなファンドを持っている国は日本以外にはないです。日本はあり得ないことをやっています。

 だから「金融政策で為替相場は変わるんだ」ということをちゃんと理解するなら、日本銀行に任せたで終わっちゃうんです。それはでもやらない。

浜田: 日銀の職員がどれくらい短資会社に天下りしているのか分かりませんが、短資会社の利益が日本銀行の利益に繋がっているということになると、短資会社はいくら実質金利が高くても名目金利が高くないと稼げないから、名目金利の水準を保つことがどうしても必要になってくる。

 だから市中銀行が日銀当座預金に積んでおかなければならない法定準備を上回る部分---超過準備につける利息も0.1%なんですよね。日銀銀行がほんの少しだけ残しておくわけです。

 そういうところを見ていると、利害関係というものもものすごく重要です。アイデアが重要と言っても、利害関係に操られたアイデアが影響していると考えたほうがいいのかな・・・。

高橋: 中央銀行にとって、市場のオペレーションは必要です。しかし市場というのは二種類あります。一つがインターバンク市場という銀行の中心の市場。もう一つがオープンマーケットという債券が中心の市場です。

 しかし日本人はなぜか、従来から日銀はインターバンクを中心にいろんなことをやるものだと思い込んでいる。そうじゃない。どっちでもいいんですよね。どちらかというと、むしろ広いオープンマーケットのほうがいいくらいです。

 オープンマーケットを中心にやっていると、インターバンク市場の仲介業者である短資会社の存在価値がなくなっちゃう。だから日銀はなかなかオープンマーケットのほうに移らないんです。

 日銀のオペレーションが、いわば身内である短資会社が介在するインターバンク市場だけというのは不透明だっていうのはずっと以前から指摘されている問題なんです。

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