火力発電所が壊れていくというデマについて

電気屋が語る「電気は足りていません」の呟き - Togetter
こちらのまとめでは『火力をフル稼働させてメンテナンスができていない・老朽火力に無理させているから事故の確率が上がっていて、現在の電力供給は綱渡りだ。電力は「足りていない」』という話をしています。
前にブコメにも書いたけど、こういう自称分かっている人*1の根拠の明示の無い情緒的発言*2をありがたがるのは原発事故から2年も経つのですからそろそろやめるべきでないでしょうか。
では火力発電所に供給上の問題が起きているのか*3というと、火力発電所のトラブル発生件数が増えているという報道はいろいろありますが*4、電力不足につながる最も重要な計画外停止の平均値や最大値がどうだったのかという点については恐ろしいほどに報道もありませんし、たとえばこのまとめの人のように『現場の技術者に感謝を』なんてほざく人もそのことには言及しません。
では実際はどうだったのかというのを需給検証委員会報告書を読んでいくと

需給検証委員会報告書(2012年度冬)
a)計画外停止の状況
今夏(7月〜9月)の計画外停止の状況を表3、図1に示す。需給ひっ迫が想定された北海道電力関西電力四国電力及び九州電力管内の最大需要日の計画外停止実績は、いずれも、昨夏の計画外停止の実績を大きく下回った。(計画外停止が予備率に与える影響(全電力管内の平均)は2.9%と昨夏並であったが、需給ひっ迫が想定された関西電力管内をはじめ6電力管内で昨年実績を下回った。)(表4、図2参照)
火力発電の稼働率が上昇する中、昨夏に比べて計画外停止が少なかった理由について、各電力会社からは、巡回点検の件数の増加や豊富な知識・経験を持つOB社員の活用による設備の異常兆候の早期発見や休日・夜間を利用した早期復旧などが寄与したものと考えられるとの報告があった。

なお、本委員会において、運転開始後30年以上を経過した火力発電の老朽化に伴い計画外停止が増加する可能性が指摘されたが、少なくとも今夏の実績を見ると、老朽火力発電と比較的新しい火力発電の停止実績には、顕著な差異があるというデータは示されなかった。
ただし、特に北海道電力管内の30年超の石油火力については、他と比べて計画外停止等が多かった(表5参照)。平時にピーク電源として比較的短い時間使用していた火力発電を長時間使用したことにより、計画外停止の発生確率の上昇や発電効率の悪化等どのような影響をもたらすかは不明であり、不測の事態に備えた点検・補修に万全を尽くす必要があると考えられる。

というわけで、火力発電自体は昨年の夏と比べて800万kWも増えたのに対して、計画外停止による停止分の最大値が逆に24万kWも減り、計画外停止の平均値も71万kWも減る*5というすばらしい実績を作りました。
まさに今年度「電力が足りていた」というのはこういった実績を作り上げた現場の技術者のおかげであり、老朽火力だから、火力をフル稼働させているから、火力発電所が壊れそうだという現場の技術者の努力を貶すようなデマを信じてはいけません。

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*1:この人は電気工事屋であって、発電所に詳しい人ってわけではないみたいですし2SC1815 on Twitter: "@Mahora115 ご紹介は有り難いのですが、私は元電気設備屋で、プラント屋でも発電関係の技術屋でもないので、ちょっと判断は出来ないです。取りあえず、東電は新火力発電所は建設する様ですね。原子炉4基お釈迦ですし、残りの福島県の2+4基が再稼働させてもらえるか不明なので代替でしょ"

*2:こういう発言っていつも誰得なんだか良く分からない比喩はいっぱいなのに、データはほとんどしめされませんよね。不思議ですねwww

*3:故障率が上がっているのか

*4:北海道電力、火力発電所のトラブル原因解説を掲載 - 家電 Watchや産経・読売の報道等なお北電の発表でも計画外停止による供給力の低下が増えているという記述はありません。

*5:需給検証委員会報告書の表より計算