私的録音録画補償金制度とアナログチューナー非搭載DVD録画機

 アナログチューナー非搭載DVDレコーダが私的録音録画補償金制度著作権法30条2項及び施行令1条)の対象であるか否かを巡って、第1審(東京地判平成22年12月27日(平成21年(ワ)第40837号))、控訴審知財高判平成23年12月22日(平成23年(ネ)第10008号))のいずれも、私的録画補償金の指定管理団体の敗訴という結果に終わっています。この事案は注目を集め、評釈も出始めています(潮見先生のNBL974号、小泉先生のL&T55号など)。

[争点]
 争点は、

(1)アナログチューナー非搭載のDVDレコーダは、私的録音録画補償金制度の対象であるのか(アナログチューナー非搭載のDVDレコーダは、法30条2項の政令で定める機器(特定機器;法104条の4)に該当するのか)

(2)  法104条の5の下、DVDレコーダの製造業者は、ユーザ(購入者)から補償金を徴収して指定管理団体(法104条の2)に支払うなどの法的義務を負うのか
という点です。

 (1)については、施行令1条2項3号が「アナログデジタル変換が行われた影像」との用語を使用し、「機器内で」アナログデジタル変換が行われた影像とは明示していないことから、デジタルチューナーでデジタル放送を受信して録画するレコーダも特定機器に含まれるのか(つまり、いずれかの段階で−例えばレコーダの外部で−アナログデジタル変換が行われていれば足りるのか)、という点が争われました。

 (2)については、そもそもレコーダのユーザ(個人)が補償金の支払義務を負っており、製造業者には協力義務を負うとされているところ(法104条の5)、この協力義務は法的拘束力があるのか、という点が争われました。

 1審は、(2)について、製造業者の法的義務を否定し、指定管理団体の請求を棄却しました。その一方で、傍論ながら、(1)について、アナログチューナー非搭載のDVD録画機は特定機器に該当すると判断しました。
 控訴審は、(1)に関し、施行令1条2項に3号が追加された当時の状況を考慮して、施行令1条2項3号の特定機器とはアナログ放送をデジタル変換して録画するレコーダであると判断し、控訴を棄却しました。その一方、(2)に関しては、指定管理団体が製造業者に対し補償金を請求することはできないものの、協力義務違反によって被った損害を請求する可能性を認めています。

私的録音録画補償金の支払義務(法30条2項)と協力義務(法104条の5)]
 法30条は、私的使用のための複製に関します。私的使用のための複製には、著作権の効力は及びません(法30条1項)。デジタル方式の録音録画による私的使用のための複製も、同様です。しかし、私的使用のための複製が合法であり、各個人での複製はわずかな量であったとしても、全体としては多量の複製が行われます。特にデジタル方式の場合、権利者への影響が大きくなります。そこで、補償金支払いによって金銭的な解決を図るため、私的録音録画補償金制度が創設されました(法30条2項)。
 法30条2項では、補償金の支払義務を負う者は、複製を行う者(つまり、各個人)です(法104条の4も参照)。補償金の対象となる機器及び記録媒体の製造又は輸入業者は、補償金の支払の請求及び受領に関し「協力」しなければなりませんが(法104条の5)、業者が支払義務を負っているわけではありません。

[録画に関する「特定機器」]
 法30条2項では、特定機器を
(i)デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送業務のための特別の性能・・・を除く。)であって、
(ii)政令で定めるもの
と定義しています。
 この政令とは、施行令1条です。施行令1条のうち1項が録音に、2項が録画に関します。2項のうち3号が、DVDレコーダに関します。

「三  光学的方法により、特定の標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像又はいずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像を、直径が百二十ミリメートルの光ディスク(レーザー光が照射される面から記録層までの距離が〇・六ミリメートルのものに限る。)であつて次のいずれか一に該当するものに連続して固定する機能を有する機器
イ 記録層の渦巻状の溝がうねつておらず、かつ、連続していないもの
ロ 記録層の渦巻状の溝がうねつており、かつ、連続しているもの
ハ 記録層の渦巻状の溝がうねつており、かつ、連続していないもの」

施行令1条2項3号では、「アナログデジタル変換が行われた影像」を連続して固定する機能を有する機器を定義しています。しかし、アナログデジタル変換がどこで行われるのかについて、明示的には規定されていません。
そこで、指定管理団体(原告及び控訴人)は、機器の内部において変換されているか否かは関係ない、デジタル変換済みの映像を受信して録画するレコーダも特定機器に該当すると主張しました。
製造業者(被告及び被控訴人)は、「アナログデジタル変換が行われた影像」とは、機器内部でアナログデジタル変換が行われた影像と解すべきであり、アナログチューナ非搭載のレコーダは、機器内部でアナログデジタル変換が行われないのだから、特定機器には該当しないと主張しました。

[「アナログデジタル変換が行われた影像」の解釈]
 小泉先生は、指定管理団体の解釈が素直な解釈と述べ、「本判決が示した施行令の解釈は、政令の解釈として許容される範囲を逸脱しているのではという疑問が禁じ得ない」とまで述べておられます。
 その一方、潮見先生は、控訴審判決の解釈を支持されています。そして、控訴人主張のようにどこかでアナログデジタル変換が行われていたら足りるとするなら、法30条2項は、(i)の要件(デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器)のみで足り、(ii)の要件(政令で定めるもの)で「絞り込み限定したことが換骨奪胎される」、補償金の対象について激論を重ねてきた従前の審議会等での審議は「時間とコストをかけただけの無用のものであったということになりかねない」と批判されています。
 
 個人的には、控訴審の判断の方が納得がいきます。
 そもそも、補償金請求権の支払義務者は個々のユーザであって、製造業者ではありません。製造業者が私的使用のための複製をおこなっているわけではありません。補償金がユーザから指定管理団体へと流れる具体的なスキームとして、製造業者が機器の代金に補償金を上乗せするという方式が採用されているだけです。このスキームについては、中山先生が、「事実上全業者が拒否をしないという前提あるいは合意の上に成立しており、きわめてもろいガラス細工のような制度」と表現されているとおりです。
 直接の当事者ではない製造業者がスキームに参加して協力するためには、関係者のコンセンサスが必要です。そのため、著作権審議会では、実際に世に出る製品について特定機器として政令で指定するか否かについて、関係者の議論がなされています。確かに、施行令1条2項に3号が加えられた時点で、将来のデジタル放送が予想されてはいましたが、具体的な商品の販売の目途が立っていたわけではありません。施行令1条2項3号が、将来発売されるはずのデジタルチューナ搭載機まで一括して政令で指定するという趣旨であったのなら、審議会が紛糾して合意に至らなかったことは容易に予想できます。デジタル放送については、コピーコントロール機能が別途付加できるのですから(ダビング10)、製造業者としては、なぜ補償金制度の対象になるのか、なぜ協力しなければならないのかという疑問は生じるでしょう。