My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

米国ではグルーポンの何が問題になってるのか

2011-02-13 12:25:19 | 5. アメリカ経済・文化論

最近日本でも話題のグルーポンであるが、米国では先週のスーパーボウルでやらかしちゃって大変なことになっている。

先週日曜(2/6)のスーパーボウルでグルーポンが出したTVコマーシャルが、チベット騒乱を利用したものだったため、米国中の人々の批判を買っている。
スーパーボウルとはアメフトのファイナル。
日本で言うと、ワールドカップ日本代表が決勝まで勝ち残るレベルの国民的イベント。
その試合中3回に渡って流されたというCMの内容は、こういうものだ。(Lilac 訳)

美しいヒマラヤ・・・、世界で一番美しい場所のひとつだ。
そこに住むチベットの人々は今大変な目にあっており、彼らの美しい文化は失われようとしている。
でも彼らは、驚くほどうまいフィッシュカレーをいまだに食べているんだ!
グルーポンのクーポンを使えば、シカゴのヒマラヤレストランで、このフィッシュカレー、30ドルのところを、なんと15ドルで食べられるよ!
Save the money - Online great deals near town -Groupon.com

YoutubeではCM映像がほとんど削除されてしまってるが、下のウォールストリートジャーナルのページに保存されている。(発見しました。すぐ削除されるかもですが)

はっきり言ってまったくチベットを持ち出してくる脈絡が無く、何やってんだグルーポン・・・という感じ。
このCM直後、Twitterは@Grouponで炎上した。

Groupon's Super Bowl Ad Quickly Draws Backlash - Wall Street Journal

アメリカではチベット騒乱は現在のエジプト革命のように、何時間もテレビがジャックされ、国民皆が注目する事件だった。
そんなチベット問題を、こんな気軽にCMにしてしまうことに嫌悪感をもつアメリカ人は非常に多かったということ。

グルーポンへの批判が大きくなったのは翌日。
CEOのAndrew Masonが「謝罪しない」態度を見せた上、「そういうつもりでやったんじゃない!むしろ皆が良く受け止めるべきだ」という言い訳をした。
そのため、多くのメディアが「この反応ひどくない?謝れよ」みたいに怒りを示した。
(その後2月10日に最終的にCEOは謝罪を出している。)
記事を読む限り、確かにこのCEOの対応は余りに人々の反応に無頓着と言うか、人が何に嫌悪感を覚えるかに不感であるように思える。(日本のおせちの謝罪もそうだったが・・・)

Groupon Issues a Non-Apology - The Big Fat Marketing Blog
The Real Problem With That Groupon Super Bowl Ad- Forbes
Groupon Pulls Controversial Super Bowl Ads - Huffuingtonpost.com


グルーポンのいったい何が問題なのか

こんなちょっとしたCMで、これだけグルーポンへの不快感が巻き起こるのは、
それ以前から、グルーポンに対する問題意識を持つ人々が多かったからだ。

この「グルーポン」という会社は何をやってるかというと、
レストランなどの店舗に5割引などの大幅割引クーポンを発行させ、
そのクーポンをソーシャルネットワークを活用して沢山の人に知らしめるものだ。
広告費など出すのが大変な中小店舗から見ると、このネットワークが魅力的、ということ。
店側は、グルーポンのクーポンで売り上げが上がった場合、手数料をグルーポンに支払う。

米国でのGroupon問題を整理すると、主に二つの問題に分かれる

1) 違法クーポンの発行など、グルーポン内部でちゃんとチェックすれば起こらなかったはずの問題
2)  チェック機能の問題でなく、グルーポンのビジネスモデルそのものから生じる問題

1)は米国では、州ごとにクーポン券の発行に関する法律が違っていて、有効期間が短いクーポンは違法だったりなどで、グルーポンが民間や州に訴えられてるなど。
カリフォルニア(→記事はこちら)やシカゴなど、係争中のものがいくつかある。

また、今週に米国で起こった「グルーポンのクーポンより、店の割引の方が安かった。グルーポンは差額分を支払え」なんて二重価格問題も、(→記事はこちら)最初からチェックしていれば生じなかった問題だろう。

これらの問題は、グルーポン自体が急激に成長し、組織的にガバナンスが利いていないために起こっている可能性が高い。
開始たった2年でサービスを22カ国170都市に広げ、世界で2000人(2010年8月時点)体制に拡大。
これだけの急成長では、どうしてもチェックが甘くなる、新興ベンチャーにはよくあるケースだ。


本当の問題はグルーポンのビジネスモデルが店と客の長期信頼関係を壊すものだということ

しかし本当に問題なのは2)のビジネスモデルそのものの問題だ。
これは、仮にグルーポンの体制が落ち着いたとしても、起こるのが避けられない。

こちらのサイトに店側から見た問題点が書かれているが、それぞれ客側から見た問題にもつながる。
Top 10 Business Disadvantages To Advertise on Groupon - Daily Deal Site
まとめると次の4点だ。

1. 店にとってコストがかかりすぎる
通常米国のグルーポンは、店に50%オフのクーポンを発行することを求める。
その上、通常売価の2-3割の手数料を求める。
結果として、店は同じ製品・サービスを提供しても、グルーポンなしで販売した場合の25%の収入しか入らない

その結果、店は使う食材の品質を落とし、それが顧客の不評を買う、という悪循環に陥る。
個人ブログなどを読むと、グルーポンのクーポンをレストランに持っていたところ、店にはぞんざいな扱われ方をし、質の悪い食材を使った食事を出されて憤慨した、というケースが多々出てくる。(→ 個人ブログの例
グルーポンより店の問題とも言えるが、マージン2割程度でなりたってる中小店舗から、7割も取るのはやりすぎ。
結局、店も損するし、客も嬉しくない、グルーポンだけ得をするという一得二両損になるのだ。

2. 価格破壊により店のブランドイメージが破壊される
価格を大幅に落とすことで、品質を落とさなくても、そもそも店のイメージは破壊される。
化粧品や薬が半額で売られていたら、効き目を疑うのと同じだ。
なじみの客から見れば、店への信用を失ってしまうだろう。

以上二つは、グルーポンが「50%割引」なんて大げさな割引価格をやめ、
「一品サービス」とか「1割引」くらいのオファーにとどめれば、徐々に解決するだろう。
ただし、そうするとグルーポン自身がその辺のクーポンサービスと差別化がしにくくなるのが次の問題。

3. 間違ったセグメントの顧客を呼び寄せる
そもそも割引クーポンにつられて遠くから来る顧客が、本当に店が望む顧客なのかということ。
グルーポンがターゲットとしてるような中小の店舗は、地元のお客さんに長いことリピーターになってもらうことで成り立つ商売だ。
クーポンにつられて違う町から来た一見客が店を占拠し、地元の客が離れていき、一見客もすぐに来なくなるという逆効果につながりかねない。
地元客から見ても、なじみの店に行きにくくなる。

グルーポンがオンラインネットワークを活用して割引クーポンを配るモデルを続ける限り、この問題は続くだろうから、本質的な問題だ。

4. 短期間にものすごい数の客にジャックされる
これは、グルーポンがソーシャルネットワーク全体に、短期間限定のクーポン情報を一気に投下することで起きる問題だ。
その結果、パパママでやってる地域の小さな美容院から発行されるクーポンが1週間で5000枚とかに達し、予約が殺到する。
一日せいぜい20名程度、一週間で140名程度しかこなせない美容院で5000人はさすがに無理だ。
レストランでも、その一週間やってくる全ての客がグルーポン客などとなりかねない。
収益に大きなダメージを与えるだろう。
そして彼らはクーポン期間が過ぎると、田畑を荒らしたイナゴのように去っていくのだ。
地元客もいったんは寄り付かなくなるだろう。店と客の信頼関係にひびが入るというものだ。

これは個人の居住地区などをより特定してじわじわ配信、クーポン発行枚数の制限、クーポンの割引率とともに期間の長期化を測れば、通常のクーポンと同様、問題はなくなるだろう。
ただし、そうするとグルーポン自身の競合差別化が難しくなる。

以上、まとめると米国のグルーポン問題は、次のことに集約される。

グルーポンが他のクーポン業者と差別化を図るために必要な、クーポンの大幅割引や、SNSへの大量投下が、ターゲットである中小店舗にとって最も重要な、店と顧客の長期的な信頼関係を破壊している

グルーポンがそれでも店に活用されるのはなぜか、というと、クーポン客とはいえあれだけ沢山の客が来るという反応が分かりやすく、広告効果を実感できるからだ。
また広告費をキャッシュで出せない中小店舗が、先に上がる収益から払えるというのも魅力だと思う。
それがグルーポンの他のサービスとの大きな差別化要素である。
しかし、それは店と客には結果として不利益となる、諸刃の剣なのだ。

仮に、このような店と客にとって不利益となる要素でしか、グルーポンが競合差別化できないのだとしたら、ビジネスモデルそのものが問題ではなかろうか。
瞬間的に店と客にダメージを与えながら、とにかくレバレッジかけて急成長し、デファクトになるのが鍵だと思っているならもっと問題だ。

SNSを活用してクーポンを配信するとか、アイディアそのものは面白いと思っている。
店と客とグルーポンの三者が得する三方得に持っていける、持続可能なビジネスモデルに柔軟に変更して行って欲しい。
個人的には応援したいのだが。

(追記1) 何か面白いアイディアや提案がある方はコメント欄にどうぞ。
基本的に、クーポン以外の収益源の早期確保が鍵だと思います。
日本のぐるなびやリクルートのように、中小店舗へのコンサルやIT指導に深めていくなんてのもそのひとつですが、人材確保と差別化が困難。

(追記2)Twitterで @gshibayamaさんからGrouponの分析レポートを送っていただきました。
Sharespost Groupon Report

(追記3)フラッシュマーケティングそのものが問題と言うより、個人的には割引率やタイミングの設定主体の問題な気がします。店側が、もっと狭い範囲で主体的に割引率を設定できればもう少し成功するように考えています。

(注)この記事は、米国のグルーポンの状況について、主に米国メディアの情報を元に状況を分析したものです。
日本や各国のグルーポンが出しているサービスやビジネスモデルは異なっている可能性もあります。

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23 Comments

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はじめまして (cascade10)
2011-02-13 13:03:31
そもそもチベット人は魚は食べないのだとか。
ヤクとか大きな動物ならみんなで分けて食べられるけれど
魚は小さいから一食で何尾も殺さないといけないので抵抗が
あるんだそうな。
そういう意味でもこのCMは理解がないですねぇ。
Unknown (はじめまして)
2011-02-13 14:13:05
私もグルーポンは現状のビジネスモデルでは、これからはどうにもいかなくなると思います。

特に日本のグルーポン・ジャパンはより難しくなると。

どの程度、米国と日本のグルーポンが関係性があるのかはわかりませんが、日本の方は光通信の残党がトップで指揮しているので、今のままでは明るい将来が全く見えません。

彼らのやり方は軍隊式というか、それ以上に強権的な暴力団のフロント企業そのまんまです。

彼らの限度を超えたやり方を色々と目にした立場から思うと、適切な経営陣に変更しない限り期待は持てません。

今のままで行くと、稼ぐだけ稼いで、あとはとんずらするのが目に見えています。
Unknown (honten)
2011-02-13 14:41:28
これ、本当に叩かれていますね。実際BayAreaのKCBSというメジャーなラジオを聞いていたのですが、実際worstなCMということで槍玉にあがっていましたし。

一方で私もスーパーボールを見ながら見ていたのですが、あまり印象に残らなかったのも事実です。日本のおせち騒動みたいなレベルにまではなってはいないかなという印象です。
チベット騒乱?? (freedom)
2011-02-13 15:47:46
このCMを中国人民解放軍がチベットを軍事制圧したことに始まる数々の戦闘やゲリラ活動、騒乱に直接結びつけるのは、いかがなものかと思います。CEOが難癖だというのもわからないことはないですね。チベットが秘境であることを利用しただけではないですか。これがpolitical correctnessに抵触するなら何もできませんね。
グルーポンが、何かを作りだしたわけではなくビジネスモデルだけで、たった2年で3,000億円もの企業に成長したことへの嫉みで、毎年アメリカ人が注目しているこのCM枠に入れたことが気に入らず、むしろそうした人がチベット問題を利用してグルーポンを攻撃しているということでしょう。グルーポンはそこまで考えて慎重にやるべきだったということは確かですが。
ビジネスモデルによる営業の現場での数々の問題は別の問題としてきちんと指摘していくのがマスコミのあり方だと思いますね。
日本でもお節事件以来、追跡報道番組等でこの記事と同じような様々な問題が発生していることが報道され、グルーポンの営業現場の問題、本社からの拡大への過大な締め付け、安易に利用する店側の問題等指摘されているところです。もちろんグルーポンも見ているでしょうから今後、改善していくのではないですか。元々ビジネスモデル以外に何もない企業なので、そうでなければなくなるだけのことです。
現場雑感 (日本人)
2011-02-13 16:36:54
日本のフラッシュマーケティングの現場にいる者です。

日本のグルーポン市場が伸びたのは潜在ニーズに火がついたからではなく、
単純に「ゴリ押し営業でクーポン取って、ゴリ押し宣伝で売りさばいてきた」のが要因かと。

1月の各社の売上減少を「おせち事件が原因」と論説してるメディアが多いですが
あんな事件は関係なく、ゴリ押しで進めることに限界が出てきただけなので
Lilacさんのおっしゃるように「クーポン以外の収益源の早期確保が鍵」だと思います。
よく退蔵益で儲ける、みたいなコメントを見ますがそれもたいしたことありません。

たとえばグルーポン系の某サイトは、クーポンの手数料ではなく代理店登録料で稼いでいる。
クーポン営業を代理店にやらせて売上に応じた手数料をバック、先に登録料(月額固定)を
払ったらさらに上乗せでバック、というモデル。
高い手数料率をエサに代理店登録をさせれば、クーポンの売上に関わらず固定収入が見込めるので
サイト運営側としてはかなり美味しいです。

1~4のデメリットはその通りかと思います。
グルーポンの本領が発揮されるのは、客単価が高くない飲食店(400円程度のクレープ屋)とか
穴があくくらいならタダでも来て欲しい演劇チケット、イベント、コンサート系
料理教室・乗馬体験・郊外の遊園地などですかね。

外資の金と、日本の大企業の出資をテコにゴリ押しで市場(といってもせいぜい数十億/月
程度ですけど)を広げてきましたが、特に資本も既存事業もない弱小サイト(150サイトのうち過半数)は
向こう半年でバタバタ潰れていくかと思います。
わたしのところもウン億と金突っ込んでましたが、
にっちもさっちもいかなくなり、最近盛大にリストラ発表しました。
潰れるのも時間の問題、って感じです。
(まあ、うちの場合はグルーポンがどうこうというより
うっかり大金掴んだアホな経営陣がハンドル仕切れなかった
というほうが大きいですが。。。)

グルーポンジャパンに関しては、現場の不満が『転職会議』というサイトで噴出してて面白いので
お時間があれば眺めてみるのも一興です。
Unknown (はじめまして)
2011-02-13 17:00:19
面白く、読ませていただきました。

先の方のコメントに、
>>今のままで行くと、稼ぐだけ稼いで、あとはとんずらするのが目に見えています。
とありますが、僕も同感です。
というより、最初からそのつもりじゃないかと思ってます。

それにしても子供でも分かりそうなデメリットにも関わらず、なぜ店側は手を出すのでしょうね?
やっぱり、現金に目がくらむのでしょうか?
(クーポンが売れれば、先にお金が入るんですよね)
そうすると、傾きかけた店ほど手を出しやすく、グルーポンもそこに抜け目なく突け込むという構図も(全体ではないにせよ)あるのでは…
前払いクーポンである件 (zosojh)
2011-02-13 18:40:19
「前払いクーポン」の弊害については、アメリカでは言及はありませんか?
Unknown (yamat0jp)
2011-02-13 18:48:19
 グルーポンが何しているのか分かりませんでした。記事を読んで得した気分です。ありがとうございました。
別に店舗側が判断すれば良い話。 (kazuhirowakao)
2011-02-13 19:28:19
書かれていることは理解できるし自分もそのように思ってはいるのだが、問題とされている1-4の課題は別にグルーポンが騙して行っていることではない。
そのため、利用する店舗側が自身のビジネスの倫理に従って委託する・しないを判断すれば良い性質のもの。

そのことでグルーポンを叩くのは筋違いでないかと思います。
(もちろん、検査体制や二重価格など統制出来ていないトコロは問題ですが)

使うだけ使っておいて、意にそぐわない(客層や収益性)とクレームを付けるのはクレーマーそのものであり、そのような小売店側(そしてグルーポンを使わざるを得ないビジネス)が努力不足とされるべきではないでしょうか?
SNSで有料クーポンは無理がある (a_micchan)
2011-02-13 19:33:45
twitterでこのHNでツイートしている者です。

良くまとめられていて読みやすかったです。

SNSは「抑制が効かない」という欠点があります。いったん拡散が始まったら歯止めが効きません。
その状態で有料クーポンを売ろうとしても、枚数の抑えが効かなかったり、クーポンの妥当性を計りきれないまま売れてしまい後でトラブルになったりと、トラブルを誘発しやすいビジネスモデルになってしまっています。

そもそも、今のビジネスモデルは、以下4点の理由より、一昔前問題になった(今でもmixiなどでくすぶっている)「コンサート型チケット詐欺」にかなり流れが酷似しています。

1)購入希望者に考える時間を与えない。焦燥感を煽る仕組みになっている。
2)従って、クーポンの内容が妥当かどうかの判断がつけ辛い。
3)申し込んだらキャンセルが出来ない。
4)1人あたりの「被害額」が少なく、泣き寝入りが起き易い

グルーポンのビジネスモデルはこれを参考にしたのではないか?とすら思えてしまいます。

従って、ぐるなびやホットペッパーのような「後払い型クーポン」(クーポン発行時点で金銭の動きが無く、店側は何も義務が発生しない)にするのが、唯一のトラブル回避手段かと。これだとフラッシュマーケティングになりませんけどね。

あと「人が何に嫌悪感を覚えるかに不感であるように思える」というくだりもまさに同感。最近の(主にネット)ビジネスで名を挙げている若手経営者のほぼ全員がこのような状態です。
だから、経営者がブログで失言を平気でしてしまう。以前の経営者には有り得なかったものです。

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